22.メインクエスト:【本当の繋がり】
「なんで……確か……仕事だったんじゃないの……?」
子供綺羅星時の記憶が微かに残っているらしく、綺羅星は不思議そうに結香を見た。
結香は依然、微笑んでいる。
今にも崩れ落ちそうな綺羅星に、一歩一歩近づきながら。
「あれは嘘。私が近くにいたら、もしかしたら刹那ちゃんの心を開けない可能性があったから、私が傍にいるわけにはいかなかったの」
「……ゆ……か……」
結香は駆けた――倒れそうな綺羅星を抱きしめるために。
結香は綺羅星をしっかりと両手で掴み、そして優しく抱擁する。
「ようやく出てこれたんだね、刹那ちゃん……本当によかった。これでもう、刹那ちゃんに私の気持ちがちゃんと届くんだね……」
「それってどういう……もしかして、あいつが私と付き合おうなんて言い出したのって……」
「うん、私が七芽くんにお願いしたんだよ」
「そう……全部、バレてたのね」
綺羅星は全てを理解した。
自分が上辺だけの気持ちで結香と仲良くしていたことを、彼女が知っていたことに。
何もかもを失ったとばかりに、綺羅星の両手の力は無くなり、宙を彷徨う。
だがその分、結香が綺羅星を強く抱きしめて、彼女に暖かさを分け与える。
「刹那ちゃん、今だからこそ言うね。私の本当の気持ちを」
「やめ……て……言わないで……」
「刹那ちゃん、私はあなたと友達になりたい。出来ることなら親友にまでなって、刹那ちゃんと一緒に、喜びも悲しみも一緒に分かち合いたい。共有したい。だから刹那ちゃん──もう一人じゃなくていいんだよ」
「っ……結香……結香……っ!」
綺羅星は息を吹き返したよう、結香を抱き返し、再び涙をこぼした。
結香の服に皺を作る程に強くしがみついて、そんな綺羅星の姿は確かに生きていた。
上っ面だけではない、本当の感情をむき出しにして、結香の気持ちに応えたのだ。
「これで本当に……繋がる事が出来た……友達になれたんだね……っ」
確信できた瞬間、二人は泣いた。
周りのことなど気にせずに、ただひたすらに互いの存在を確認するように強く抱きしめあって。
二人の心はようやく、繋がることが出来たのだ。
ならば、邪魔者はとっとと退散することにしよう。
僕は二人に背を向けて、その場を後にした。
「今回は本当に助かった、改めて礼を言うよ。ありがとうな、綺羅星を許してくれて」
『別に。私はただ、終わらない過去に終止線を引きたかっただけだから』
「そうか」
綺羅星と結香の元から去り、僕は園内にあるベンチから奏に電話をかけていた。
電話越しから聞こえる高音奏の声は、こないだと変わらず無機質なものだったが、そこには何かしらの感情を含んでいるように思えた。気のせいかもしれないが。
「また落ち着いたら綺羅星と会ってやってくれよ、せっかく仲直りしたんだしさ」
『いいえ。私たちはもう、二度と会うことはないわ』
「え、でも『またね』て言ってただろ?」
『あれは別れの言葉よ、彼女も分かってる。いつまでも過去を引きずる訳にはいかないから』
「でも、たまたま遭遇するかもしれないぜ?」
『…………その時は、仕方ないと諦めるわよ』
ならば今度、綺羅星と結香の三人で彼女の高校の文化祭にでも突撃してやるとしよう。
今回のお礼もしたいことだし、他の学校の文化祭と言うのも気になるからな。
『それじゃあ、さようなら』
「ああ、そういえば、あんたを調べるためにネットで昔の動画を見たんだけどさ」
『……そんなものまだ残ってたの?』
「何分ネットの世界は広大だからな」
『それで、それがどうしたの』
「あんたの歌声、確かに綺麗だったよ。綺羅星が好きって言ってた気持ちがよく分かる」
『お世辞?』
「心からの本心さ、僕はよいしょが嫌いなんだよ。だから今度、生で聞いてみたいなと思ってさ。文化祭……とかでさ?」
『……気が向いたらね』
そう言って今度こそ高音奏は電話を切った――そして入れ違いのように着信がかかった。
結香からだ。
どうやら全ては解決したようだ。
僕は肩の荷が下りたように身体が軽くなり、口元を緩めて電話に出た。
第一声に聞こえてきた二人の声は、とても元気そうで、そしてなによりも仲の良い友達のようだった。
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