7.イベント:【ドキドキ♡東京デイズ・ニュイランド!】 序章
月日は流れて土曜日。
僕は電車に乗って数十分かけて、千葉のある遊園地にへとやって来ていた。
千葉の遊園地と言えばもちろんあそこ。
「ついに来てしまったか……リア充の楽園、東京デイズ・ニュイランドに……!」
そう、ここは東京デイズ・ニュイランド。
ファンタジー異世界をテーマとした五つのエリアがある大型遊園施設だ。また隣には大人も楽しめる東京デイズ・ニュイランドRもある。
え、パチもん感が半端ないって?
何のことだかさっぱりだ。
とにかくここは東京デイズ・ニュイランドだ。
その証拠に、マスコットキャラクターも猫である。
だが、今は僕一人。
「別々に来よう」と、僕が緩木に提案してそうなった。
方便として、『緩木の私服を考える楽しみを、少しでも長く味わっていたい』といったが、それはもちろん表向きの理由。
裏の目的であり、本来の理由は、
「うっわ、だっさ……なによその格好……。え? なに? まさかそれがイケてるなんて思ってないでしょうね?」
そんな罵倒と共にやって来たのは、私服にサングラスと洒落た帽子を被った綺羅星刹那だった。
顔は見えないが、明らかに纏うオーラが違うため一発で分かる。
服の名前は知らないが、とにかくカジュアル路線のお洒落な服を着ており、顔は隠していても読者モデルの貫禄を見せつけてくる。
「誤解を招くような発言はやめてくれ、別に普通の格好だろうが?」
僕の私服は至ってシンプル。
白のシャツの上から、黒のジャケットを羽織り、黒のパンツを履いたシンプル仕様。
そんな最低限度のお洒落と清潔感を持った格好を、僕は選んできたのだ。
いくらなんでもそこまで酷く言われる筋合いはない。
「そもそも僕は今まで女の子に縁がなかったんだ。だからこれくらいの服しか持ち合わせてしかいないんだよ。勘弁してくれ」
「それでも、デートなんだから新しく買ってくるとかあるでしょうが」
「デート? 違うよ。単に緩木と二人で遊ぶだけだよ。それにいくら最近の服が安いと言っても、全身買えばそれなりの金額になるだろ? そんな無駄な出費はしたくない」
「呆れたわ……アンタって本当に変わり者ね」
綺羅星は呆れ顔で僕を見てくるも本来の目的を思い出したのか、鞄の中からある物を取り出した。
それは、小型のイヤホンが入った箱だった。
「これは?」
「コードレスの小型イヤホンよ。これをスマホに繋いで、通話モードの状態で胸ポケットに入れておけば通信機代わりになるでしょ?」
「なるほど。考えたな」
「イヤホンは片耳だけに付けておけばいいわ。それで色々と指示を飛ばすから、ちゃんと従いなさいよ?」
僕は早速イヤホンをスマホと繋ぎ、右耳にへと入れ込んだ。
そして連絡用アプリを開き、綺羅星に電話をかけた。
「こちらスネーク、応答願う」
「『キモっ、くたばれば?』」
よし、感度良好だな。罵倒もよく耳を通る。
後は胸ポケットにスマホを仕舞い、結香を待つだけだ。
「『私はアンタたちを追いながら指示を送るから、頑張って結香を幻滅させなさいよ?』」
「はいはい、まさか人生で振られるために頑張るなんて思いもしなかったよ」
綺羅星がいなくなって数分後、緩木が駅のホームから出てきた。
緩木は綺羅星とは違い、オーラはそこまで出ていないが、それでも周りからはそこそこの注目を浴びている。
「七芽くん、おはよう! 早いんだね、びっくりしたよ」
「相手に待ち時間を課金させるのは嫌なんだよ」
「あはは! 七芽くんらしいね!」
