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6.課金系美少女

綺羅星星那きらぼしせな綺羅星刹那きらぼし せつなに変更しました。変更はこれで最後です。

何度も変わってすいません(汗)

「綺羅星……刹那……!」


 僕を見下ろしていた綺羅星刹那は、階段を一段一段丁寧に降りてくると、僕の前にへとやってきた。

 目つきは険しく、あからさまな敵意を感じる。


「あんた、どういうつもりなわけ? 結香に付きまとうなんて」

「はぁ……まあそう見えるよね、普通」


 僕はこういう事態を避けるために緩木から距離を取っていたのだが、お昼を一緒に食べた時点でアウトだったらしい。

 全く、世間の判定厳しすぎだろ。

 しょうがない。少し面倒だが、誤解は早めに解いた方がいいだろう。


「勘違いだ。逆に僕が緩木に付きまとわれてるんだよ」

「はぁ? 馬鹿にしてんの?」


 綺羅星の目つきが更にキツくなる。怖っ、美人の怒り顔怖っ……!


「あんたみたいな変なヤツに、結香が付きまとうわけないでしょうが」

「それは僕も同意見だが、とにかく緩木は何故か僕のことが好きで付き合いたいらしいんだよ。そんなに疑うのなら本人に確認してみてくれ」

「……マジなわけ?」


 綺羅星は、今だ疑うような視線を送ってくるも、僕の言葉に嘘が含まれていないことを感じ取ったのか、腕を組み顎を手で持って考えるポーズを取る。


「何よ結香……あんたもしかしてこんな下らないことのために頑張ってたっていうの……!」


 流石、星5SSR美少女・美人枠なだけあって非常に絵になる。

 美少女学生探偵って感じだな。ドラマのポスターでありそうだ。


「綺羅星さんも緩木に言ってくれないか? 僕も正直、緩木と一緒にいると何かと面倒事に巻き込まれるから困ってるんだよ。緩木とは知り合いかなんかなんだろ?」

「親友で、仕事仲間よ。馬鹿にしないで」

「仕事……?」

「あんた、もしかして知らないの……? 結香は私と同じで読者モデルをやってるのよ」

「……マジですか?」


 え、じゃあ何、『転校生』・『美少女』・『読者モデル』なわけ?

 何そのキメラ。ライダー通り越して、『ねがい・かなえ・たまえ』レベルじゃねぇーか。今度から緩木が黄金色に輝いて見えるぞ。


「はぁー、とにかく事情は分かったわよ。それで、逆になんでアンタは結香と付き合いたくないわけ? あんなに良い子、他にいないでしょうが」

「あまり興味のない人間に時間を割くほど、僕も暇じゃないんでね」

「なにそれ……最低の考えね」

「なんとでも言ってくれ」


 だが本音を隠すよりはマシだろう。

 人生無課金主義が僕の目指す生き方なのだから。


「ただでさえ変なヤツだとは思ってたけど、ますますアンタの傍にいさせるわけにはいかないわね。早く遠ざけないと、結香の何もかもが腐っちゃう……」

「それは友達想いなことで」

「それで? 結香はアンタと付き合うまで付きまとうって言ってるわけ?」

「結論を言えば、そうだ」

「──結香はどこにいるの?」

「この先を進んだ、カーテンの閉まった空き教室だよ」

「そっ」


 綺羅星はそれを聞くと、空き教室のある方向にへと歩き出した。その足取りは華麗であり、鶴を連想させる。

 

「僕はここで待つとするよ」

「勝手にすれば? ともかく、あの子はあんたが付き合っていいような子じゃないの。わかった?」

「はいはい、分かってますよ」


 綺羅星を見送ると、僕は廊下の壁際に背を持たれて、スマホを出し『スターダスト☆クライシス』を起動させた。

 綺羅星刹那の介入によって、事態は丸く収まることになるだろう。

 緩木と過ごす昼食は確かに楽しかったが、今日の一回きりで最後だ。明日にはまたクラスで作業的に食事を済ませた後、一人でスマホをいじる。そんな毎日が待っている。

 うん、これこそ星1Nな僕にふさわしい日常だな。

 何事も身の丈に合った生活を送るのが一番である。

 後は全部、綺羅星さんに任せるとしよう。






 あれから15分が経過して、昼休みも残り10分と差し迫った頃、綺羅星が向こうの方から歩いてきた。

 僕は彼女の姿を視認すると、スマホを制服の中にある胸ポケットにへと入れて仕舞う。


「助かったよ、綺羅星さん。これでお互い問題──」

「無理だったわ」

「え? どういうこと……?」


 無理? え? どうして? 

