3.無課金系美少女
「そうか……僕に告白か」
「う、うん……でもどうして私がこ、告白するって分かったわけ……?」
「いや、この状況でそんなに顔を赤らめてたら、誰だって告白だと思いますよ?」
まあ、さっきは99%別の要件などと言ってしまったが、それも所詮は二次元での話である。
現実にそんな変化球な出来事など起きはしないだろう。
でもこれで状況は理解した。緩木結香さんも大変だな。初日からこんなことをさせられるなんて……。
「そうなんだ……わ、私、告白する為に七芽くんを呼んだの。だから七芽君、私と付き合ってください!」
「緩木結香さん、初日から罰ゲームなんて大変ですね」
「えぇっ!?」
「何か困ったことがあればすぐに学校の先生にチクった方がいいですよ。その方が早く解決しますから。それじゃあ、さようなら」
僕は手際よく、手紙を彼女へと帰して教室を出るためにUターンした。
うん。これで万事解決である。
後で周りからどうこう言われようが僕の知ったことじゃない。助言もちゃんとしておいたし、後は自分でなんとかするだろう。
さて、これでようやく『スターダストクライシス』をプレイでき──
「待って待って! ちょっと待ってよ! 七芽くん!?」
「っ、……なんですか? 緩木結香さん」
急に手を引っ張らないでほしい。びっくりするじゃないか。
「びっくりなのはこっちの方だよっ!? え? 罰ゲームって何の話?」
「僕に告白するのなんて罰ゲーム以外であり得ないでしょ? だから緩木結香さんも誰かに言われてこうして僕に告白したんだと」
「なんでっ!? どうしてそんな歪んだ考えになるわけっ!?」
いや、会って初日で何の取り柄もないクラスのはぐれ者に転校してきた絶世の美少女が告白しているのを見れば、誰だって罰ゲームだと思うだろ。
むしろ思わない方がおかしい。頭の中がハッピーセットでもない限り。
「違うの! 私が自分で決めて、七芽くんに告白してるの! だから罰ゲームじゃないから!」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと口裏は合わせますから。僕が緩木さんに告白して撃沈。これで事態は丸く収まるでしょ?」
「だから違うからっ!」
違うだって?
なら本当に緩木さんは僕と付き合いたいということなのか?
どうして? 理由がない。
こんな無個性で何の魅力もない僕のどこを好きになったと言うのだ。たった数時間の間に。
「それは、えーっと……じゃあ『一目惚れ』ってことで」
「納得出来るか、それ今考えただろ」
僕みたいなどこにでもいる星1ランクのモブキャラの、どこに一目惚れする要素があるというんだ。嫌み以外の何物でもないぞ?
そんな男子でいいのなら、この高校の男子全員が恋愛対象ということになる。
「とにかく私は七芽くんが好きなの! だから私と付き合って!」
「お断りします」
「即答!? なんでなの! どうして私の告白を受け入れてくれないの……っ? 私ってもしかして、そんなに魅力的じゃない……っ!?」
緩木結香に魅力がないのなら、大半の人類は『化石』と表記されるだろう。
半泣きの状態で必死に僕の手を離そうとしない彼女を見て、流石に少しだけ良心が痛んだ。
僕だって何も誰かを傷つけてまで平気なほど、無神経ではない。
「何か理由があるなら言ってよっ! 頑張って直すからっ!」
相変わらず分からない。僕の何処にそこまでする価値があるというのか。
理由……理由ねぇ。
それは偏に僕が人生無課金主義者だからであるが、これは僕が勝手に作ったものである。言って理解してもらえるだろうか?