そうやって笑う緩木の格好は、これまた僕の言語では的確に言うことは難しかったが、とにかく『柔らかい雰囲気を纏った可愛い系の服』といった感想だった。
そして、手には白色の大きめの鞄を持っている。
正確に教えられなくて申し訳ないが、服に興味のない男子高校生なんてこんなものだ。許してくれ。
だが、流石は星5美少女。綺羅星に負けず劣らず可愛い。
限定SSRカードの絵柄みたいだ。
「どう……かな……? この服、七芽くんの趣味に合ってる?」
「限定SSRカードの絵柄みたいだ」
『私の指示なくぶっ込んできたわね……』
耳元で綺羅星の声が聞こえた。
あ、そう言えばこういうオタク特有の専門用語とかも、異性の前じゃNGだっけ? まあ、嫌われるのが目的だしいい──、
「よかったー! 似合っているってことだね!」
『なんで好反応なの!?』
「僕にも分からん」
「それじゃあ行こうか? 今日が来るのをずっと楽しみにしてたんだよ!」
緩木に手を引かれ、僕らは入場口から園内へと入ると、至る所にいるわいるわ。家族づれや、友達、カップルと、ありとあらゆる人々でごった返していた。
流石リア充の楽園。
僕一人では到底来ることはなかっただろう。友達すらいないし。
「始めにどこいこうか?」
「僕、ここ来るのは初めてなんだよ。だから緩木の好きなところを回ればいいじゃないか?」
「ならまずは『シュガーワールドアドベンチャー』に乗ろう!」
輝く瞳で訴えかけてくる緩木の答えに僕は了承して、その『シュガーワールドアドベンチャー』なるものの乗り場まで行くことになったのだが、そこで綺羅星の指示が飛んできた。
『それじゃあ、少しずつだけど歩く速さを上げなさい。そうして結香を置いてくように距離をとって歩いて』
なるほど、歩調を合わせない作戦か。
僕は綺羅星の指示に従い、少しずつだが歩くスピードを上げていき、緩木から距離を取るようにする。
『そうそう、そうすればアンタを『気が利かず不親切な男』て、結香に思わせられることができるわ』
ほう、つまり今の僕がそれというわけか。
言葉にすると最低だな。
全く、人生の何処の選択肢を間違えて、こんなことをするハメになったのか。
僕は過去の間違いを悔やみつつ、緩木から適度な距離をとった。
一応、置いていくのはまずいと思い後ろを振り向くと、緩木の姿が見えない……あれ?
「どこ行っ……」
「どうしたの? 七芽くん?」
「うわっ!?」
気がつくとすぐ隣には緩木が立っており、不思議そうな顔で僕を見ている。
どうして僕の隣にいるんだ……?
「驚かしてごめんね? 七芽くん、歩くの速いから少し遅れちゃった! ごめんごめん!」
「あ、ああ……いや。僕こそ悪かったな……次からは気をつけるよ……」
僕は再び歩き出し、今度はもう少しだけスピードを上げていく。
今度はそこそこの早足だ。これなら緩木も追いつけ──、
「ふんふふふぅ~ん♪」
「!?」
僕がかなり頑張って早く歩いているのに、緩木の方は鼻歌を交じりに余裕で付いてきてるだと……!?
『何してるの! はやく振り切りなさいよっ!』
それくらい分かってる!
その後も少しずつスピード上げていくが、その都度緩木は余裕そうに僕の隣をキープする。
しまいにはほぼ走っているラインギリギリの速度で歩くも、緩木が疲労した様子は見られない……。
「七芽くん、結構早く歩くんだね? あ、そう言えば早く歩く人って頭がいいらしいんだよ? てことは、七芽くんもそのタイプってことなのかぁ♡」
「そ……そう……だな……はぁ……!」
どうしてそんな余裕そうな顔で付いてこれる!?
僕はもう既に限界スピードなんだぞ!?
お前は十傑集かなんかなのか!?
