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8.イベント:【分からない友情】

「それじゃあこれは?」

「今時、ハートのアクセ送られて女子高生が喜ぶとでも思ってんの? 却下よ、却下」

「ええぇ……そうなの……?」


 僕が結香のプレゼント用に提案したハートのアクセサリーは、またもや綺羅星によって却下された。

 これで通算十回目である。どうやら僕と綺羅星とでは、価値基準が根本的に違うらしく、プレゼント選びは思った以上に難航していた。

 だが既に僕の頭の中にあった候補リストは、×で埋め尽くされている。これ以上、他のプレゼントが思いつかない。


「なぁ、そんなに言うんだったら、もう綺羅星が決めてくれよ。そもそも同年代の女の子にプレゼントなんて贈ったことないから、勝手が分からないんだよ」

「それはあんた自身が決めなさい。じゃないと、プレゼントの意味がないでしょうが」

「じゃあ、このアクセサリーでぇ」

「却下よ」

「くぅっ! じゃあ何が正解だっていうんだよ!?」 

「結香にとって、あんたから渡されて意味があるものよ。それを考えなさい」

「なんだよそれ!? それなら綺羅星が買ったエプロンはそうだっていうのか! なら僕もそれにする!」

「違うわよ。これは友達としてのプレゼント。そんなことも分からないわけ?」

「こ の 野 郎 が っ !」 

「でも、あんたは結香の特別でしょうが」

「っ」


 そう言った綺羅星の表情は、表には出していなかったが、瞳の奥底は闇に落ちたビー玉のように暗い蒼色で、どこか悲しそうな感情を感じた。

 僕はそこでようやく、綺羅星の中にある心の壁の一部を垣間見たような気がした。


「あんたはいいわね。何を贈っても、結香は絶対にものすごく喜ぶんだから」

「……そう卑屈になりすぎるのもどうかと思うぞ」

「事実でしょうが」


 皮肉めいていて、どこか諦めたような、そんな乾いた笑いを、綺羅星はしている。


「別に僕じゃなくたって、綺羅星からのプレゼントだって喜ぶさ。お前だってそのくらい分かってるだろ?」

「……分からないわよ。そんなこと」

「なら僕が断言してやる。絶対に結香はよろこぶ、間違いない。結香にとっては、お前は大切な友達だからだ」

「……そう、そうなの」

「ああ、断言してやってもいい。僕は結香の友達なんだ。保証してやるよ」

「……」


 これぐらいなら、言ってもいいだろう。

 これぐらいなら、結香の気持ちを伝えてもいいだろう。

 いや、僕なんかが伝えななくても分かってるはずだ。結香を何よりも心配している綺羅星なら、それぐらい言わなくたって分かっている。

 

 だが彼女にとって、過去に出来たトラウマがある以上、そんな簡単なことも受け入れることができないんだ。

 それなら、誰かが肯定してあげればいい。

 そしてその役目は多分、結香に一番近い僕がやるべきことだ。


「僕は綺羅星の言っている繋がり云々なんてよく分からないけどさ、まずはそこから直していった方がいいんじゃないか?」

「……余計なお世話よ。ばか」


 今まで聞いた中で一番小さな罵倒に、僕は思わず吹き出してしまい、綺羅星のローキックが僕の足に決まった。

 だがその攻撃もどこか弱々しく、そして綺羅星の何らかの感情を受け取った――気がした。






「それで? 一体どうするのよ。結香のプレゼントは」

「それなんだよなぁ……」


 もうお昼頃と言うこともあって、僕らは休憩ついでに店内にあるフードコート内で昼食をとることにした。

 なお、店などは待ち時間も人もすごかったため、食べたのは硝子さんとも行った某有名チェーン店のハンバーガーショップ『ラクドナルド』のハンバーガーだ。

 僕は適当にハンバーガーセットを頼み、綺羅星はサラダも含めた、ヘルシー路線のメニューを注文した。


 まあ、こっちはこっちで結構待ったがな……。


「僕が結香にあげる意味のある物だろ? そんなこと言われてもなぁ……」

「アクセサリー関連なら指輪なんてどう?」

「確実に勘違いフラグが立つじゃねぇか、おい」

「もうこの際ゴールインしちゃえば?」


 クスクスと笑いながら僕をバカにする綺羅星は、先ほどよりも生き生きしたように見えた――気がする。

 それならそれで綺羅星が少しだけ自信を取り戻せたならよかったが、僕の疑問は続く。


 うーん……生まれてこの方彼女がいない僕にはなんともハードすぎる難題だ。むしろ今が一番人生で悩んでいる時かも知れない。


 そもそも僕と結香の関係って一応『友達』なんだし、そんな大それた誕生日プレゼントあげてもなぁ……いっそ、身近な物で済ませるか? いやそれだと後で綺羅星が怖いし……あっ。


「あれなんか、いいかもな」

「何か思いついたわけ?」

「一応はな」


 確かにあれなら、僕があげることにも意味はあるだろうし、結香も本当の意味で喜んでくれると思う。

 よしよし、ならあれを買わないとな。


「それで、何を買うのよ」

「ラッピング袋」


 その瞬間、綺羅星のパンチが飛んできたのだった。

今回は間に合いましたので、楽しんで頂ければ幸いです。


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