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1.事前登録のお誘い

 緩木結香――。


 五月二十一日の双子座。

 僕のクラスメートであり、友達であり、そしてかつての親友。

 

 そんな本来であればメインを飾るはずの彼女も、ここ最近硝子さんや、綺羅星の事件があったため、あまり出番はなかった――語られなかった。


 だが今回こそは、彼女のお話だ。


 彼女と――そして、僕の物語だ。


 僕のことを好きすぎてたまに度が過ぎてしまったりする彼女。

 やることなすこと完璧で、非の打ち所なんてまるでない彼女。

 学校のアイドルであり、モデルであり、星5SSR美少女な彼女。 


 そんな彼女(結香)の物語を、語るとしよう――。



◇◇◇



 前回までのあらすじ。

 結香の家まで来たら、黒波墨汁を名乗るスカウトマンが、彼女の家の前に立っていました。


 というか、今も立っている。


 僕らは視線を合わしたまま立ち尽くしていた。 どうすればいいのか分からず、固まるしかなかった。


 僕としては早く家の中に入りたいところなのだが、黒波さんは黙って僕を見つめたままだ。


 これあれか――私の方が先に来たから、入るのも私からだ――と訴えかけているのだろうか?


 聞きたくても、顔と威圧が怖くて聞き返せない……。


「しかし緩木結香の友達とは、都合が良かった」

「へ?」


 僕が質問をするよりも先に、黒波さんはしゃべり出した。


 正直助かった。

 僕が話し出すまで待ってたら、昼どころか確実に夜になるところだった。


 だが都合が良いとはどういうことだろう?


「なに、つまり君は、今から緩木結香と会うのだろ? ならば、その名刺を渡しておいてくれ」

「僕が結香にスカウトの話を振れってことですか?」

「そうだ」

「でもそういうのは、黒波さんが直接話した方がいいじゃないですか? そっちの方が、結香のやる気度も変わってくると思いますよ」

「金は払う」

「やります」


 黒波さんから五百円玉をしっかりと両手で受け取った。

 社長さんだから一万円ポーンとくれるのかと夢見たが、そこはやけに現実的だった。


「金を受け取ったからには責任を果たせよ、少年。それでは頼んだ」


 黒波さんは静かな足取りで、結香の家の前から退いて離れていく。


「もし結香がスカウトに乗らなくても、僕の所為じゃないですからね」

「安心したまえ、それを決めるのは彼女自身だ。失敗しても君を責めたりはしない――それに俺の名前を聞けば、必ず連絡してくるはずだからな」


 それだけを言い残し、黒波さんは今度こそいなくなった。


 にしても、なんという自信だろうか。

 名前を聞いただけで話に乗ってしまうほどの大物だったのか? あの人?


 そこまでに大物だとは知らなかった。

 今度、硝子さんに聞いてみるとしよう。


 僕はようやく入れるようになった結香の家に自転車を停めさせてもらい、チャイムを鳴らす。

 

 待って三秒。扉が勢いよく開いた。


「待ってたよ! 七芽くん!」

「えらく早かったな」

「玄関の前で待ったからね」

「それは悪かったな、ちょっと障害物が無くなるのを待ってたら遅れた」

「障害物? まあいいや! さ、さ、入って入って! 今お茶とか用意するから、先に私の部屋に行っててよ♡」


 右手をがっしりと掴まれて、家の中に引きずられていく。

 別に変なことをするわけではないだろうが、何となく危機感を覚えてしまう。


 だが抵抗しても無意味なため、僕は軽々と結香に引っ張られて家の中に入った。


 結香の家は一軒家の二階建てであり、家の中は清潔感溢れる空間で、人の温もりが感じられた。


 少し大げさに言ってしまったが、要は生活感があるということである。

 こんなに安心してしまうのは、綺羅星邸での出来事が僕にとってかなりのトラウマになってしまっていたからだ。

 他人の家恐怖症だ。 

 

 そうだ、要件を忘れないように結香にあのことを伝えなくてはいけないだろう。


「結香、さっき結香の家の前に男の人が立ってたんだけどさ」

「え、不審者!? 七芽くん大丈夫だった!?」


 そこで自らの身の危険よりも、僕の心配をするのが結香らしい。

 まあ結香ならば、生半可な不審者など返り討ちにできそうだしな。


「いや、芸能事務所の社長さんだったよ、ご丁寧に名刺まで渡してきてな。どうやら結香に用事があったらしい」

「私に?」

「なんでも歌の上手い高校生って噂を聞きつけてスカウトに来たらしいぞ」

「ええ!? わ、私が……? そ、そんな……私そんな上手くないよ……」


 またまた。

 僕は心の中でツッコんでしまう。


 以前カラオケで結香の歌声を聞いたときは、あまりの上手さに――アイドルデビューでもする気か、こいつ――と思ってしまったほどである。


 十分にプロとして活躍できる歌唱力を、結香は持っていた。


「気が向いたら連絡してくれだとよ、はい」

「どれどれ……っ!」


 名刺を見た瞬間、結香の表情が変わり、玄関先まで一気に走り、靴も履かずに外に飛び出した。


 周りを見渡すように首を横に振るが、もう目的の人物は既に去った後だ。


 勢いを失った足で、家の中まで帰ってきた。


「ゆ、結香……? 大丈夫か?」

「う、うん……知ってる人だったから、ちょっと驚いちゃって」


 なるほど。裸足で駆け出してしまうほどに、業界ではよほどの有名人なのだろう。 

 今日にでも硝子さんに聞いてみることにしよう。


「さ……さあ! それじゃあ気を取り直して、夏休みの予定を決めようか!」


 顔の前で手を合わせて笑う結香の表情には、何かを誤魔化すような、そんな焦りが見えた――そんな気がした。

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