7.イベント:【プレゼント大作戦】
硝子さんのお世話係のバイトを終えて、東京から千葉にある自宅までようやく帰宅した。
スマホで時刻を確認するともう既に十七時だ。さっさと風呂にでも入って、この疲労を落とすことにしよう。
すると、連絡用アプリに綺羅星からのメッセージが飛んできた。
[ちょっと、付き合いなさいよ]
と、書かれている。
落ち着いてから連絡を返したいところだが、相手が綺羅星なので、うるさくならない内に返信したほうが無難であろう。
僕は風呂場を素通りして、リビングのソファーに深く身体を沈めて座った。
てか、付き合いなさいって……。
[もう既に付き合ってますが]
[出かける意味に決まってるでしょうが]
メッセージの後、綺羅星から猫のキャラクターが『バカじゃないの?』と言っているスタンプが飛んできたため、お返しとばかりに中指立てたキャラクターのスタンプを返してやった。
すかさず、殺意を向けた虎のスタンプの連打が返ってきたが。
[で、いつ行くんだ?]
[どうせ明日暇なんでしょ? だから明日よ]
[えらく急だな。何かあるのか?]
[その口ぶりだと知らないのね? 五月二十一日は結香の誕生日よ]
[はい?]
それ、来週の月曜日じゃねえかよ。結香のやつなんで言わなかったし。
いや、結香のことだ。きっと僕に課金させないように気を使ったんだ。
しかも今は綺羅星の件もある。余計に言い出せなかったんだろう。
別に誕生日くらい教えてくれてもいいのに……遠慮しすぎなんだよ……。
[でもそれなら丁度いいわ。あんたもいつもお世話になってるんだから、何か贈りなさいよ]
[分かったよ]
[それでじゃあ、明日の日曜日朝九時に千葉駅で待ち合わせだから]
綺羅星は最後に猫が手を振るスタンプを貼って、その会話は終了した。
ソファーの背もたれに身体を預け、息を深く吐き出す。
ふぅーん……。
「そう言えば結香って、何が好きなんだろう……」
今にして思えば、結香の好きな物をちゃんと把握していなかったことに気がついた。
一応は友達という名目となった僕らだが、今だ結香に与えられてばかりの僕ではある。
結香の好きな物かぁ……まずい、思い浮かばない……。
おまけに時間もないし、本人に聞くわけもいかず、その日の僕は一向に眠ることが出来なかった。
◇◇◇
翌日の日曜日。
天気にも恵まれて、朝から太陽の日差しが眩しい。
僕は綺羅星の指定通り、千葉駅の東口のバス乗り場。草が生い茂るオブジェクトにでかでかと張られた『花の都ちば』と書かれた文字フォントの前で、綺羅星を待った。
日曜日と言うこともあり、目の前のバス乗り場にはたくさんの人が行き交っているのが見て取れる。
「少し早く来すぎたかな……あっ」
待ち合わせ時刻まであと五分。
そんなとき、向こうの道路方面から一人の人物が歩いてくるのが見えた。
明らかにお洒落な格好をした見覚えのあるサングラスをかけた女性が、こちらに向かって歩いてくるのが分かる。
多分、いや絶対に綺羅星だ。
僕の予測が正しかったように、人目を引くその人物は僕の方面まで真っ直ぐ来ると、左手でサングラスを下げて目を見せてくる。
間違いない、綺羅星刹那だ。
「あんた、相変わらずそのダサい格好なわけ……?」
そう指摘された僕の格好は、前に結香と遊園地に行ったときと同じ、黒のジャケット、白ティーシャツ、黒パンツのシンプル仕様。腕には、シンプルなデザインの時計を付けている。
「男子高校生なんてこんなもんだろうが。綺羅星がオシャンティーすぎるんだよ」
「意味分かんない言葉使わないでって、言ってるでしょうが。キモいから」
今日も朝から綺羅星の罵倒は冴えている。おかげで眠気が飛んで、思わず眉が上がった。
だがそれもいつもの事なので、すぐさま右から左へと受け流した。
「まあいいや。それで何処で選ぶんだ?」
「ららぽーと東京ベイよ」
「おまっ……よりにもよって、日曜日にそこを選ぶか、普通……」
ららぽーと東京ベイと言えば、東京方面にある大型ショッピングモール。
千葉駅から電車で片道三十分圏内にあるため、休日にはそれなりの来場者が訪れているはずだ。
そして今日は日曜日。後は分かるな?