そしてとうとう僕の体力に限界が訪れて、スピードは減速していき、その場でしゃがみ込んで息を整える。
「はぁ……はぁ……もう無理、疲れた……」
「大丈夫? 七芽くん? 少し休憩しようか? あ、これ中にお茶が入ってるから、飲む?」
「ああ、うんありがとう……貰うよ……」
こういう所は自販機や飲み物が高いから助かる。
僕は緩木から水筒を受け取って、中に入っている飲み物を勢いよく飲んだ。
水筒に入っていたのはジャスミン茶であり、ミントの爽やかさが口の中にへと広がって気分が落ち着く。
「ありがとうな緩木。助かったよ……」
「七芽くんのために色々と用意してきた甲斐があったってものだよ。少し休もうか?」
「いや、もう平気だ。今度はゆっくり行こう」
「そうだね、その方が七芽くんと一緒に入れる時間がもっと増えるしね!」
「っ……急に褒めるのは止めろ……」
だがもう早歩きは無しだ。疲れた……。
すまん綺羅星、この作戦は失敗だ。
『ちょっと! なに歩いているのよ!?』
「仕方ないだろう? 緩木の方が足速かったんだから。僕の体力は限界だ」
「ん? 何か言った? 七芽くん?」
「いや、独り言だよ。それよりも緩木て足速いんだな」
「昔から体力はあった方だからねー、仕事をしてなかったら誘われた陸上部に入ってたかもしれないし」
それなら、早いわけだ。
普段から運動をしていないただの男子高校生の僕よりも、陸上部からも声がかかるような緩木とでは、端っから身体能力が違い過ぎたのだ。
僕はそれを聞いて、男子としての尊厳をギリギリ保った後、『シュガーワールドアドベンチャー』までゆっくり歩いた。そうゆっくりとだ。
◇◇◇
『今度こそ上手くやりなさいよ?』
「善処しますよ」
「乗るのが楽しみだね、七芽くん!」
現在、僕と緩木は『シュガーワールドアドベンチャー』の列にへと並んでいる真っ最中であった。
予想通り人で溢れ、待機列の時間は1時間半を表示している。これでも他のアトラクションよりかは、待ち時間が少ない方らしい。
まじか……予想以上の時間の課金だな……。
そう思った矢先、綺羅星の声が耳元に聞こえた。
『それじゃあ、次はスマートフォンを出していじってなさい。結香に話しかけられても、適当な返事を返して』
次は話を聞かない作戦か。
でもこれなら、僕の時間の課金は防がれるから、綺羅星の提案には願ったり叶ったりだ。
『これでアンタは『面白みがなくてつまらない男』って思われるはずよ』
はは、最近のワイヤレスイヤホンは本当に性能がいいなぁー。はっきり聞こえすぎて涙が出てくるよ。
僕は綺羅星の指示に従い、胸ポケットからスマホを取り出していじり始めた。
横目で緩木を見てみると、そんな僕を黙って笑いながら見ている……。
「……なんだよ?」
「ううん! ただ、『七芽くんの横顔が格好いいなぁ』って、思ってただけ♡」
「くっ!」
だから褒め殺しは止めろと言ってるだろうが!
僕が惚れたらどうするつもりだ! あ、付き合うのか。危なっ。
もし付き合えば、この待機列以上の時間の浪費に繋がってしまう。
「そうかよ……」
だが今は作戦中。
気持ちを切り替えて、緩木の言葉になるべく反応せず、僕は『スターダスト☆クライシス』を起動させた。
すると横持ちにした所為か、緩木がそれに反応した。
「あっ、そう言えば私、プレイヤーレベルが40まで上がったよ!」
「そうか」
「結構頑張ったんだー! 仕事の合間とか、暇な時間を利用してちょくちょくプレイしてたんだよ!」
「そうか」
「それで昨日ガチャを回したら、ロイヤルブルースターダストブラスター? てキャラが出たんだー!」
「そう……今なんて言った?」
『ちょっと何反応してるのよ!?』
うるさい、黙ってろ。
今は作戦よりも、緩木がロイヤルブルースターダストブラスターを出した件についてだ。
え? なに? あの極低排出率キャラクターを出しただと……?
「また課金したのか?」
「ううん、なんだか新しいキャラクターがガチャにいるなー?、て思って一度だけ引いてみたら、なんか出ちゃった」
「一度で……出ちゃっただって……?」
いや……あり得ない!
そんな幸運があっていいはずがない……!?
あの廃課金者であるシンデルヤすら、まだ出していないのだ!
今も泣きながら、短いピックアップ期間中に出すため課金してガチャを回しているはずだ!
僕ですら、あらゆる物を犠牲にしてようやく手に入れたというのに……それを……たった一回で出しただとォ……ッ!?
ただでさえ驚愕している僕に、緩木は更に、初心者プレイヤーでありがちな禁断の禁句ワードを口から放ってきた。
「七芽くん、このキャラクターて強いの?」
「強いよ! 滅茶苦茶強いよ! もう序盤はそいつがいればいいじゃないかな? てくらい強いよ!」
思わず大声でツッコんでしまったため、並んでいた周りのお客さんたちが僕にへと注目した。
それに平謝りしつつも、まだ頭の整理が追いついていない。
なんて恐ろしいことを口に出す少女だ……。
もしも僕が持ってなかったら、大声どころか発狂していたところだぞ……?
