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星5SSRランク美少女が、無課金な僕にメチャクチャ課金してきます  作者: 黒鉄メイド
4回転目 無課金系美少女&配布系美少女
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10.サブイベント:【夏休みの幕間劇 綺羅星刹那編】

『あんた、今日暇なの?』

「いや用事がある」

『そう、暇なのね』


 朝の午前中、スマートフォンでネットの海を泳いでいる最中、画面に突如現れた文字が綺羅星。

 しぶしぶ電話に出てみて早々に聞かれたのがさっきの言葉だ。


 僕が即答で用事があると言っているのに、このカリスマモデルと来たら、速攻で暇宣告をしてきやがった。


『ならなによ。結香と出かける以外で、あんたに夏休みの予定なんてあるの?』

「…………」


 もうすぐ結香と行こうと言っていた花火大会の日だが、こないだ彼女からそのことでメッセージが送られてきた。

 その内容は……やはり行けないとの返事だった。


 うん、まあもうすぐライブも控えてることだし、仕事だからしょうが無いよね、しょうが無い。あははは。


『なによ、急に黙り込んで。結香と何かあったの?』

「なんでもねぇよ。それで用件はなんだよ」

『じゃあ、今から三十分以内に私の家に来ること。いいわね? 三十分以内に来なかったら罰ゲームだから』

「僕は宅配ピザ屋じゃないんだぞ。てか待て、僕の家から綺羅星邸まで丁度三十分なんだが」

『なら急ぐことね。それじゃあよーいスタート』


 綺羅星は有無を言わさずに電話を切った。

 流石は課金系美少女。人の時間を惜しげもなく課金させようとしてくる。

 

 この真夏の炎天下の中、自転車走らせて綺羅星の家に行くなど、気が滅入るどころの騒ぎじゃない。

 だが、彼女の言っていた罰ゲームの詳細が分からない以上僕に残された選択肢はなかった。


「くっそ!」


 そんな訳で、僕は綺羅星の家まで、猛スピードで自転車を走らせることとなったのだった。



◇◇◇



「ここでコール!」

「フン!」


 綺羅星の声に、僕は手を振りジャンプする。

 決まったリズム感で、立ったりしゃがんだりを繰り返す。


「はい、フィニッシュ!」

「ハー!!」

「よし、これでライブも完璧ね」

「て、待てぃ。一体なんなんだよ、この踊りはよ」


 汗だくで息を切らしながら、ようやく綺羅星にツッコむ。

 唐突にこんな変なかけ声シーンだけを見せられても、一体何をしているのか、分かるはずがない。

 

 説明をしてしまえば、ここは綺羅星の家。通称、綺羅星邸の中にある、広々としたリビングだ。

 そこに映写機を置いて、ペルソナキュートの動画を流しながら、その広い空間を有意義に使い、綺羅星の指導の下、僕はよく分からない振り付けを覚えさせられていた。


 この踊りがなんなのかは……まあ大体予想は出来ていたが、これまで聞くタイミングが全く無かったのだ。

 

 来て早々に、「ほら、練習するわよ」と手を引っ張られて、いきなり今の振り付けを踊らされたのだ。

 

 正直訳ワカメである。


 そんなはてなマークを浮かべる僕に、綺羅星は呆れた溜息を付いた。


「あんたこの状況見て、まだ分かってないの? ペルソナキュートのライブの振り付け練習に決まってるでしょうが」

「いや、それは分かるけど、なんで僕まで練習することになってるんだよ」

「はぁ? あんたもライブに行くんでしょうが」

「いや、僕はライブチケット当たってないからな」


 そう、僕はペルソナキュートのライブに、もの見事に落選をしていた。


 当たり前の話だ。

 何せ今回のライブチケットの倍率はすさまじく、それこそスマホゲームで限定SSRレアを出す以上に確率が低かったのだ。

 

 たかが一回のチャレンジで、手に入れられるはずもない。


 だが綺羅星はその説明に納得がいかないようであり、眉を寄せてジト目で僕を睨んでくる。


「なら、今すぐ大枚はたいてネットで買いなさいよ。さぁ」

「さぁ、じゃねぇーよ。なにさらっと転売屋から買わせようとしてんだよ」

 