「別にいいじゃないのよ。あそこの方が品揃えも色々とあるんだし、選ぶのには苦労しないでしょうが。ほら、とっとと行くわよ」
綺羅星は僕の返答など聞かず、千葉駅構内に入っていき、僕もそれを追いかけた。
その後は電車を一本乗り継いで約三十分。
南船橋駅で降りると、目の前には直ぐに目的地が見えた。
「んっ~! はぁ……、やっぱり電車移動でも疲れるなぁ……」
「たかが三十分乗っただけで何へばってんのよ。体力なさすぎなんじゃないの?」
「僕のスタミナゲージはそこまで多くないんだよ。例えるなら三回戦闘すれば無くなっちゃうくらいの少なさだな」
「あっそ、そうね」
とうとうツッコミさえくれなくなり、綺羅星は早足で店内に入っていった。
罵倒がくるのも辛いが、反応がないのもそれはそれでなんとなく寂しい……。
綺羅星に続いて中に入ると、予想通り正午なのにも関わらず既に多くの人たちで賑わっており、三階まで見える吹き抜け構造状の通路全体は人で埋まっている。
「さてと、それで綺羅星は何を渡すんだよ?」
「私は何か料理関連の物をあげるつもりよ。ほら、結香て色々な料理をしてるじゃない。こないだのクッキーもそうだけど」
ほうほう。確かにそうだな。僕もそれら関係にしよーと。
「……あんた、もしかして私と同じ物にしようだなんて思ってないでしょうね?」
「……ソンナコトナイヨー」
何故バレたし。何故分かったし。
他人と心が通じ合えない云々言っている割に、なんでそう簡単に分かるんだよ。
「顔に出すぎなのよ、あんた。分かりやすすぎ」
ええぇ……そんなことないと思うけどなぁ……。
いや、確かに結香も色んなことをして僕の表情を楽しんでいる節がある。
「はぁ……あんたも結香に色々としてもらってるんだから、もう少しちゃんと考えなさいよ……」
「失敬な。僕だってちゃんと考えたさ。考えた……うん、でも結香の好きな物が思いつかなかったんだよ……」
「呆れた……今まで聞いたことすらなかったわけぇ?」
「もちろん聞いたことくらいはあるさ。あるんだが……その、結香が欲しがる物は全部直球すぎるんだよ……」
「ああぁ……なんとなく分かったわ……」
これまでの僕と結香のやりとりを見れば分かると思うが、結香の求める物は総じて『僕』の直球の好意であり、行為そのものだ。すなわち、男女の付き合い的なあれであり、18禁に引っかかる例のあれである。
何度聞いても、結香の欲しがる物は『僕自身』であり、他の物は言ってこない。だから今まで結香には、お菓子くらいしかあげたことがなかった。
でもせっかくの誕生日プレゼントだというのに、お菓子の詰め合わせをあげるだけというのも何か違う気がする。なんなら結香自身、もっと美味しいお菓子を作れるだろう。
「もうこの際だから結香とくっついたらどうなのよ? 今はあの子も前みたいに暴走状態でもないんだし」
「そうもいかないんだよ。僕の場合は……」
「また例の人生なんとか主義者的なアレな理由ってわけ?」
「まあ、そんなところだよ……」
確かに結香とくっつかない理由は、僕が人生無課金主義者で恋愛が自分の人生を多大に犠牲にする行為と思っているからでもある。
だが、今ではまた別の問題も付随していた。
結香――それと硝子さん。
ありがたいことに、二人の星5SSR美少女が僕の事を好きでいてくれているのだ。それと同時に、どちらもが僕に対しての気持ちが大きすぎるのだ。
だから、おいそれと結香とくっついてしまうわけにはいかないのだ。あ、綺羅星と付き合ってるのはごっこ遊びみたいなものだし、硝子さんにも伝えたから問題はない。すごくアタフタとはしていたが。
今になって、昨日の硝子さんの言葉が利いてくる。
『ジョーカーくんの選択で多くの人の人生が変わっちゃうかもしれないから……』
改めて思い出しただけで胃が痛くなる。どうして一体こんなことになってしまったのだろうか。現実にハーレム形成なんて茨の道でしかないぞ……。絶対に誰かが泣くことになる。
たくっ……加減しろよ、クソ人生が。
でもそう考えれると、なんだかんだで綺羅星は安心だな。
絶対に僕のことは好きにならないだろうし、そんな気配を微塵も感じさせない。
「となると、綺羅星の傍が一番落ち着くのかもな」
「何勝手に理解したのか知らないけど、キモいから死んで」
「ひどくない?」
ラブコメとかだったら、ここで赤面の一つでも見せてフラグの一つでも立つのだが。このツンツン具合。うん、絶対に脈がないな。
よかったー、僕の苦悩が一つ減って。安心しすぎて少しだけ涙が出てきそうだよー。
嬉しいような、悲しいような感情が入り交じるが、とにかく今は結香の誕生日プレゼント選びだ!
未来で待っている重い決断など忘れて、今は今の時間を楽しむ事にしよう!
「よし! 考えもまとまったし、プレゼント選びに行こうぜ☆」
「なにその変なハイテンションは……さっきからあんたおかしくない?」
「ははは! 何を言ってるんだい? 僕はいつもこんな感じさぁ!」
「それで、何あげるのか決めたわけ?」
「……相談に乗ってくれませんかねぇ?」
「結香があんたを好きな理由が本気で分かんないわ」
頭に手をやる綺羅星に、僕は『てへぺろ☆』表情を返すと、言葉の代わりに綺羅星の足が返ってきたのだった。ぐう゛ぇら。
待たせたなぁ……(リアルが忙しかったんです。わざわざ待ってくれていた方がいたなら、お待たせいたしました!)
何らかのご意見、ご感想がありましたら、お気軽にお書きください。
また、評価ポイントも付けてくださると、大変ありがたいです。今後の励みになります。




