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20.メインイベント:【再戦】

「よう、昨日ぶりだな」

「げっ! ストーカー野郎!」

「うるさい」


 火曜日再び、僕は加保と奏に会うため、放課後高校前で張り付いていた。


 加保があからさまに叫んだため、周りの目線が痛い。


「何しに来たの……?」

「説得しに来たんだよ。綺羅星を助けてくれ」

「昨日言ったはず。あの人と会う気はない」

「興味がないからか?」

「そう言った」


 僕の口元が緩む。

 その言葉が聞きたかったからだ。


「なら質問なんだが、そのカバンに付いてる物はなんだ?」

「っ」

「はぁ? 私のおそろいのキーホルダーですけど? ねぇ、奏♪」

「いや、お前のカバンに付いていない物のことを言ってるんだよ」

「!」


 奏は僕の言葉の意味を確信し、身構えてカバンを後ろに隠した。

 それは、僕の言葉が正解であることを示している。


「見せてくれよ、高音さん。あなたのカバンに付いている、その金色のキーホルダーを」

「……」

「ちょっと! それがなんだっていうのよ!」


 隣で騒ぐ加保を無視して、僕は高音奏に近づく。

 高音奏も粘ってもしょうが無いと判断したのだろう。直ぐに力を無くして手をぶらつかせて、カバンを隠すのをやめた。

 確認するとやっぱり、金色の輝くキーホルダーが付けられていた。

 ☆と♪のマークの付いたキーホルダーが。


「やっぱりな」

「とっとと奏から離れなさいよ!」 


 加保に無理矢理押しのけられて、僕は再び二人と距離ができた。

 だが既に目的は果たされたため、問題はない。 


「なによ! これが一体なんだっていうのよ!?」

「そのキーホルダーは、綺羅星刹那がデザインした雑誌の付録なんだよ」

「! た、たまたま買った雑誌に付いてただけでしょ? ね、ねぇ、奏……?」


 加保は恐る恐る聞くも、奏の表情は依然無表情。

 だがいつもよりも平坦になって見えた。


「その付録が付いてた雑誌の表紙は綺羅星だったんだよ。『もう会いたくない』て、言ってる人間がたまたま買うなんてあり得ないだろうが」

「それは!」

「もうやめて、加保。もういい……」

「奏……あなた……」

「高音奏、あんたはまだ綺羅星に何かしらの興味がある。違うか?」

「…………そうよ」


 今度こそ認めた。

 それを聞けて僕の拳の力が強くなる。

 

「なんで! どうしてなのよ! 奏! あんな酷いことされて、まだあんなやつに未練があるって言うの!?」

「……加保、加保が傍にいてくれたから、私はこうして今も生きてるんだと思う。そのことについては感謝してるよ」


 加保の手を取り、奏はそう優しく語りかけた。


「奏……」

「でも、私も未だあの過去に囚われたままなの。せっちゃんと同じくね」

「!」

 

 せっちゃん――とは、綺羅星刹那のことを指しているのだろう。

 

 虚ろな目が僕を見た――しかしそこには、決意の炎がわずかながらに揺らめいている。


「綺羅星を助けてくれ。あいつの救えるのは、あんたしかいない」

「……分かった」

「奏!」

「大丈夫。大丈夫だから」


 今にも不安で泣きそうな加保を、奏は優しく両手で包み込む。

 加保もまた、結香と同じく親友が壊れてしまわないか心配なのだ。


「私ももう、過去から自由になりたいから。前に進みたいから」

「かなで……」

「それで、どうするの?」

「計画はもう考えてある。決行日は土曜日だ。詳細は追って連絡する」

「ま、待ちなさいよ!」


 立ち去ろうとする僕に、加保が吠えた。

 

「あ、あんだ、奏になにざせるつもりなのよ!?」

 

 その声は涙交じりであり、少し枯れている。


「もちろん彼女を傷つけるような真似はしないさ。ただ僕のすることに、ちょっとした手助けがほしいのさ」

「手助けでずって……? あんた一体なにするつもりなのよ……」


 僕は得意げに笑い、こう言った。


「決まってる、綺羅星と遊園地デートだよ」


 今度こそ奏たちと別れて、後ろからは加保の困惑した声が聞こえた。

 ただその後に奏が何か呟いたようだが、はっきりと聞き取ることは出来なかった。


 予想だけど――知ってたのね、あの場所を――と言った気がした。

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