7.メインイベント:【ファーストライブ】
結香たち『ペルソナキュート』のデビューシングルの動画の評判はその後も伸び続けて、デビューしてわずか一ヶ月後には、9673プロジェクション主催の合同ライブにサプライズ出演するまでになっていた。
[チケットは送るから、見に来てくれると嬉しいな♡]
と、結香からメッセージが送られてきた。
その日はたまたま暇だったし、僕は行くと返信しておいた。
結香の初ライブに少し興味があるのもあるが、何よりも無料でライブが見られるのならば行くしかあるまい。
[刹那ちゃんはオッケーだって♡]
まあ、そりゃ誘うわな。
と言うわけで、結香のライブには僕と綺羅星の二人で行くことになった。
◇◇◇
七月七日、土曜日。
太陽の日差しが一段と強く感じる今日、僕と綺羅星は東京にあるライブ会場に足を運んでいた。
様々なアーティスト、アイドルたちが出演するというだけあって、観客は多い。
ステージ前では様々な人たちが、ペンライトや目的のアイドルの名前が入った団扇を持って、ライブが始まるのを待っている。
「あ、あの子大丈夫かしら……ちゃんと一人でできるのかしら……」
「授業参観見に来たおかんかよ」
隣に立つサングラスをかけた綺羅星は、血走った目で、ステージを見つめていた。
手元にはお手製の団扇を持ち、『結香、頑張って!』と書かれている。
想いが重いし、結香がペルソナキュートのメンバーであることは誰も知らないため、端から見れば訳の分からない団扇を持った、怖い人である。
「だって心配なんだからしょうがないでしょうが! ああ……! もし失敗したらどうしたらどうしよう……!!」
「どうにもならんわ」
その時は精々、結香が前に話していたもう一人のメンバーの万能少女とやらがなんとかしてくれるだろうよ。
というか、近くで顔を見ると、目元には微かに隈が出来ているのが分かった。
よほど結香のことが心配で眠れなかったのだろうか。
なんと言うか……ここまでくると本当に母親レベルである。
これは何を言っても、気休めにすらならないだろう。
「まだ時間があるようだし、僕、トイレ行ってくるわ」
「あ、ちょっと! 遅れるんじゃないわよ!」
遅れるもなにも、結香たちの出番は最後の最後。トリだ。
よほどの不運にでも巻き込まれない限り、余裕で間に合う。
僕は綺羅星に軽く手を振って、ライブ会場から一度出た。
◇◇◇
トイレを終えるまでの時間、約五分。
ほら間に合った。
ライブは既に始まっているため、廊下まで歌声が筒抜けで聞こえる。
今は激しい曲が聞こえる。
ロックバンドでも演奏しているのだろうか?
まあこの微かな歌を聴きながら、ゆっくり戻ることにしよう。
ライブ会場まで戻ろうと、誰もいない廊下を軽い足取りで歩いて行く僕。
「お久しぶりだね、お兄ちゃん。見に来てくれてたんだぁ♥」
だったのだが、妙に聞き覚えのある声が耳に入って振り向くと、そこにいたのは――愛果。
以前は黒いワンピースを着ていたが、今の服装は違う。
ピンクと黒が綺麗に別れて、混じりあう。そんなドレスのような衣服を纏っていたのだ。
明らかに私服ではなく、これは衣装だ。
それに、彼女が手元に持つのは――片面が欠けた仮面。
それを見て確信する。
「愛果ってもしかして、『ペルソナキュート』の一人。なのか?」
「流石は察しがいいね、お兄ちゃん。そうだよ♥」
なるほど、動画を見たときの既視感は彼女だったからか。
気付けば愛果は僕の目の前にいた。
相変わらず、気配の全く感じられない子である。
「それなら、こんなところにいていいのかよ。しかも素顔出したままで……」
「大丈夫だよ。今はみんなライブに集中してるし、ここは人気も少ないからね」
愛果は口元を小さく曲げて笑う。
「でも嬉しいなぁ♥ お兄ちゃんが見に来てくれたなら、私、ちょっと本気になっちゃうよぉ」
「勘違いさせて悪いけど、僕は友達の誘いで来ただけだ」
と言っても、その友達というのはもう一人のメンバーの結香なのだが。
「へぇー、そうなんだぁ。でも来たんだったら見ていってよ。すごいから、私たちの舞台♥」
「すごい自信だな。一応言っておくけど、僕の採点はそこそこ厳しいからな?」
「いいよ。必ず、お兄ちゃんを虜にしてみせるからさぁ♥」
愛果は持っていた仮面を被り、笑い、気がついた時にはその場から消えた。
「相変わらず、動きが読めない子だな。あの子は……」
でも、彼女の素性が少し知れた。
まさか、結香とコンビを組んでいたのが彼女とは、なんていう偶然か。
とにかくあれだけ期待させたんだ。
楽しみに結香たちの出番を待つとしよう。
◇◇◇
「ちょっとどこまで言ってたのよ! もうすぐ結香の出番なのよ!?」
「ちょっと知り合いとばったり会ってたんだよ。てか、まだ後十組も残ってるのにもうすぐはないだろうが」
「もう十組しかいないのよ! ああ、それまでに万全になるのかしら結香……!? 緊張で不安になってないかしら……! アタフタしてないかしら……!」
それは今のお前である。
でも愛果もああ言っていたので大丈夫だろう。綺羅星が動揺している以外は。
そして隣で綺羅星が、不安で阿鼻叫喚する中、ライブは進んでいき、とうとう結香たちペルソナキュートの出番がやって来た。
ステージの端からは、先ほど見た衣装を身に纏った結香と愛果が現れる。
流石に高校生と小学生のコンビなだけあって身長差がある。
「み、皆さんこんにちは! ペルソナキュートです!」
「こんにちわー♥」
二人のかけ声に反応するように、何人かのお客さんも、それに答える。
一部の人間はそれ以外の歓声を放っていたが。
「ゆ、結香ぁー! 見てるわよ! 頑張ってぇーっ!!」
「おいばか、本名叫ぶな」
他でもない綺羅星である。
幸い他の歓声と混じったため、そこまで目立たなかったが、それでも結香は気付いたのか、こちらを見て小さく手を振った。
「結香ぁ!! 結香が私に手振った!?」
「うるせぇよ、アイドルファンガチ勢か、お前は」
「だって結香が私に手を! 手を!!」
駄目だこりゃ。
あまりの興奮に、キャラ崩壊を起こすレベルでキモくなってやがる……。そっとしておこう。
「初めてのライブで緊張していますが、集まってくれた皆様のためにも、精一杯歌います!」
「必ず皆様を満たして差し上げましょう」
「「それでは聞いてください――『二面性恋愛系』」」
照明が消えて、二人の元に集まる。
そして――伝説が始まった。
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