10.サブイベント:【ゲーム? リアル? ボードゲーム!】
自宅から自転車を走らせて二十分。
スマホの地図を数度確認しながら、住宅地を縫うように進むと、一際目立つ大きな家が見えた。
地図と照らし合わせると、綺羅星の家で間違いないらしい。表札も『綺羅星』と書かれている。
にしても、でかい。
この一言で片づくくらい、綺羅星の自宅は大きかった。
豪邸とまでは言わないが、明らかに周りの家とは一線を画していた。
まるで住宅街の中に佇むお城のようにも見えた。
ご大層な門を抜けて、玄関横に付けられたチャイムを押した。
一息すると、扉が開き、この城の主人が顔を出す。
「いらっしゃい。結香はもう来て料理してるから、入りなさいよ」
「あ、ああ、お邪魔……します」
綺羅星の格好は、いつもに比べてえらくラフであり、少し面を喰らってしまう。
自宅なんだから当たり前なんだが、少しだけ心を掴まれたようなそんな感覚に襲われた。
綺羅星に続いて家の中に入ると、玄関広場は吹き抜け構造となっており、天井は高く、開放感溢れる空間が広がっていた。
改めて家の広さを見せつけてくる。
だが同時に、どこか殺風景で空虚さを感じた。
でも玄関にはあまり物も置いてないし当たり前か。
綺羅星に案内されたリビングに入ると、中は数々のインテリアが置かれており、昔テレビで見た高級ホテルのような内装をしていた。
どの家具もシンプルなデザインながら、高そうに見えた。
「わーお、どこのリゾート地だよ……ん? この匂いは?」
漂う匂いにつられて鼻を鳴らすと、それはリビングと平行して備え付けられていたキッチンからだった。
よく聞けば、鼻歌も聞こえてくる。
「ふんふんふん、ふぅ~ん♪ あ、七芽くんおはよう!」
結香は相変わらず元気な声で挨拶してきた。依然、調理中。
両手で米の塊をコロコロ回転させながら握っている。
「何作ってるんだ?」
「これからゲームとかするし、全体的に片手間で食べれる物にしようと思って、おにぎりとサンドイッチを作ってるんだぁ。後、フライドポテトに、二人に評判だったからハンバーグも作ったんだよ? スープはコーンスープとオニオンスープの二種類あるから、楽しみにしててね♡」
「いやいや加減しろよ、そんなに作って、僕だってそんな大食漢じゃないんだぞ……?」
「ちゃんと食べきれる量に調整してあるから大丈夫。前にも言ったけど、私、結構な倹約家なんだよ? そこら辺もばっちりだよ!」
そういえばそんなこと言ってましたね。すっかりと忘れてましたわ。
そんなウインクしても僕は堕ちねえぞ。
「それにサンドイッチやおにぎりなら、冷めても食べれるしね」
「後、適当にピザも頼んでおいたわよ。これだけバリエーションがあれば十分でしょ」
「ピザ!? わーい! こういう時にしか食べれないから楽しみだよ! 後でお金払うね!」
「いいわよ、結香は」
「僕は?」
「分かってんでしょ」
「ア、ハイ」
割り勘ですね、分かります。
結香の調理も終わったため、僕らはそれらをリビング中心にある低いテーブルの上に並べて、全員床に座り込んだ。
「それじゃあ、結香。誕生日おめでとう」
「おめでとうさん」
「わーい! ありがとう!」
クラッカーを鳴らして結香のお祝いをし、軽く食事を済ませた僕らは事前の話通りゲームをすることにした。
最初こそ結香にプレゼントとした例のアクションゲームを楽しんでいたのだが、数時間もすればそれも飽きてくる。
だから他のゲームをしようということになったのだが、これがとんでもない事態を招くことになった――。
「次は何しようか?」
「目を休める意味でも、ボードゲーム系なんてどうだ? 楽しいぞ?」
「あんたがやりたいだけじゃない? いつもの死んだ目がえらく輝いて見えるんだけど?」
「人が集まってる時にしかできないんだから、そりゃあやりたくもなる。僕は友達が皆無だからな」
「友達いないのになんで買ってるのよ、意味ないでしょうが……?」
「ゲーム内容を見てるとやりたくなってくるんだよ。それに個人販売のボードゲームだと再生産もなかなかかからないし」
だから気になったらその時に買わないと、もう手に入らないなんてこともざらにある。
そう思うと……ついつい買ってしまうのだ。こればかりは仕方がない。
そうだ。せっかくだし、今度硝子さんとも一緒にやろうっと。きっと楽しめるはずだ。
「あ、これ面白そう!」
楽しい未来の想像を膨らませている間に、結香が一つの箱を取り出した。
箱に写っていたのは、制服を着たキャラクターたちが描かれていた。
「『わくわく! ドリーム・スクールライフ』?」
「学生版の人生ゲームみたいなものさ。所々でルールは違うけどな」
例を挙げれば、
乗り物が自転車。
恋人枠が三人まで。
期間は高校入学から卒業までの三年間であり、現金の他にスクールポイントと呼ばれるポイントを集めることで、『リア充』、『普通学生』、『ボッチ』の三段に構成されたスクールカーストが変動する。
と数々の違いはあれどただのすごろくだ。複雑でもなし、このメンバーなら丁度いいだろう。
イベントの書かれたパネルを広げ、スタート地点に各自駒を置く。
じゃんけんの結果、先行は結香からとなった。
「それじゃあ行くよ~! それ~!」