 一番反感を買う買い方を勧めてくるんじゃない。


 それに僕もちょっと前に、少しだけ覗いてみたが、ペルソナキュートの人気を見込んでか、中には十万円まで値段を跳ね上げられた悪質なものまであった。

 とてもじゃないが、あそこから買おうとは思わない。


「あんたねぇ……結香は絶対にあんたに見てもらいたいはずなのよ? それ、分かってるの?」

「それぐらい……僕だって分かってるさ」


 だから乗り気じゃない転売品も見てみたんだ。

 だが、そこから買うのは……何か違う気がした。


「しょうがないだろう。これに関しては完全に運なんだから」

「んぅぃいいいい……っ! あんたってやつは本当にぃ……っ!! もう分かったわよ! 私のチケットやるから行きなさいよ!」


 綺羅星はリビングから出て行って数分後、チケットを持って戻ってきた。


「ほ、ほら! とっとと受け取りなさいよ!」

「いやいいって」

「意地張ってるんじゃないわよ! ほら!」

「いやだってお前……今すごい体勢になってるぞ」


 口では潔いよいことを言っているが、感情はまた別なのだろう。

 チケットを持つ綺羅星の右手を、綺羅星の左手が必死に掴んで、左手を剥がそうと身体があらぬ方向に向いてしまっている。


 自分で自分を止める人間なんて初めて見た。

 よほどライブを楽しみにしていたのだろう。


「くっ! 静まれ! 私の左手! こ、これも結香の為なんだから……! お願いよっ!」


 しまいには、典型的な厨二病みたいな発言までしだした。


 やれやれ、一番始めに会った時とは大違いの反応だ。

 あの時だったら、むしろ僕と結香を遠ざけようとしていたはずなのに。


 綺羅星の気持ちは素直に嬉しいが、こいつも一つ大切なことを忘れている。 


「綺羅星、お前だって忘れてるだろ」

「な……なにがよ……っ!」

「結香は確かに僕に見に来てほしいかもしれないけど、同時に綺羅星にも見てもらいたいはずなんだぞ」

「うっ! そ、そうかもしれないけど……」

「だから僕の分まで応援してきてくれよ。その後で二人して僕にライブの話をしてくれれば、僕は十分に満足だよ。結香だって、訳を言えば納得してくれるはずさ」

「……本当にいいの……?」

「ああ」

「な、ならしょうがないわねぇ……♪」


 綺羅星はご機嫌気分で、またチケットをしまいに行ったのだった。






 僕がライブに行かないことが分かり、そのまま帰してもらえる。

 と期待していたのだが……今度は綺羅星の振り付けの確認に付き合わされるハメとなってしまった。

 

 彼女の振り付けを見ては、僕が駄目な所を指摘する。

 その繰り返し。

 

 だが、何をやらせても万能な綺羅星のダンスを、僕が見ても、どれも完璧にしか見えず指摘するのには苦労した。

 

 適当なことを言えば綺羅星に見抜かれるわ。頑張って指摘しても、文句を付けてくるわで、ヘトヘトだ。


 昼になってようやく休憩となったため、僕は逃げるような足どりでリビングを出て、トイレに行くことにした。


 道筋に関しては、以前綺羅星の家に泊まり込んでいた時に把握しきってしまったため、迷うことなく行けた。


 トイレを終えた僕は、そのままリビングに帰ろう……としたのだが、そこであることを思い出した。


 この先に行けば、前に僕が悲鳴を上げてしまった綺羅星の部屋があるのだ。

 あの棺桶とすら呼べる無の空間は、綺羅星が自らの殻に閉じこもっていたからこそ出来た代物。

 

 それが解消された今、あの部屋はどうなっているのか。

 正直興味がわいた。

 

 そうだ。これは綺羅星がちゃんと自らの殻を破って、外の世界との関わりを持てるようになったかの確認だ。

 僕にはそれを見届ける義務がある。

 

 この確認によって、本当の意味での綺羅星編は解決するのだ!

 ならば見なくてはならないだろう。そうだろう!


 なーに、例え前回と同じ何もない部屋でも、もう耐性が出来たため大丈夫だ。

 見ても発狂など起こしはしない。

 

 では、確認だ! 綺羅星の部屋はどうなったのか!


 勢いよく扉を開けて――――そして僕は恐怖した。


「なっ……あぁ……あぁああああぁあああぁぁああ……っ!」


 なんだよ……これは……なんなんだこれは……っ!?


 僕が目にした光景。

 それは部屋一面に広がった――圧倒的なまでのペルソナキュートのグッズの数々だった。


 いや正確に言えば、部屋には数点の家具だけが置かれているが、その他は所狭しと並んだペルソナキュートのポスターや、CD、団扇から自家製フィギュアに至るまで。天井や床そして全ての壁面に、ペルソナキュートのグッズが広げられていた。


 よくよく見ると、ポスターの一部は自分で加工して作ったのか、どこか手作りじみた物も混じっており、フィギュアに関しては完全に手作り。だが綺羅星の万能性が合わさって、そのクオリティは売っていてもおかしくない代物だ。


 ファンだと言えばそうなのかもしれない。だが、この空気感は明らかにそれとは違う。

 これは一般人が生活をしている空間から感じられるものじゃない。最も近い物をあげるとするならば――ファンガチ勢。


 そんな部屋一杯のペルソナキュート愛を見て、僕はとても正気を保ていられなかった。 


「嘘だろ……嘘だよな……? ここはただグッズが貯まったから置いてあるだけで、たまたま綺羅星の部屋とは別の部屋の扉を開けてしまっただけなんだよな……!?」


 精神を保ち続ける為、言葉を並べる。ただただ、口から思いついた考えを吐き出す。

 そうじゃないと、この空間に飲み込まれてしまう。

 この圧倒的なまでの想いに押し潰されてしまい、発狂してしまう。

 だが同時に頭の中で、これまでの綺羅星を見て感じたことや、キモさが証拠と伏線になって、僕を襲ってくる。


 こんな場所で生活をして、人は正気を保ってなんていられるはずがない。 生活しているのなら絶対に部屋のどこかに、必ず普通が表れるはずなんだ。

 家具や、床、ちょっとした小物まで、そんな微かな一般性が表れるはずなんだ……だからここは……違うんだ……。


「あんた、そんなところにしゃがみ込んで何してるのよ?」

「はっ、き、きら……ぼしぃ……?」

 

 後ろを振り返ると、綺羅星が珍しく眉をひそめて、心配そうな顔で僕を見ていた。

 あまりの衝撃に、僕はいつの間にか膝をついていたらしい。

 だが今はそんなことはどうでもいい。


 早く、早く否定してほしかった。

 でないと、僕がおかしくなってしまうから。


 否定してくれ綺羅星、この部屋がお前の部屋じゃないって証明してくれ!

 罵倒しても、蔑まれても、蹴ってきても、何をしてくれても構わないから! だから言ってくれ、ここはただのグッズ保管庫なんだって!

 

 まるで救いを求めるかのように跪く僕に、綺羅星は優しくこう言った。


「私の部屋なんか見て」


 その瞬間、僕はたまらず二度目の悲鳴を上げた。

 そして僕は二度と綺羅星の部屋には無断で入らないことを、心の中で誓ったのだった。

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