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8.イベント:【ドキドキ♡東京デイズ・ニュイランド!】 破章

 弁当を食べ終わり、緩木はお色直しをしてくると言って席を立っていた。

 それを見計らって、綺羅星がイヤホン越しに声をかけてくる。

 周りを見渡すと、噴水の向こう側の席で綺羅星が座っているのが見えた。


『ここまであの子がベタ惚れだなんて予想外だったわ……。あんた、結香のどんな弱みを握ったのよ。白状なさい』

「僕を極悪人みたいに言うな。だからなにもしてないって言ってるだろ、緩木が勝手に僕に課金してきているだけなんだよ」

『ちょっと、キモい専門用語使って話し進めるんじゃないわよ』

「つまりだ、緩木は色々なアプローチを使って、僕を堕とそうとしてるってことだよ。後、キモい言うな」

『本当、こんなキモい男の何処がいいのかしらね……あの子は……』 


 全く、話聞いてねえ……。

 これだから課金系美少女は嫌なんだ……。


「にしても連絡したとは言え、まさか本当に綺羅星さんが来るなんて思わなかったよ。読者モデルも案外暇なのか?」

『そんなわけないでしょうが! 結香が心配だからに決まってるでしょ!』

「それは友達想いなことで。てかなんでそこまで緩木に入れ込むんだ? 少し過剰すぎじゃないか?」

『私は、『夢を追いかける人間』には優しいのよ。あんたみたいな、自堕落な人間とは正反対のね』

「手厳しいな。別に自堕落に生きようとしたっていいじゃないか」

『そんなことよりもなんで結香があんたにあそこまで惚れ込んでいるかよ。結香とは知り合いじゃないの? 昔友達だったとか』

「当たり前だろ。僕に女子の知り合いはなんていない。子供の頃からずっとな」

『でしょうね。あんたキモいし』

「どストレートな罵倒は止めろ!」

『あ、戻って来たわよ』


 振り向くと既に、緩木が僕の傍にへと立っていた。


「おまたせぇ~」

「ああ、それじゃあ次は何処に行く?」

「そうだねー、あそことかいいじゃないかな?」

「え? あれは他の席……げっ!?」


 緩木が指さした方向には、綺羅星が座る席。

 まさか……バレてたのか……?


「それじゃあ行こうかぁ? 七芽くんが誰とお話していたのか、私とっても知りたいなぁ?」

「逃げろ! 緩木に気づかれた!」


 顔は笑っているが、明らかに目が笑っていない!

 緩木の薄めの奥にはダークマターの光りが輝いていた。

 これは多分、尋常じゃないくらいに激怒している……そんな気がする!

 即座に綺羅星は席から離れて走って行くが、それを緩木は見逃さなかった。


「走り方……履いている靴からして……刹那ちゃん……!」

『ひぃっ!?』


 イヤホン側から聞こえた悲鳴が、緩木の解答の答えを表していた。

 僕はバレないように電話を切り、イヤホンとスマホをズボンのポケットの中にへと隠す。

 どうやら通信機にスマホを使っているとまでは気づいていないようだ。助かった……。


「七芽くん、これは一体どういうことかな? どうして刹那ちゃんが七芽くんとお話しているのかなぁ? 私と一緒にいるときに……?」


 緩木は依然不穏なオーラを放ち、ダークマターの瞳を思いっきり見開いた。

 その中に光りは一切無く、まさに闇そのものが映し出されていた。

 率直な感想をいえば、目つき恐っ!

 だがここで言葉に詰まれば、確実に緩木のペースにへと乗せられて綺羅星との関係を話してしまうことになってしまう。

 そうなればきっと修羅場となって、下手すれば血の惨劇だ。ナイスボートさんの出番である。

 こんな時はえーと、あれだ! ……なんか言っとけ!


「ああ……いやー、ほら! 僕、女の子とのデートだなんて初めてだからさ、リア充で緩木の友達の綺羅星さんに、色々とアドバイスをしてもらおうとしてたんだぁ……?」


 嘘八百上等。

 僕はそんな苦し紛れの言葉を並べた。

 果たして、緩木の反応や如何に……?


