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星5SSRランク美少女が、無課金な僕にメチャクチャ課金してきます  作者: 黒鉄メイド
4回転目 無課金系美少女&配布系美少女
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25.メインイベント:【その言葉は――】

 その後のことを、少しだけ話すとしよう。


 新学期も始まった九月。


 週の初めの金曜日に、僕は結香からある誘いを受けた。


「七芽くん……明日お父さんと会うことになったんだけど、よかったら一緒に来てくれないかな……?」

 

 結香は複雑そうな顔をして、目を泳がせては口を何度もつぐんでいた。


 念願の父親と初対面をするということで、緊張や不安があるのだろう。

 元はと言えば、僕が取り付けた約束だし、最後まで見届けることにしよう。


「いいぞ、最後まで付き合うさ」

「う、うん! ありがとう! でもいきなりどうしたんだろうね。前までは会ってくれなかったのに」

「さぁーて、どうしてだかね」






 そういう経緯から、九月初めの土曜日。

 僕と結香は指定された場所まで行くことになった。


 千葉から電車を経由して東京まで向かい、辿り着いた場所とは――、


「て、ここ……9673プロダクションじゃねぇーかよ……」

 

 辿り着いたのは、見慣れた高層ビルである9673プロダクション。

 これで三度目の訪問のため、最早建物に驚きも感じはしない。

 

「てか、娘と話すのにここ選ぶとか……。親ならもっとこう、なんかあるんじゃねぇかよ……」

 

 てっきり何処かの喫茶店とかで、お茶でもしながら話すのかと思ったのだが、どうやらそんな感じではなさそうだ。


「仕方ないよ。お父さんは社長さんだし、忙しいのはよく知ってるから。それに……むしろここの方が私としても都合いいしね」

「ん?」

「さあ、行こうか! 七芽くん」

「お、おい、そう引っ張るなっての……!」


 結香の謎の発言が気に掛かったが、それを聞くよりも先に、結香は元気な笑顔を見せて僕の手の引いて歩き出した。


 三度目ということもあって、中の広い吹き抜けたフロアも見飽きたものだ。

 結香は受付のお姉さんの許可をもらい、僕の方まで戻ってきた。


「お待たせ、許可下りたよ」

「なら僕はそこら辺で時間潰してるからさ。終わったら呼んでくれよ」

「え、でも……」

「せっかく家族水入らずで話しするんだろ? なら、僕がいても邪魔だよ。二人でしか話せないことだってあるだろ?」

「それは……そうだけど……」


 結香はまだ引っかかるのか、首を縦に振ろうとはしない。

 自分から誘っておいて、僕を放っおくことにどこか後ろめたさを感じているのだろう


 結香からはそうなのだろうが、元はと言えば僕が勝手に黒波墨汁と決めたことだ。

 一緒に来るのも僕が決めたことだし、結香が悪く思う必要もない。


 と、本当のことを言うと、それはそれで色々と面倒なので、適当に誤魔化すことにしよう。


「ようやく望みが叶ったんじゃねぇか。なら思いっきり、これまでの話したかったことを言ってこいよ。そのために、ここまで頑張ってきたんだろ?」

「……分かったよ。それじゃあこの埋め合わせは必ずするから、楽しみにしててね♡」

「ああ、期待してるよ」


 エレベーターホールに向かう結香を見送った後、僕は目黒区周辺を適当に散歩することにした。

 前回、前々回などは楽しむ余裕も、状況でもなかったために、周りの景色など気にしてもいなかったが、今見れば色々と新鮮だった。


 有名な目黒川の横を歩きながら木々を見て回ったり、瀧泉寺で賽銭を入れて「これからはなるべく厄介ごとに巻き込まれませんように」と、簡単な厄除けを願ったりしたりと、思いのほか楽しい時間を過ごすことができた。


 それから約一時間後。

 結香から話し合いが終わったとのメッセージが届いた。


 それを見て、急いで9673プロダクションを戻ろうとした時、もう一件メッセージが送られてきたのが目に入り、再びスマートフォンを見る。


[悪いんだけど、最上階まで来てくれるかな? お父さんが七芽くんにお話があるって言うの]


「……やっぱり今度、ちゃんとした厄除けしてもらおっと」


 僕は急な腹痛に襲われつつ、重たい足取りで9673プロダクションに戻ることにした。



◇◇◇



「失礼します」

 

 軽くノックをし、結香と黒波墨汁がいる社長室の扉を開けた。

 扉を開けたと同時に、後ろに手を回しながら立つ結香が、僕の方に振り返る。


 僕を見るやいなや、彼女は申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめんね、七芽くん……。呼び出しちゃって」

「いや、それは別にいいんだけど……。僕に何の用ですか? 黒波さん」


 黒波墨汁は席を立ち、背を向けながら全面に貼られたガラス窓から目黒区内の街並みを眺めていた。


「それは後で話す。それでだ、結香。本当にいいのか」


 黒波墨汁は、結香の方を向いて、真剣な目つきで彼女の言葉を投げた。


 なんだ? 一体何の話をしているのだろうか?


