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5.メインクエスト:【綺羅星刹那との対話】

 放課後、僕は綺羅星にメッセージを飛ばし、学校付近にある公園にて落ち合う約束をした。

 僕の到着五分後に、公園の入り口から悠々とした足取りで歩いてくる綺羅星の姿が見える。

 僕を見るやいなや、綺羅星は少しだけ驚いたような顔をして、僕を見下げてきた。本当に人を高いところから見るのが好きなやつだな。


「あんた……来るのが早すぎるんじゃないの……?」

「おーす、おかげでくっそ身体が冷えたぞ。どうしてくれる」

  

 僕は来て早々、公園のベンチに座り、ひたすら身体を擦っていた。

 もう五月だというのに、今日は雲が出ている所為かやけに肌寒い。擦った二の腕はすぐにまた熱を失い、冷たい風が再び僕の身体をなじってくる。めちゃ寒い。 


「知らないわよ。あんたが勝手にここに呼び出したんでしょうが。なんで公園(ここ)なのよ」

「ごっこ遊びとはいえ、綺羅星だって僕なんかと本当に付き合ってるなんて勘違いされたら困るだろうなぁと思った僕の気遣いだ。察しろよ」

「そういうのは普通、言わないものでしょうが」

「僕は変人だから当てはまらないんだよ」

「この屁理屈男が……てか、そんな風に見られないし、見られても否定するから近くのファミレスに行くわよ。こんな寒い中で話すの、私だって嫌だし」

「それならさっさと行くぞ……ううぅ寒っ!」


 僕らは早足で近くにあるファミリーレストランに退避した。ほぉ~あったけぇ~わ~。

 店内に入ると、外の気温に合わせたのか、少しだけ暖房が利いていて、固まっていた僕の身体を少しずつ溶かしてくれた。

 

 学校付近であることもあり、店内には何人かの制服姿の学生たちの姿が見えた。何人かで集まり喋ったり、ノートと教科書を広げて勉強をしたりしているのが、遠目から見える。


 席もすぐ案内されて、僕らはドリンクバーを注文し、飲み物を持ってきて、窓際の席に座り落ち着くことが出来た。

 僕はすかさず、ドリンクバーから持ってきたコンポタージュを口の中に流し込んだ。

 あぁ~コンポタめっちゃ染みるわぁ……。


「それで? これからどうするつもりなわけ?」


 コンポタの温かみを感じている途中、綺羅星の声が僕を現実へと引き戻した。

 綺羅星は右手の肘をテーブルの上に付いて、顎を手の平に乗せて、左指でテーブルをカツカツと叩きながら、早く要件に入れと言わんばかりにじとっとした細目で僕を見てくる。


「あんたの口車に乗ってやったんだから、早く始めるわよ。何かをするために、私を呼んだんでしょ?」

「察しがよくて助かる。流石は、トップカリスマモデルだな」

「無駄口なんていらないのよ。とっと教えなさいよ。『人との繋がれる』ヒントを知るための方法を……!」

「人と繋がる。なんかエロいな。ぎゃっ!?」

 

 右足のつま先に走った激痛により、目から瞬時に微かな涙が飛び出た。

 目の前に座る綺羅星を見ると、顔には青筋を浮かべて、あからさまな程に強い目つきで僕を睨み付けている。いや、そんな可愛いものではなく、冷め切った目で蔑んでいた。 


「次無駄口叩いたら拳飛ばすわよ……」

「待て待て、落ち着けよ。別にからかってやったわけじゃない。今僕らに必要なのは、何よりもまずお互いを知るための『対話』だろうが」

「だからって下ネタなわけ? 死ねば?」

「ちょっとしたお茶目心じゃないか、それくらい許してくれよ。全く……」

「それで? 何を話すっていうのよ」

「えーと……」

 

 そう思い綺羅星との会話を始めるため色々と考えるが、出てくる言葉が見つからない。

 

 そう言えば僕らって、性別はおろか生活、クラスの立ち位置に至るまで何から何まで違うため、共通の話題などほぼ皆無に近かった。

 えーと、どうしよう……何話そう……そうだ。


「結香とはどう知り合ったんだ?」

「あんたそれ、本当に付き合ってたなら零点の質問よ」

「仕方ないだろうが、それぐらいしか僕らに共通する話題がないんだから」


 というか、単純に気になってもいたのだ。

 綺羅星が、どうしてそこまで結香に執着しているのかを。過去の友達が原因とは結香も言っていたが、それも人づてでの情報である。しっかりと綺羅星から聞かなくては正確な情報とは言えないだろう。


 言葉のボールを投げ終わり、綺羅星の反応を待っていると、彼女は溜息を付きながらも、納得はしたのか、言葉のボールを投げ返してきた。


「結香と会ったのは、一年前よ。私が一年先輩でやってて、とある仕事で結香と一緒に撮影をすることになったの」

「一年前……思ったよりも最近なんだな」

「ええ。結香はスカウトをされてまだ雇われたばかりだった。最初の時こそ、そこまで気にかけてなかったわ。仕事中も特に話さなかったし、興味もなかった」

「それでよく今みたいな関係になったな……」

「仕事を通して分かったのよ。結香が何かを目指して頑張っているってことに」


 綺羅星は窓の外に顔を向けて、相変わらず顎を手の平に乗せながら目を細めた。それは先ほどの嫌悪の入った冷たい物とは違い、どこか温かみを感じる。まるで大事な過去を思い返している、そんな風に見えた気がした。


「あの子はなんていうか、純粋なのよ。純粋で真面目。だから見ててなんとなく分かったのよ。そんな結香を、いつの間にか応援したくなってた……。でもまさか、あんたなんて変人を堕とすことが目的だなんて思いもしなかったけど」

「うるせぇよ」

「だから最初の頃は結香があんたの傍にいるのが怖かった。結香の才能が駄目にされるんじゃないかってヒヤヒヤしたものよ」

「失礼なやつだな……勝手に決めつけるんじゃねぇよ……」

「そうね。確かにそうだったわ。それに関してはごめんなさい」

「んっ……お、おう……」


 あまりにも綺羅星が素直に安らかな表情で謝ってきたため、僕は反論の言葉を思わず飲み込んでしまった。

 なんだよ……その表情は……そんな顔されたら何も言えないだろうが……。

 

「でもだからこそ、あの子には幸せになってほしいのよ……今度こそは……」


 微かに聞こえた後半の言葉は、多分結香の言っていた過去の友達のことが含まれているのだろう。

 何となくだが、綺羅星の本質が少しずつだが見えてきた気がする。


「……前から思ってたけど、なんだかんだ友達思いなんだな、綺羅星。ただの理不尽乱暴女だと勘違いしてたわ」

「うるさいのよ、この屁理屈変人ぼっちが」


 結局この後は綺羅星と言い合いが始まってしまい。これ以上の進展はなかった。

 だがいつもに比べて、綺羅星の罵倒の切れ味は少しだけ弱かった気がした。

感想頂きありがとうございます!

後返信遅れてすいません(汗)


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