備え付けられたルーレットを回すと、出た目は、『5』だった。
結香は駒を進めて、下に書かれたイベントを読み上げる。
「なになに、『昔の知り合いと再会し、同じ学校に通う事になってウキウキ気分。スクールポイントを5もらう』。わぁー、まさに私たちのことだね♡」
おい制作陣。なんでこんなピンポイントなマスを作りやがった。もっと他にはなかったのかよ。
……いや、むしろ僕らの事例の方があり得ないのか。
「次は私ね。よっと……『10』ね」
なんと綺羅星は開始早々に、出目マックスの10を出し、一気にこのゲームのメインイベントの一つに辿り着く。そのイベントとは、
『彼氏獲得イベント』
人生ゲームで言うところの、結婚イベントのようなものだ。
出目の数によって、できる恋人の数が決まり、その人数によって獲得できるスクールポイントも変動してくる。
「それじゃあ、よっと。……また『10』? この場合はどうなるのよ?」
「えっと……、
1~3がゼロ人。
4~6が一人。
7~8が二人。
9~10が三人。
だから、一気に三人彼氏ができる。三股だな」
「流石だね……刹那ちゃん……」
「全然嬉しくないから!?」
綺羅星の自転車に三人の男性棒を差し込む。
だがなんとも笑えるようで笑えない。
綺羅星の場合、その気になれば本当に三股。いやそれ以上の男を手玉に取ることも出来そうだ。
なんだろう、このゲーム……先ほどからえらく身近な事ばかり起こってる気がするぞ……? 妙に生々しくなってきた。
嫌な予感を感じつつ、ようやく僕もルーレットを回す。
お、綺羅星と同じく『10』だな。てことは、僕にも彼女が出来るのか。さて、僕はどうなるかなぁーと。後結香さん、そんなに見られるとちょっとやりにくいんで、眼光の強さ弱めてもらえませんかねぇ?
結香の目が光る中、ルーレットを回すと、出た目は『9』だった……。
僕に三人の彼女が爆誕した瞬間である。
「ナナメクン……? ナニシテルノカナ?」
「待て待てぃ!? ただのゲームだから落ち着けよ!?」
ゲーム世界内まで嫉妬心を燃やすな。そんなんじゃ怖くてギャルゲーすら出来なくなっちまうだろうが。
「第一、僕が現実でそんなにモテるわけはずないだろが! ゲームと現実を混同するんじゃねぇよ!」
「もう……七芽くんの場合、本当にあり得るから怖いんだよ……硝子さんの件もあるし……」
「安心しろ。僕なんて好きになるなんてのは、お前らみたいな変人くらいだよ。そうポンポンとフラグ出来てたまるか」
「どうだか……」
「ちょっと、いちゃつくのはいいけど、ターンを終わらせてからにしてくれない?」
「ああ、ごめんね。えっとそれ!」
結香は焦ってルーレットを回すと、『6』が出たので、強制的に恋人イベント突入だ。
再びルーレットを回すと『5』が出て、結香には一人の恋人が出来た。
「やったー! これでようやく、七芽くんと恋人になれたね♡」
「ゲームと現実を混同するなて言ってるだろうが。おいよせバカ近づいてくるな、抱きついてくるんじゃねぇよ!?」
「はいはい、それじゃ私の番ね」
結香に巻き付かれる僕を無視して、綺羅星は無情にルーレットを回して駒を進めた。
「えっと、『友達の彼氏が浮気する。励まして共に苦しみを乗り越えたので、スクールポイントを10もらう』……あんた」
「だからゲームの中だって言ってるだろうが!? そんな目で僕を見るな!!」
「わー、とってもリアルな話しだねぇー?」
結香の目が真っ黒に染まった。
なんだよさっきから出てくるイベントは!?
なんとなくあり得そうなことばかりでハラハラしかねぇよ! なにがわくわくだ! ふざけんな!
結香と綺羅星の視線に刺されつつ、ゲームはその後続行。熾烈を極めた。
波瀾万丈な学園生活を終えた僕らの最終的な結果は、
綺羅星は現実と同じくスクールカースト上位に食い込み青春を謳歌。三股も解消されて、無事運命の相手とも結ばれて幸せに卒業。つまりゴールした。
結香も一番最初にくっついた彼氏と紆余曲折ではありながらも、共に一緒の大学に進むことになり、卒業。
……一方の僕はといえば、スクールポイントを上手く回収できず、現実と同じくスクールカーストは最下位。
その上、三人のヒロインとの仲も悪化して、最終的には修羅場と化し、爆死四散のデッドエンドを迎えたのだった……。悲しみの向こうに旅立ってしまったため、もちろん卒業もしていない。
なんでだろうこの身につまされるエンディングは……。
普通だったら笑ってもいいくらいにあり得ないことなのに、汗と震えが止まらない……。
「あーあ、七芽くん死んじゃったねぇ、可愛そうに。酷い彼女さんたちたちだったんだねぇ。でも大丈夫だよ? 私は殺すなんてそんな残酷なことはしないかさぁ」
結香は、どこか含みのあるような言い方で僕の肩に寄り添って、寄り添ってくる。
まるで殺害以外の方法はするかと言わんばかりに……。
「三股を続ければそうもなるわよ。だから、あんたも精々気をつけなさい」
「ハハハ、コレゲームダカラ、ゲンジツトチガウカラ……」
ゲームの中とは言え実感が半端なかったので、綺羅星の言うとおり気をつけるよう心がけることにした。
浮気、ダメ絶対。
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