 話の流れが見えない僕を余所に、結香は黒波墨汁の言葉にしっかりと首を縦に振ってから、はっきりと答えた。


「はい。私は、ペルソナキュートを抜けて、9673プロダクションをやめます」

「へぇ……ええええええええええええっ!?」

「ん? どうしたの、七芽くん?」

「どうしたの、じゃねぇーよ! 何だよその急展開な話は!? 一体この一時間ちょっとで一体何があったんだよ!?」


 きょとんとした顔で僕を見る結香に、思わずツッコミを入れざるおえなかった。

 

 前回のライブは色々と前途多難ではあったものの、ネット上では『伝説のライブ』として語り継がれており、ここ数日で配信サイトではペルソナキュートの楽曲がランキングをほぼ総なめにするという異常事態となっていた。


 その影響もあって、動画サイトでの再生数も今だ伸びており、ペルソナキュートの人気はうなぎ登り。


 そんな最中に引退とか、まるで意味が分からんぞ!?

 

「意味が分からないことないよ、七芽くん。よく考えてみてよ」


 結香は僕の考えていることを見透かしたように、人指し指を立てて僕を諭した。


「私がこのままアイドル活動を続けたらどうなると思う?」

「え? それは……えっと……結香が暴走する可能性がある……?」

「それもあるかもしれないけど、このままじゃ必然的に、また愛果と戦うことになるんだよ」

「あ、そういえばそうか」


 今回は僕らの前に立ちはだかる敵として現れた愛果だったが、彼女もまたペルソナキュートのメンバー。


 となれば、活動をする際は必ず一緒になる。


「愛果は『借りを返す』って言ってた。今回はたまたま勝てたけど、次もあの子に勝てるかと言われたら……私はそんな自信がない……」

「結香……」


 結香の自信なさげな表情に、僕も励まそうとはしたが、言葉が見つからなかった。


 確かに今回、愛果のその天才性を余すことなく見せつけられ、追い詰められた。

 結香の言うとおり、今回は様々な偶然が重なっての勝利。

 万に一つと無い奇跡とすら言ってもよかった。


 その愛果とこれからも戦うとなれば……寒気が走った。

 

「だからさ、今勝ってる内にやめちゃおって思ったんだよ」

「……はい?」  


 結香はさっきの陰などどこに吹き飛ばして、満面の笑みでそう言ってのけた。


 えっと……それってつまり……、


「勝ち逃げする……ってことか?」

「うん、そうだよ♡」


 結香は純粋な笑顔でそう答えたが、その笑みにはどこか悪意が感じられた。


「あの子との接点さえなくなれば、七芽くんが大変な目に遭う心配もないし、私としても安心だよ♡」

「いや、それは分かったけど……本当によかったのか? 確かにそれなら愛果とは接点が無くなるけど――」


 同時にそれは、黒波墨汁との縁も無くなってしまうということだ……。

 僕はそのことを口に出そうとした瞬間、結香の指が僕の口を優しく押さえた。


「もういいだよ、七芽くん。それにね、私も今回の件で色々と分かったの。私が本当に大切にしたいものは何なのか」

「……それって――」

「言わなくても分かるでしょ♡」


 結香は光り輝く目を細めて、頬を桜色に染め、口元を柔らかくし笑った。

 満開の桜のような華やかで明るく暖かいその表情に、胸の奥が掴まれるようなそんな感覚に襲われて、目を離すことができなかった。


 頭が白くぼやけて、身体が勝手に動いていき、僕は結香のその明るい表情に顔を近づけて――、


「貴様ら、人の職場で何をしているッ」

「あっ……」

「な、七芽くん……ここではまずいよ……。お、お父さんも見てるし……さ♡」


 気がつけば、黒波墨汁から殺意に近い目線が突きつけられ、目の前にいる結香は言葉で否定しながらも、満更でもなさそうに顔をリンゴのように赤くして、珍しく目線を逸らしていた。


 て、違う! 誤解だ!