 よく見ると、俯く綺羅星刹那の目の端は微かに赤く染まっていた。多分、泣いたからだと思われる。

 それもあってか、いつも見る自信満々の彼女の姿とは打って変わって、何処かしおらしい印象を受けた。


「まさか結香があそこまで抵抗するなんて思わなかったわよ……本当なんなのよアンタ……? 結香に一体何したわけ……ッ!?」

「誤解だ! 何もしてないからその怖い目つきを止めろッ!!」


 いくら緩木を説得出来なかったからって、僕に八つ当たりするな。


「でもそれじゃあ、どうするんだ? 僕と緩木の関係はこのままか?」  

「そんなことさせるわけないでしょ、アンタみたいな腐った男の傍に結香を置いとけないもの」

「好き勝手いってくれるな……」

「しょうがないわね、こうなったら私が協力してあげるわよ。結香があんたに幻滅するように、手伝ってあげるわよ」

「本当か!?」

「ええ、でもこれで貸し1つよ。この意味分かるわよね?」

「くっ!?」


 不敵に笑う悪魔の口元を見て、僕は思い出した!


 そうだ! 綺羅星刹那は課金系美少女(ヒロイン)! 普通の一般人とは訳が違うんだ!

 そこら辺のモブ男である僕が彼女に何かを頼むとなれば、それ相応の対価が必要となる!

 くそ……正体を現したというわけか……ッ!

 だがこれを断れば、僕の打てる手は同時に減ってしまうことになる……。

 うぅっ……! これは……苦渋の決断だぞ……!


「……分かったよ。君に課金してやる」

「課金? なんのことよ」

「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」

「なら決まりね。それじゃあ色々と指示送るから、連絡先教えなさいよ」


 綺羅星に催促されて、僕らは連絡用アプリのアドレスを交換した。

 どうしよ……僕の連絡帳に両親以外の人間が、二人も登録されているよ……。

 しかもどちらも、クラストップの美少女二人だぞ……?

 いくら人生には変化がつきものと言っても、限度があるだろ。


「言っとくけど、必要な時以外は連絡してこないで。もし守れなかったら即ブロックするから」

「分かったよ」

「そしてもし別の誰かに教えたら──分かってるわよね?」


 綺羅星は光りのない瞳で、僕にスマホの画面を見せてきた。

 そこに表示されていたのは『110(警察)』だった……。なんと恐ろしい女か……。


 綺羅星と別れた後、僕は何食わぬ顔で空き教室にへと入った。

 一瞬、緩木の顔に不機嫌そうな表情が浮かんでいたが、それは僕が入ってきたと同時に消えて、元の優しい笑みを僕に向けてくる。


「おかえり! えらく長かったんだね?」

「まあちょっと頑張ってたからな。……なんかあったか?」

「えぇ、何もないよ? どうして?」

「いや、なんかさっきと雰囲気が違ったような気がしたからさ」

「あはは、気のせいだよ! ほら、そんな所にいつまでも立ってないで座ってよ。もうお昼休み終わっちゃうよ?」

「ああ、うん。そうだな」


 どうやら綺羅星の件を話す気はないらしい。

 ならば逆に好都合。

 僕が口を滑らして、綺羅星さんと手を組んだことを言ってしまう心配もない。


「あっそうだ、忘れてた! 七芽くん、今度ここに行かない?」


 緩木が出したのは、ここから数十分の所にある遊園地のペアチケットだった。


「私、入学するのが遅かったでしょ? 実はあれ、地方での撮影の仕事が長引いちゃったからなんだ。それでマネージャーさんがお詫びにくれたんだ~。ほらっ!」

「分かったから、そう近づけてくるな。ちゃんと見えてるよ」

「だから七芽くん、今度の土曜日にその……一緒に行かない、かな……?」


 僕の頭の中に浮かんだ回答は、もちろん『NO』だ。

 確かに無料で入れるのは魅力的だが、どうしても園内では出費が伴うものである。でなければ遊園地は存分に楽しめない。

 だがしかし、それを休みの日に行けばどうなるか?

 列と人混みで、疲労と時間を消費。

 飲食やお土産で、お金を消費。

 そのダブルパンチにより、僕は肉体的にも精神的にも疲れてKOとなってしまう。

 そんな所に行くくらいなら、まだ映画館に行った方がマシである。


 と、いつもの僕ならばこう切り捨てていたかもしれない。

 だが今の僕には、果たすべき目的と、切れるカードを持ち合わせていた。

 ならば、いつもとは違う選択肢を選んでみるのもアリだろう。


「課金したからには、使ってみるか」

「ん? 何か言った?」

「うん、それじゃあ行こうか。遊園地」

「ほ、本当にっ!?」

「ああ」


 丁度今は開催されているイベントもなければ、育てなきゃいけないキャラクターもいない。

 ならここは、休みの日を有意義に過ごした方がいいだろう。


「ありがとう七芽くん! そ、それじゃあ土曜日、楽しみにしてるね! 何着ていこっかな~!」


 こうして土曜日の予定は決まり、僕はその後こっそりと遊園地の予定を綺羅星にへと知らせた。

 さて、課金系美少女の力がどれくらいなのか、見せてもらおうか。ふふふふっ……!

 

 僕は静かに笑い、緩木はそんな僕の顔を気味悪がって見ていた。

 どうやら、僕にはクールな悪役は似合わないらしい。

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