9.サブイベント:【緩木結香のギフトボックス】
迎えた五月二十一日。
四限目が終わり、僕と結香はいつものように昼食をとるため、空き教室にいた。
それまでならいつも通りだが、今日は少しだけいつもと違う。
今日は綺羅星刹那もいた。
「わーい! 今日は刹那ちゃんも一緒だぁー!」
「別にお昼を食べに来たんじゃ……」
「あ、これ食べてみて。自信作のハンバーグ!」
「んぐっ……美味しいわよ……」
「よかったぁー♡ 七芽くんも食べてみてよ!」
「いつも通り美味しいです。結香さん」
「どうして片言なわけぇ?」
ふくれっ面の結香が僕に抗議してきた。
流石に第三者の目の前でいつものやりとりなどできるものか。
断固拒否する。じゃないと僕の羞恥心が持たない。
「そうだそうだ! 刹那ちゃん、最近雑誌の表紙になってたよね!」
結香は持ってきていたリュックサックから、雑誌を取り出し、綺羅星に、おりゃー、と言いながら突き出した。
確かに雑誌のトップを飾るのは綺羅星であり、いつも以上に大人びた姿をした彼女がそこにはいた。
「ああ、こないだ撮影した写真ね」
「しかも刹那ちゃん、雑誌のキーホルダーまで作ったんでしょ! 私、それも目的で買っちゃったもん!」
結香の言うとおり、雑誌には『綺羅星刹那デザインのアクセサリー付き』と書かれている。
どこまで多芸なのだ? もはや結香の誕生日プレゼントも自分で作ればよかったんじゃないか?
「すごいよねぇ! 刹那ちゃんて本当に何でも出来るんだね!」
「単にデザインを頼まれただけよ。実際に作ったのはプロの人だから私は関係ない」
「それでもすごいよ! こんなに何でも出来ちゃうんだから!」
そう褒める結香だが、綺羅星は一瞬だけだが口元を噛んだ気がした。
綺羅星はお返しとばかりに、結香の前に紙袋を突き出し返した。
「なにかな? これ?」
「結香、今日誕生日でしょ。だから誕生日プレゼントよ」
「そうそう! 五月二十一日の双子座! て、え? え? 本当に本当なの? わぁ……! わざわざ買ってきてくれたんだぁ! 刹那ちゃん! ありがとう!」
「っ……ま、まあちょっとした気持ちよ……」
目を逸らした綺羅星と丁度目が合ってしまったため、僕はウィンクを返した。
な? 言った通りだったろ。という意味を込めて。
すると、口パクで『う・る・さ・い』と返してきた。素直じゃないなぁ……。
「そんなことよりも、あんただって渡す物があるでしょうが! ほら! とっとと出しなさいよ!」
「えっ!? な、七芽くんも誕生日プレゼントくれるの……?」
「なんだよ、その意外そうな顔は」
「だ、だって私、七芽くんに誕生日のこと教えてないよ……?」
「ああ、綺羅星から聞いた」
「結香もどうして言わないのよ。日頃散々こいつの世話してるんだから、この際何かおねだりすればよかったのに」
結香は愛想笑いを浮かべて、困ったように僕を見た。
言えなかった理由はあるが、綺羅星にこそ言えないもんな。
しょうがない。ここは助け船を出すとするか。
「結香は遠慮がちなんだよ。そういってやるな」
「それに私の欲しい物は総じて七芽くんには却下されちゃうからね。それ以外は特に欲しい物なんてないよ。七芽くんといられれば、私はそれだけで幸せだから」
「相変わらず甘ったるいわねぇ……胸焼けがしてきたわ……」
「同感だな、僕もだ」
「な、なんで二人とも口を押さえるの!?」
口の中に広がる甘さを僕らは抑えつつ、僕はカバンの中からある物を取り出した。
それはラッピングした正方形の箱状の物である。
それを、結香に手渡した。
「随分大きいわねぇ……何持ってきたのよ……?」
「開けてもいい?」