「いやいや! 違て!? これはえっと違うくて!?」

「少しは落ち着け、バカ者が。言葉使いがおかしくなっているぞ」


 黒波墨汁は呆れたのか、先ほどの殺意も無くして、近くにあった立派な椅子に座って目を伏せた。

 

「とにかくだ。緩木結香、貴様は本日限りで9673プロダクションを抜ける。元の事務所との再契約はこちらで手配しておくとしよう」

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますが、お願いいたします」


 結香は、綺麗に頭を下げた。

 それは親子の接し方ではなく、一人の仕事相手(他人)としての態度だった。


「気に病む必要はない。貴様程度が抜けたところで、うちには代わりなどいくらでもいる。だから、部外者はとっとと俺の職場から出て行け」

「はい。分かりました」

「ちょ、ちょっと! 実の娘にその言葉使いはあまりじゃ!」


 いくらなんでも冷たすぎる。

 黒波墨汁の態度に、思わず反論しようとした僕だったが、それを結香が止めた。


「いいんだよ、七芽くん。これでさ」


 結香は満足したように、優しく口元を持ち上げた。


「それじゃあ、待ってるからね。七芽くん」


 結香は僕にそう言い残し、部屋を出て行った。


 僕は改めて、目の前にいる黒波墨汁と向き合う。


 正直に言えば、僕はこの人が嫌いだ。

 実の娘をまるで道具のように扱い、用が済めば投げ捨てる。取り替える。

 その行動が、僕には理解できなかった。


「……黒波さん、結香とどんな話をしたんですか?」

「それを部外者の貴様に言う気などない」

「ええ、まあそうでしょうね。別にそのことはいいですよ。でも……ちゃんと結香に対して気持ちは伝えてあげたんですか?」

「脈略のない言葉がだな」

「親らしい言葉を言ってあげたか、聞いてるんです!」


 思わず張り上げてしまった僕の声を、黒波墨汁は涼しそうな顔で聞き流した。


「ふん、本当に青臭いガキだ。では答えてやろう。そんな甘っちょろい話などしていない」

「っ!」

「さて、では今度は俺から言わせてもらうぞ。貴様にどうしても言っておきたいことが一つある」


 前回罵倒されたこともあり、僕は身構える。


 これから一体どんな言葉を浴びせられるのか。

 恐怖と不安と怒りを混じり合わせながら、黒波墨汁の言葉を待った。


「――――――――」

「っ……!?」


 黒波墨汁が言った言葉に、僕は唖然として口を開けた。


 それがあまりにも、予想外過ぎる言葉だったから。

 とても黒波墨汁の口から出た台詞だとは思えなかったから、上手く飲み込むことができなかったんだ。


 どうしてなんだ……なんでよりにもよって……僕にそんなことを言うんだ……?

 

 だってそれは……、


「……結香には……伝えたんですか?」

「言うはずがないだろう」

「っ!? なんで! どうしてなんですか!? それは、結香が……彼女が最も知りたいはずのことなのに……っ!!」

「いいか、青二才。あの娘にとっては、俺はもう過去の存在だ。これ以上の鎖を作ってどうするつもりだ」

「!」


 黒波墨汁は話が終わったとばかりに、椅子を回転させて、再び窓の外に目をやった。


「要件は済んだ。とっとと出て行け、不届き者が。帰って精々、あの娘と学生の内に若さでも謳歌していろ。この愚か者共が」


 それだけを言って、彼は黙った。

 これ以上何を言っても無駄だろうと思い、僕は社長室のドアノブを握って外を出ようとした。


 ……多分、この人とはもう人生で会うことはないだろう。なら最後に一つ、これだけは言っておくことにしよう。


「この……不器用な親馬鹿が」


 僕はそういって、今度こそ社長室を後にした。

 扉を閉める直前、黒波墨汁が鼻を鳴らす声が聞こえた気がした。

次回こそ、最終回です。

本当にこれまで読者の方々にはお世話になりました。


最後の最後まで付き合っていただければ、とても嬉しく思います。


次回更新は、2019.5.8の19時を予定しています。


何らかのご意見、ご感想がありましたら、お気軽にお書きください!

また、評価ポイントやレビューを付けてくださると、大変ありがたいです。今後の励みになります! 

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