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6.サブイベント:【灰被硝子のお世話係】

「てなわけで綺羅星と付き合うことになりました」

「全く意味が分からないよジョーカーくん!?」


 驚愕のあまり開いた口が塞がらない硝子さんが叫んだ。その表情は『ムンクの叫び』のようである。


 次の土曜日、僕は硝子さんのアパートまで来ていた。

 何故来ていたのかと言えば、それは硝子さんに頼まれたからである。


『に、二週間置きでいいから……わ、わたしの部屋を掃除しに来てくれないかな……? お、お金もちゃんと払うから……っ!』


 と言われてしまい、まあバイト感覚で来たというわけである。

 だが、来たはいいが部屋は前の足の踏み場もないほどには汚れておらず、そこそこな清潔さを保っていた。

 それもこれもゴールデンウィークの硝子さん育成プロジェクトの成果なのだろう。

 だから掃除は三十分ほどで終わり、後は硝子さんとお喋りして過ごすことになり、先ほどの会話になる。


「え……そ、それじゃあジョーカーくんはもう綺羅星ちゃんと付き合ってるの……っ!? 恋人同士なのっ!?」

「あくまでもフリですよ、フリ。本当の恋人なんかじゃありませんから」

「そういう関係が一番恋愛関係に発展しやすいんだよっ!!」


 今日の硝子さんは珍しくハイテンションである。

 顔を真っ赤にして、口に手を付いて必死にあわあわとしている。年上のお姉さんだから余計に可愛い。


「も、もう……本当にジョーカーくんのその癖はどうにかした方がいいと思うよ……?」

「癖とは?」

「なんだかんだ、人を助けちゃうところ……。そんな主人公みたいことしてくるから、わたしも結香ちゃんも……す、す……すっ……!」

「僕のこと好きになったんですか?」

「もう! 分かってるのなら言わせないで……っ!」


 硝子さんはそこら辺にあったサメのぬいぐるみを僕に投げつけた。

 そんな仕草も可愛かった。


「別に僕だってしたくてしてるわけじゃないですよ。単に綺羅星に借りた貸しを返そうとしているだけです。利子が付いてとんでもないことを言われたら困りますからね」

「ほ、本当かな……? 最近ジョーカーくんが人生無課金主義者だなんて思えなくなってきたんだけど……? あれは嘘だったの……?」

「人生って思うようにいきませんね」

「むぅ……またそうやって話を誤魔化して……でも本当にちゃんと考えた方がいいと思うよ? そうじゃないと、ジョーカーくんの選択で多くの人の人生が変わっちゃうかもしれないから……」


 人の人生を変えてしまうほどの選択――。


 最初に硝子さんからそれを聞いた時は、そんな大げさなと思ったが、先ほどの話を思い返せば、少なくても二人は僕の選択によって何かしらの変化が訪れてしまうと思い至った。

 

 もうこれ以上は僕にそんな人間が増えることはないと思うが、というかあり得ないことだが、確かに自分の身の振り方は考えておいたほうがいいかもしれないな。


「と言っても、少なくとも綺羅星に関しては大丈夫ですよ。あいつと僕は犬猿の仲ですからね」

「あ、悪友コンビで恋人ごっこは、最早フラグ成立のお膳立てでしかないよぉ……」

「ははは、何言ってるんですか。それは二次元世界の話でしょうが」

「だ、駄目だこの子……何か対策を考えないと……じゃないとジョーカーくんが取られちゃう……っ!」


 ブツブツと何やら怪しいことを呟く硝子さんを見つつ、僕は綺羅星を思い返す。

 僕と綺羅星が恋人か……うん、ないな!

 

 僕は硝子さんの心配とは真逆に余裕の笑みで、ずっとアタフタする硝子さんを見て楽しむのだった。


いつも誤字を直して頂いてありがとうございます!


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