8.メインイベント:【ペルソナキュート】
ペルソナキュートのデビューシングル。
『二面性恋愛系』の伴奏が始まったと同時に、ステージが変化した。
結香たちの後ろに突如、舞踏会の広場が現れたのだ。
それはまるで魔法でもかけられてように一瞬の出来事であり、観客は動揺するように騒ぎ出す。
この謎の現象に僕も戸惑いを隠せない中、隣のキモいファン一号《綺羅星》が解答を叫ぶ。
「専用のプロジェクションマッピングですって!? どれだけ金かけてるのよ! 一体!?」
そうか、これがプロジェクションマッピング。
立体物に映像を投影することで、あたかも本当に背景が動いたり、別の物に変化したように見せることができる、投影技術。
東京駅や、北海道雪まつりなどで使われた映像を見たことがあったが、実際に体験するのは初めてだ。
瞬間移動でもさせられたかのような錯覚を覚えてしまう。
これが最新技術を用いたライブか……!
今までのアーティストで、ここまでの演出があったアーティストはなかった。
つまりこれは、ペルソナキュートだけに用意された特殊演出。
シンセサイザーを用いたサイバーパンクな音色に始まり、ペルソナキュートの二人はダンスを踊るように華麗に動き出す。
それに合わせて、後ろの舞台映像も変わる。
周りにはドレスやタキシードを着た人間が出現し、ペルソナキュートに合わせるようにダンスを踊り始めたのだ。
曲は速度を増していき、ギターとドラムの音が滑り込んで駆け巡る。
そして、結香たちが声を発した。
『乙女の恋心は二面性』
初めの声を発したのは結香。
スポットライトが彼女を照らし、その存在感を際立たせる。
前に聞いたことのあるその抜群の歌唱力で、先ほどまで騒いでいた観客を一斉に黙らせ、一気にライブに注目を集めた。
『表の私は綺麗な恋人』
結香のパートは続き、注目させた観客を掴んで離さない。
先ほどあれほどまでに騒いでいた綺羅星すらも、今では彼女の歌声を黙って聞き入って口を開けながら眺めている。
『好きって言葉は意外に簡単だけれど』
結香とバトンタッチをするように、スポットライトは愛果を照らし、歌い出す。
小学生ながらもその歌は、とても子供のそれではなく、プロの歌声だ。
歌を歌うためだけに完成された声。
どこまでも綺麗に伸びゆく音。
静かで、心地よく、そしてどこか謎めいたようなミステリアスな歌声が、会場に浸透していく。
結香が太陽ならば、愛果は月。
そのくらいの違いがあった。
『仮面で隠した私は見せられない』
愛果のパートは続き、仮面に触れて妖艶に踊る。
その踊りすらも、子供のものを越えていた。
気を緩めれば、大人と錯覚してしまうような完璧なまでのダンス。
それが合わさり、完全の空気は彼女たちの虜となっていた。
『もしバレてしまえば、この仮面すら壊れてしまうから』
結香と愛果の声が混ざり合う。
スポットライトは二人を同時に照らして、映し出す。
背景は舞踏会は砕け、中から黒い靄のような物が現れた。
そしてペルソナキュートは歌いながら、仮面に手をかけ――そして取る。
『秘めた想いは化物』
仮面の下から現れたのは、彼女たちの素顔ではなかった。
そこにあったのはもう一つの仮面。
禍々しくも、美しい。
紫のラインが目元に入った黒色の仮面だ。
『壊しちゃうくらい求めてしまう』
自らの心臓を苦しそうに掴み歌う結香。
『黒くて悪くて魅惑的』
誘うように笑う愛果。
『それが仮面で隠した私たち』
再び重なる、二人の声。
『ラブ・ソート、ラブ・ソート、ラブ・ソート』
Aメロが終わり、曲は二番目に突入する。
すると今度は、舞台が完全に砕けて、暗い森が映し出された。
その風景はまるで童話にでも出てきそうな雰囲気であり、深淵にして、暗い。
楽器の演奏も一気に下がり、静かな曲調に変化する。
『乙女の夢は二面性』
再び歌い出したのは結香。
月にでも照らされているような青白い光りが、彼女を映し出す。
先ほどとは打って変わって、落ち着いた歌い出し。
両手にマイクを持ち、語るかのようにして歌い出す。
『表の私は夢見る少女』
その歌詞とは裏腹に、歌う結香は冷静だ。
まるで自分に言い聞かせるように、しっかりとその単語を奏でる。
『君とは一緒にいたいけれど』
ここで愛果とバトンタッチ。
だがこちらは逆に、少しだけ声が跳ねていた。