いや、ここはあえて説明することで緩木結香を呆れさせて、僕から興味をなくさせられるかも知れないぞ。
「緩木結香さん、僕は──」
「結香って呼んで。フルネームで呼ばれると落ち着かないから」
「……緩木さん」
「緩木。そこで妥協してあげる」
「……緩木、僕は人生無課金主義者なんだよ」
「人生……無課金主義者……?」
緩木は聞き覚えのない単語に首を捻っているが当たり前だろう。どこの事典にも載っていない僕だけの造語なのだから知るはずもない。
「えっとごめん……それって社会主義者とか、民主主義者とかそういう言葉の部類かな? 私そういう方面の知識には疎くて……そもそも『課金』ってどういう意味? ゲームとかのあの課金のこと?」
「元の意味は確かにゲームから来てるよ。
簡単に言えば、僕は人生で無駄な出費をしないようにしているんだ。
例えば僕が緩木と付き合ったとする。でも、そうなれば僕は君のために自分の時間を犠牲にしたり、プレゼントを買ったりして出費する場合があるよね?
だけど僕はそういうことをしたくないんだよ」
「それって……遠回しに私のことが好きじゃないて言ってる?」
「だって僕ら顔を合わせてまだ一日と経ってないだろ? それで好きになれって方が無理だと思うけど」
「で、でも私、結構モテるんだよ!? それに七芽くんにそんな無茶要求したりしないから、だからっ!」
「それでもだよ緩木。それでも君と付き合えば、僕の人生の時間は消費されるんだ。残念だけど、僕は自分の人生を課金してまで、君と付き合いたいとは思えない」
緩木は僕の言葉を聞き終えた後、顔を俯かせて黙っていた。
これで決まっただろう。これで完全に僕に呆れかえり、興味を失ったはずである。もう好意など持ち合わせていないはず。
僕は完全勝利を心の中で密かに祝いつつ、鞄を持った。
「……七芽くん、一つだけいいかな?」
「……なんだ?」
「私の告白を断ったのって、その七芽くんの人生の考え方だけなのかな? それとも、私が好みのタイプじゃないから? やっぱり刹那ちゃんみたいな子が、男の子は良いのかな?」
「……」
正直に答えれば、僕は綺羅星刹那のようなイケイケ女子よりも、緩木のような落ち着いた女の子の方が好みだ。
むしろこんな美少女と付き合えるのならば、よほど変な考えを持つ僕のような人間でもない限り、大体の男性が飛び跳ねて喜ぶだろう。
「別に、緩木の容姿が嫌いなわけじゃない。でも今日会っていきなり告白されても、僕は君に興味が持てないんだよ。僕は自分の時間が大切なんだ」
『人生は有限である』とはよく言ったものである。
時間はあっという間に過ぎていき、お金のように取り戻すことはできない。だから僕は自分の時間を守るために行動する。
「そうなんだ……別に私の容姿とか性格が問題じゃないんだ……それなら──!」
緩木は顔を上げて、僕を見た。
口元を上げて笑っている。どうやら、まだ僕のことを諦めていないらしい。
「分かったよ。それなら、私が七芽くんに課金する分にはいいんだよね?」
「……はい?」
この子は一体、何を言い出したんだ……?
僕に課金だって?
「七芽くんが私に全く課金をしないっていうのなら、逆に私が七芽くんに色々と課金して、あなたを手に入れる。それなら、七芽くんは全く課金せずに済むでしょ?」
「まあ……そういうことにはなるけど……」
「わかった! なら覚悟しててね、七芽くん! 私はこれから毎日、君に『好意』を課金していって、必ず七芽くんと付き合って見せる!」
確かに、『課金』本来の目的には、好きなキャラクターを手に入れるという理由もあり、緩木が言ったのはそれと同じだ。
つまり彼女は僕の人生無課金主義に乗っかる形で、宣戦布告をしてきたのである。
「……もう一度聞くぞ? どうしてそこまで僕と付き合いたいんだ?」
「そんなの決まってるよ、七芽くんが好きだからだよ?」
小悪魔のように秘めた笑いをする緩木だったが、その言葉に嘘は感じられない。
どうやら、本気のようである。
全く謎だ、彼女は本当に僕の何処に惹かれたというのだろうか?
これは、少し調べる必要がありそうだ。
「私は絶対に、七芽くんを手に入れて見せる」
「僕は絶対に、誰の物にもならない」
こうして、僕らの人生に大きく関わってくる課金恋愛勝負が始まってしまったのである。
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