「っ! 七芽くんは、これをデートだって思ってくれてるの!?」

「え? ……ああ、そうだな! うん! 女の子と出かけるならデートだな!」

「そっか……そうなんだ、えへへへ♡」

 

 僕のその解答に、緩木は顔を赤らめて、表情を柔らかく溶かしてふにゃけた口元で笑っていた。

 それは明らかにデレデレしている顔だ。

 よしよし! 

 上手くいったぜ!

 よかったー! 緩木が僕に対してはものすごくチョロくて!


「分かったよ♡ それならこれからはもっとデートらしく過ごそうね?」

「……ア、ハイ」


 『口は災いの元』とはまさにこのこと。

 僕はこの解答がきっかけとなり、その後、緩木と散々カップルがしそうなことをさせられるハメとなってしまった。

 正直、あまりにもな内容のため詳細は省くが、結論を言えば──まあ甘かった。

 あまりにも甘すぎる展開に、ただでさえご都合主義を疑う緩木との関係に、僕の疑念は更に深まった。

 僕、このデートが終われば交通事故にでも会うんじゃなかろうか。

 そう思わせられるほどに。

 

 ダイジェストでお送りすると、まず始めに緩木と一緒にお化け屋敷を題材とした乗り物に乗った。


「きゃあ♡ 七芽くん怖い♡」

「ソウダネ」

「ほらほら、七芽くん♡ 私に抱きつかれてどう? ドキドキする?♡」

「ソウダネ」


 その次に緩木と一緒に同じデザートを食べた。


「七芽くん、はいあーん♡」

「ハイ、アーン」

「美味しい?」

「ハイ、オイシイヨ」


 そして最後に、緩木と一緒に近距離での記念撮影。


「七芽くん撮るよー? いぇい!♡」

「イェイ」


 とまあ、そんな緩木との甘々時間を過ごしたのだった。

 僕はそれらの甘々課金攻撃を必死に耐え、ひたすらに無を貫いた。

 そうしなければ確実に、僕は緩木の手によって堕とされていたからである。

 いくら緩木がいい子そうで無課金で済みそうと思っても、結局は星5SSR美少女(ヒロイン)

 今はこんなにも無害に見えるが、必ず後に課金を迫られるハメとなるのだ。

 手塩にかけたものの成果は必ず得ようとする。

 それが人の理。まさしく課金にへとハマる心理そのものだ。

 気づいた時にはもう遅い。

 その時は僕の無課金人生崩壊のお知らせだ。

 それだけはなんとしてでも死守しなくてはならない……!


 空の半分が暗くなり、夕方となった頃、緩木は遊園地定番の乗り物の前で足を止めた。

 僕らの目の前には、巨大な円形が半永久的とばかりに周り続けている。

 何を隠そう、観覧車である。


「それじゃあ七芽くん、最後にこれに乗ろっか♡」

「もうなんとでもしてくれ……」


 緩木は既に諦めモードである僕の腕を引いて、観覧車の列にへと並んだ。

 順番が回ってきたのは15分後。

 係の人に誘導され観覧車にへと乗り込み、扉を閉められて動き出す。

 正面に座る緩木は、一際嬉しそうに笑いながら、僕を見ていた。


「ようやく二人っきりになれたね、七芽くん♡」

「さっきからずっと二人きりだったろうが」

「そうだね♡ ──それじゃあ、どうして刹那ちゃんとお話ししてたのか、本当の理由を聞かせてね?」


 あ、オワタ。

 緩木の顔は相変わらず笑っていたが、目は真っ黒にへと染まっていた。

 今日二度目の激おこモードな緩木さんである。

 さっき言った、デート発言でてっきり許されたのかと思っていたが、別にそんなことはなかったぜ。

 乗った観覧車には逃げ場がなく、僕は完全に退路を絶たれてしまったのだった。


 一度動き出した観覧車は、もう止まらない。

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