「でもどうやって使えばいいのかいまいち分からなくて……また教えてくれないかな?」
「ほう──? では僕が伝授してやろう。ロイヤルブルースターダストブラスターの真の力を引き出す方法を──ッ!!」
『ちょっと話と──!』
「うるさい」
怒鳴る綺羅星のイヤホンを一度取り、ポケットの中にへとしまった。
耳元でギャーギャーと騒がれていては、まともな思考も働かないからな。
「それじゃあロイヤルブルースターダストブラスターを如何にして強くし、如何にして運用すればいいのかを話すとしよう」
「うん! お願いします!」
その後の待ち時間は、全て僕の『ロイヤルブルースターダストブラスターの運用法』の話が続き、緩木のおかげでとても充実した時間を過ごすことができた。
そんなことをやっている内に、気づけば順番が回ってきており、無事アトラクションにへと乗ることができた。
アトラクションの感想は、正直思った以上だった。
これがデイズ・ニュイランドクオリティーか……、また機会があったら来ることにしよう。
僕は硬くそう胸に誓い、この時間を満喫したのだった。
◇◇◇
「何勝手にイヤホン外してるのよっ!? このゲームバカっ!!」
「悪かったっての」
アトラクションを一通り楽しんだ後、僕はトイレにへと行くふりをして緩木から一度別れて、再びイヤホンを付け直した。
だが、綺羅星が早足で僕の前にへと現れたのだ。
サングラスをかけているため表情は分からなかったが、すこぶる怒っていることだけは分かった。
「でも、仕方ないだろうが? だってロイヤルブルースターダストブラスターなんだぜ?」
「知らないわよ、そんなのっ! 後なんでも『仕方ない』で片づけようとするんじゃないわよ!」
「今度は上手くやるさ。それで次は何をすればいいだ?」
「はぁーたくっ……今度こそ上手くやりなさいよ?」
「大丈夫だよ、僕はゲーム以外のことでなら反応は薄いんだ」
「本当かしらね……? 怪しいところだけど、まあいいわ……。それじゃあ次の作戦だけど、今はもうお昼よね?」
「そうだな。フードコートが混み混みで、うんざりする時間だな」
「そこでアンタが言うの、『今日僕金持ってないから~緩木払っておいて~』て」
「それはまた、えらくあれなやつだな……」
それは明らかなヒモ発言であり、人生無課金主義者な僕でもドン引きするタイプの台詞だ。
「これであんたの評価は、『甲斐性無しのクズ男』まで下がるはずよ」
とうとうクズとまで来たか。
一体僕はどこまで落ちればいいんだろうか……?
綺羅星から指示をもらい別れた後、緩木の待つ中央広場にへと向かった。そこには緩木がベンチにへと座り、スマートフォンを触っている姿が遠目で見えた。
横持ちにしているということは、多分『スターダスト☆クライシス』をプレイしているのだろう。
「よっ、待たせたな」
「あっ、お帰り、七芽くん」
「なあ緩木、もうお昼だから何か食べないか? 僕お腹が空いて死にそうなんだよ」
『今よ! さあ! 今度こそ決めなさいよ!』
分かってるさ。
はぁ……まさか僕がこんなクズ台詞を吐く日が来ようとは……。
だがちゃんとやらなければ綺羅星がうるさい。
よし……なら覚悟を決めて……!
「ゆ、緩木、実は僕今日お金持ってなくってさ~」
「なら丁度よかった! 私、今日はお弁当を作ってきたんだよ!」
「だから奢って……オベントウヲツクッテキタンダ?」
ソレハ、ホントウデスカ?
緩木は持っていた鞄の中から弁当箱を二個取り出して、一個を僕の方にへと差し出してきた。
それは間違えなく、お弁当の見た目をしていた。
「園内では駄目だけど、この中央広場限定でなら、お弁当は大丈夫なんだって。だから頑張って作ってきたんだぁー♡ だからね……これ……食べてくれないかな?」
僕は呆然とした顔でそれを受け取り、緩木の隣に座って、弁当箱の蓋を開けた。
するとそこには!
唐揚げ、卵焼き、ハンバーグ、タコさんウィンナーなどの名だたる星5・SSRおかずの数々が隅々にまで並び、とても美味しそうな光景を僕にへと見せた。
ああ……神様……僕はこのために生きていたんですね……!
「本当はもっと早くに食べてほしかったんだけど、味付けに自信がなくて色々と思考錯誤してたら遅くなっちゃったんだ。ごめんね?」
何を言うか!
正直、味なんて二の次!
作ってきてくれるだけで、男なんてものは満足するものなのである!
特に星5SSR美少女ならば、尚更な!
などと、そんな僕を攻略するようなヒントは出さず手を合わせた後、まず始めに唐揚げを持ち上げて、口の中にへと入れた。
──こんなとき、出てくる言葉など一つしかない。
「美味い!」
「よかったー♡」
この幸せを噛みしめつつ、僕はその日、神話の登場人物の仲間入りを果たすこととなったのだった。
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