「ああ、多分これがベストな選択だと思った」
結香は僕が巻いたラッピングを丁寧に取り外し、謎のプレゼントの正体が現れた。
その瞬間、結香の瞳が一気に開き、口元が空いて、か細い声が漏れ出た。
「これって……これって……!」
「ゲーム機?」
「僕らの思い出の品だよ。結香と初めて会った時に一緒にやったゲーム機とソフトさ」
そう。僕が結香にあげたのは、黒台風時代の結香とやった思い出のゲーム機とソフト。
前に結香と綺羅星が来たとき、結香がやろうやろうと言ったアクションゲームソフトと、それをプレイするための機器である。
僕の物持ちのいい性格が幸いし、ゲーム機もソフトの箱も大事に部屋の隅に仕舞っておいたのだ。
それを取り出して箱に入れ直し、自分でラッピングをしてこうして持ってきたというわけだ。
「ほ、本当にいいの? 七芽くん?」
「もう僕もやる機会はあまりないだろうと思うし、それなら結香にプレゼントとした方がいいと思ってさ」
「ありがとう、七芽くん……大事にするね……本当に、大事にするから……」
結香はその箱を大切に、優しく抱き寄せる。
心底大事そうに、過去の記憶を抱きしめた。
「さて、用も済んだことだし、私はこれで行くから後はいつも通り二人で楽しみなさい」
「あ、待って!」
「! ど、どうしたのよ、結香……?」
急に引っ張られ、綺羅星の身体は後ろに反り返った。
慌てふためく顔で綺羅星は結香を振り返る。
僕に向けられる冷たい目線ではなく、友達同士の柔らかなものである。いつもそんな感じなら、僕の好感度も少しだけ上がるんだけどな。
「二人にもらいっぱなしじゃ私の気が収まらないよ! だからお礼させて!」
「お礼て……誕生日プレゼントなのよ? そのまま受け取ればいいのよ」
「ううん、私がしたいの。だから私のしたいことさせて、誕生日なんだからさ」
「……ふぅ、もう、しょうがないわね。分かったわよ」
「やったー! それじゃあ誕生日パーティーしよう!」
「誕生日パーティーを主役本人が準備するのもどうなんだ?」
思わずツッコんだ僕に、結香からウィンクが飛んできた。何かを伝えようとしている。
そうか! ここで綺羅星とイベントを重ねることで、より心の壁を薄くすることが出来るってわけだな! そうと分かれば話は早い。僕も結香の意見に乗っかるとしよう。
「まあ、でも結香がやりたいならしょうがないな。でも具体的には何をするんだ?」
「みんなでカラオケでも行かない? というか私三人で行きたい!」
「ごめん。私パス。私、歌は歌わないのよ」
「すごい音痴なのかぐぅっ!?」
「違うわよ、この超BM」
否定するなら言葉だけにしろよっ……弁慶の泣き所に蹴り入れなくていいだろうが……!
てかお前だってよく分からねぇ言葉使ってるじゃねぇかよッ!?
睨む僕に、綺羅星は何処吹く風とそれを流した。
「歌わなくていいのなら、それでもいいわよ」
「それじゃあ、刹那ちゃんが楽しめないから駄目だね……それなら、みんなでご飯食べたりゲームしたりするのはどう? 丁度七芽くんからもらったゲームもあるし!」
「それなら家ですればいいわ。住んでるの私一人だけだし」
「本当に!? それなら材料は私が持って行って料理するね!」
「なら僕は何個かゲームでも持って行くよ。デジタルからボードゲームまで色々と」
「やったー! それなら決まりね! 決行日は今度の土曜日にしよう! 二人とも朝まで寝かせないからねぇ?」
こうして結香主催の、結香のための誕生日パーティーが急遽決まった。
次回、綺羅星宅へ、レッツラゴー!
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