17.サブイベント:【救いを求めて】
チャイムを鳴らし、僕は扉が開くのを待った。
先ほどから頭の中がくぐもり、反芻する中、いつの間にか扉は開いていた。
中から出てきたのは、黒色のジャージに、白色のシャツを着た部屋着姿の硝子さん。
いつも通り髪が跳ねて、頭の上には黄色のレンズをはめ込んだブルーライト眼鏡を乗せている。
「は、はーい……どなた様ですかぁ……へっ? じょ、ジョーカーくん……!? ど、どうしたいの!?」
「慰めてください……硝子さん……」
気付いた時にはもう、僕は硝子さんの胸元に倒れ込んでいた。
彼女の熱が服ごしから顔に伝わり暖かい。
「な、な、な!? ど、ど、どうしたの……!?」
「もう……何も考えられないんです……とにかく疲れました……」
「……何があったのかは分からないけど、大変……だったんだね」
硝子さんはそのまま玄関に立ちながら僕を抱きしめてくれた。
熱は柔らかく僕を包み込む。
それだけで幾分かは、心が穏やかになった。
奏に完全な拒絶をくらい、僕はさまよえる足で硝子さんのアパートまで来ていた。
わずかに残った僕の頭が、結香に今の顔を見せる訳にはいかないと判断したのだ。
そのぐらい僕は参ってしまっていた。
身体は重く、思考かぼやけて、次に打つ手が見えない。
だから誰かに癒してもらいたかった。
そして硝子さんを頼ってしまった。
卑怯で、酷い話だ。結香にこんな酷い顔を見せられないという理由で、普段は素っ気なく振る舞っている硝子さんに頼っているんだから。本当に最低だな、僕は――。
硝子さんは家の中に入れてくれて、マグカップを僕の前に置いてくれた。
中身はココアだ。厚い湯気が顔まで上がり、甘い匂いを立たせてる。
一口飲んだ。
硝子さん基準なのかものすごく甘かったが、逆にそれで頭が冴えた。
「それで……どしたのかな?」
僕の左隣に座った硝子さんは、左手に触れてきて、優しい口調で聞いてくる。
安心したのか、僕はこれまでの経緯を包み隠さず、全て吐き出してしまった。
今までに起きたこと。綺羅星の部屋のこと。彼女と奏のこと。唯一と言っていい綺羅星を救う方法を失ってしまったこと。
その全てを、硝子さんに言ってしまった。
色々と隠そうとは思った。綺羅星個人に関わる話も含まれている。
だから黙っていようと思った――でも出来なかった。
気付けば口からあふれ出て、そんな気配りをする余裕もなかったんだ。
硝子さんはそれらの話に何度か相づちを打ち、静かに聞いてくれていた。
「そうかぁ………綺羅星ちゃんが……本当に大変だったんだね」
「硝子さん……僕、どうすればいいですか……?」
「そうだねぇ……」
硝子さんは天井を見て――んー――と言いながら考えを巡らせているようだ。
そして言った。
「わからない」
「そ、そんな……」
もう硝子さん以外に相談出来る人がいないのに……!
そう焦った僕の身体に、突然硝子さんが大きく手を広げて抱きしめてくれた。
彼女の吐息が、耳元に聞こえてくる。彼女の顔の熱が、いつもよりも近い。
「しょうこ……さん……」
「わたしにはそんなこと思いつかないよ、ジョーカー。でも君なら――どんな問題も解決してきた君でなら、きっと綺羅星ちゃんを助ける手段を思いつけるはずだよ」
「っ! それが出来ないから言ってるんです……綺羅星はもう完全に心を閉ざしてしまいました。高音奏が、唯一彼女の心の壁を壊す手段だったんです……! でも……それも、もう使えない……っ」
「そうなんだね……やっぱりわたしには思いつかないよ。だからわたしはわたしの出来ることをする」
「それは……なんですか?」
「ジョーカーを癒やしてあげることだよ」
ようやく硝子さんが僕の顔を見てくれた。
穏やかに微笑む彼女の表情が、僕の視界を埋めた――ドキッとした。
大きく開いた瞳に、潤んだ唇。そしてそれらのパーツを操りはにかむ彼女の顔はとても大人びて、魅力的に見えてから。
「ジョーカーが方法を思いつくまで、わたしがいっぱい癒やしてあげる。あなたの傍に一緒にいる。それぐらいしか、わたしには出来ないから」
「……ありがとうございます。硝子さん」
まるで不出来な弟をあやす姉のようだ。
立場が逆転してしまっていた状況に気付き、僕は思わず微かに吹き出してしまった。
今までは硝子さんのことを酷く駄目駄目な駄目人間お姉さんだと思っていた。
でもそんな認識は間違っていたのだ。
どんなに駄目駄目でも、硝子さんだって二十歳のお姉さん。
頼りになるときだってあるし、魅力的に見えることだってあるんだ。
そのことをすっかりと忘れてしまっていた。
「硝子さん、愛してます」
「へっ!?」
硝子さんの手がすぐさま僕の身体から飛んで、真っ赤な顔が見つめてくる。
弾き飛ばした手をわちゃわちゃさせながら、何か言おうと声を出していた。
「そ……それって……こ、告白ってこと……?」
「結婚はしたくないですけどね」
「も! もう! ジョーカーくんばーか! ばーか!」
更に真っ赤な顔でキレる硝子さんに僕は思わず笑い出してしまった。
硝子さんの言うとおり、僕は癒やされた。気分転換になった。
頭も冴えているし、元気も出た。
これなら確かに、また新しい考えが浮かびそうだ。
気を取り直した僕とは対照的に、今だ口を膨らませてぷんぷんしている硝子さん。
よほど怒っているらしい。
「本当ジョーカーくんは酷いんだから……」
「すいませんて硝子さん。でも本当に助かりましたし、愛してるのも本当です」
「……ほんとに、ほんと?」
「親友としてですけどね」
「言ったなぁー! それじゃあジョーカーくんをその気にさせやるんだから! ちょっと待ってて!」
台所に投げ出され、部屋の扉は閉められてしまった。
流石におちょくりすぎたかな?
少しだけ反省する僕だったが、今から行なわれる展開が予測できない。
僕をその気にさせる?
つまり、恋愛対象として見させるということだろうか?
あれ? それって色々とまずいんじゃないか?
撤退しようか迷い足を上げたが、それよりも先に扉が開いた。
するとそこにいたのは――、
「なっ!?」
「こ、これでどうぉ!? じょ、ジョーカーくん!! 流石にこれなら君も我慢できないでしょ!!」
部屋から現れたのは硝子さんだ。
だが先ほどと服装が違う。
黒色ジャージと、白色のティーシャツ姿だった彼女の服は別の物に変わってしまっていた――いや、もはや服と言える代物を着てはいなかった。
要するに、
「硝子さん。それ、自主規制です……」
とても見せられた代物ではなかった。
次回は中々にひどい回になると思います(予定)
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