小悪魔のように挑発する歌い方には、どこかそそられる物を感じる。
ライトアップも、薄赤いものに変化していた。
『仮面で隠したもう一つの秘密は教えられない』
口元に人差し指を立てて、まるで何か隠すようにして笑う。
『もし話してしまえば、終わってしまうから』
二人の声が重ね合う。
静かな妖精と――誘う悪魔。
その二つの音色が混ざり合って、そして歌い、被っていたその仮面を脱いだ――。
『隠した想いは怪物』
仮面を脱いだ先は、彼女たちの素顔ではなかった。赤いラインの浮かんだ黒い顔。
その顔は歌詞通りの怪物のような顔だったが、そこには同時に美しさがあった。
見取れてしまうような、そんな怪しげで引かれるような魅力に、周りの観客たちも思わず息を飲んでしまう。
あれは仮面ではない。
プロジェクションマッピングの技術を応用して顔に投影をしているんだ。
その証拠に、顔に浮かんだ赤いラインは舐めるようにして、彼女たちの顔を這い回る。
『壊しちゃうくらい譲れない気持ち』
自らの身体を抱きしめる結香。
『ずるくて卑怯で嘘つき』
嬉しそうに語る愛果。
『それが仮面で隠した私たち』
手を絡めて、重なる二人の身体。
『ラブ・ダーク、ラブ・ダーク、ラブ・ダーク』
ペルソナキュートの二人はゆっくりと持っていた仮面を再び付け直した。
一瞬訪れる静寂――そして、
オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?
一気に湧き上がる歓声が、会場に響き渡った。
拍手が鳴り、二人を呼ぶ声が聞こえて、会場中が彼女たちに夢中になっていた。
その中で初めて喋り出した――、
『あ、ありがとうございました! 初めてのライブだったので不安だったんですけど、喜んでいただけたならよかったです!』
結香だ。
先ほどあれだけのすごいステージを終えたばかりだというのに、客席の反応が良すぎたためか、えらく緊張したように声がうわずっている。
『みんな、ありがとうー。楽しんでくれたかな?』
愛果の問いに、答える観客。
『ほら、ライト。先に挨拶だったでしょ? 自己紹介も飛ばしちゃったしさぁ?』
『あ、ああ! そうだった! 改めまして! 私たちはペルソナキュートです! そして私は、メンバーのライト!』
『もう一人のレフトだよぉ。もうライトが自己紹介を忘れたまま曲が始まったからビックリしたよ』
『ご、ごめんね……少し緊張しちゃってて……』
『と、こんなおっちょこちょいなライトですが、歌は抜群なんですよ! 皆さんもそう思うでしょ!』
再び湧き上がる歓声。
その中には綺羅星の声も混じっていた。
『私たちのファーストライブということで、皆様がペルソナキュート最初のお客様になります。一人でも多くファンになってくれれば嬉しいなぁ』
それに答えるように、拍手が鳴った。
あれを見て忘れられる人間など早々いないだろう。
多分ここにいる殆どの人間が、ペルソナキュートのファンになってしまったはずだ。
もしかしたら、これを狙ってあえて最後に持ってきたとすら考えられる。
「ファンになりゅ……グッズいっぱい買うゅ……へへへっ」
「そこまでにしておけ、カリスマモデル。口から涎が出てるぞ」
連れもすっかりただのキモオタになってしまった。
しかし初ライブでここまでの成功を収めるとは、本当にすごい。
あの例の敏腕社長の手によるものだとしても、大した物だ。
友達としては素直に喜んだ方がいいのだろう。
だが、何故だろうか。
僕は変な違和感を感じていた。
どうしてこんなにも、結香との距離が離れて感じるのだろうか。
また学校で会えるのだし、別にどこかに行ってしまったわけでもないのに。
その時の僕には、その疑問の正体に気付くことは出来なかった。
現実的事情により、これからの更新は最低でも三日以内にあげるペースにしていきたいと思います。
もしも心待ちにしている読者様がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ございません。
もちろん失踪する気は毛頭ないため、完結までお付き合いくだされば、嬉しいです。
後、どうでもいい話ですけど、新年号の「令和」は素直に格好良いと思いました(コナミ)。
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