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9.イベント:【甘々? デート♡デート】 後編

「あなたを思うと~胸が砕けそうになるの~だから私を見てラブ、そう、ユ~!♡」

「あからさまな歌詞だな……にしても美少女で歌が上手いとか反則か?」


 ゲームセンターを後にし、昼食も食べれるということから僕たちは、秋葉原近くのカラオケボックスに入っていた。

 聞いての通り、ただいま結香さんが熱唱をしており、先ほどから終始僕に熱い熱視線を送りつけてくる。

 飛んでくるハート量に、胸焼けが止まらないほどだ。


「これも女子力の一つだからねぇ~。どう? 心に響いた?」

「いつも言われてることを歌われても、特になにも感じない」

「それもそっか! あははははっ!」


 結香は歌い終わり、僕の真横に座ってドリンクバーから持ってきたウーロン茶を飲み干した。


 カラオケボックス内に設置されたデジタル時計の時刻は、十五時五十分。

 その間、ちゃんと硝子さんは電話をかけてきてくれて、二回の電話とも、特に問題なさそうな様子だった。

 後もう直ぐで十六時なので、今日最後の電話が掛かってくるはずだが、まあこの調子だったら大丈夫だろう。

 そう考えていると先ほどまで笑っていた結香が突然、真面目な顔で僕に言葉をかけてきた。


「……ねぇ、七芽くん、何か私に隠してることない?」

「いえ全く全然。なんで?」

「今日の七芽くん、なんだかずっと上の空だったからさぁ」


 結香さん、僕のこと観察しすぎでしょ。

 観察しすぎて正解です。はい。

 だがここは全力で誤魔化すしかない。でないと、とんでもない惨劇が訪れてしま――、


「私ね、心配なの。七芽くんがまた誰かのために頑張ってるんじゃないかって……」


 結香が僕の胸に身を寄せてきたから、最初こそいつものように遠ざけようと思った。

 だが、顔をしかめて心配そうに瞳を揺らす彼女の目を見てそんな気も失せてしまった。

 その目はあの観覧車で見た時と同じ――真剣な瞳だったから。


「何言ってるんだよ……人生無課金主義者な僕が、そんな面倒なことをするはずないだろ」

「ううん、七芽くんはするよ。大切な誰かが困ってたら絶対に見捨てない。だから友達を作らないようにしているんでしょ?」

「それは……そうだけど……」

「こないだ私の暴走を無理してでも止めようとした七芽くんを見て確信したの。七芽くんは本当に全てを犠牲にしてでも、私に付き添ってくれるだろうなって。でもそれは、他の大切な人が困ってても同じく、見捨てられないってことなんだよね?」


 本当に何処まで僕を観察しているんだ。

 結香の意見を僕は肯定しない――しかしまた否定もできない。

 確かに僕は大切な人が困ってたら、どんなことをしてでも助けようとしてしまうだろう。

 現に今、硝子さんを助けているのだってそうだ。

 僕の大切な親友・シンデルヤの悩みを――僕は解決したい。

 

「七芽くんのその優しさが、私は心配なの。

 七芽くんはいつも平気な顔をしているから、もしかしたら困っているサインを見逃しちゃうかもしれない。気づいた時にはもう……あなたが壊れてしまっているかもしれない……。それが怖くて、私は出来るだけあなたの傍にいたいと思っているの」

「休みの日にこうして一緒に過ごしたいって言ってきたのもそのためか?」

「うん。そうだよ」


 どれだけ僕のことを考えているんだ、もっと自分の時間を大切に使えばいいのに、この星5SSR美少女ときたら……。

 本当に非の打ち所がない。


「でも本末転倒だよね……七芽くんを堕とすために始めたモデル活動が、まさかこんなにも七芽くんとの時間を奪っていくなんて……」

「でも、好きだから止めないんだろ?」

「うん……手段のために始めたあの世界が……刹那ちゃんもいるあの世界が、今では私の大切な場所の一つになっちゃってたの……」


 本当に二次元みたく単純にはいかないものだ。

 漫画やラノベとかだったら、それこそ全てを投げ捨てても特に問題は無いのかもしれない。

 だが現実は複雑怪奇で――人には人の事情がある。

 そう単純には大切な物を投げ捨てることなどできない。

 『暴走』という風に覆われていた昔の彼女ならともかく、今の結香は、他の大切なものをしっかりと見えるようになっている。

 だからこそ、僕も仕事も大切にしたいと思って悩んでいるのだろう。

 

 僕の服の胸の辺りを握る結香の手に、さらに力が入っていく。


「だから七芽くん、約束して。困ってたり、助けが必要な時はすぐ私に言って。

 あなたが私のサポートキャラクターなのと同じく、私も七芽くんのサポートキャラクターなんだから」

「ああ……分かったよ、結香。そうなったら迷わずお前に相談する――約束だ」

「うん。絶対にそうして。お願いだから」


 胸に必死にしがみついてくる結香の背中を、僕は優しく叩いて答えた。

 結香が指摘した通り、今の僕は問題を抱えている――だが、彼女を頼るのは今じゃない。

 結香にバレたらまずい云々の前に、これは僕が請け負った仕事なんだ。

 だからまだ手段が残っているのなら、最後まで僕の力でやるべきだ。


「ありがとうな、結香。心配してくれて。でも今は本当に大丈夫だからさ」

「……」

「結香? どうした? また寝ちゃったのか?」


 昨日まで仕事だったしな。それもしょうが無いか。

 前回とは違って今日は休みだし、今は寝かして――ん? 身動きができないぞ?

 待て! このデジャブはッ!?


「ふふふっ……捕まえたぁ……♡」

「何っ!?」

「いい雰囲気にもなったことだしさぁ、キスしようよぉ♡」

「お前の発言で台無しだよ!? やめろ! 監視カメラ様が見ている!!」

「大丈夫だよ……キスくらいなら問題ないよぉ♡」


 くっ! 体をホールドされていて動けない……ッ!?

 まずいぞ、このままじゃ本当に結香とキスし……。

 待て、何かを忘れてないか? 何か重要なことを……。

 僕の目線の先にある電子時計――時刻は十六時十二分。それを見て、僕は思わず飛び上がってしまった。


「きゃっ!?」

「電話が……かかってきてない……!?」


 結香との会話で気がつかなかった?

 そう思いスマホを確認してみるが、やはり着信は来ていない。

 忘れている?

 いや、それにしたって遅すぎる。もう十分は経っているんだぞ? 


「すまん結香、今日はもう帰るよ。楽しかった、また夜に連絡する」

「あ! 七芽くん!」


 僕はカラオケの代金を丁度の金額で置いていき、すぐさま硝子さんのアパート目指して駆け出した。

 こちらからも電話をかけてはみたが、一向に繋がる様子がない。

 それが僕の不安をよりかき立てて、足の速さを上げさせていく。


 もしかして何らかの方法を使ってお酒を手に入れたか?

 それとも別の理由でかけられない?

 まさか、何かの事故に巻き込まれたとかじゃないよな……っ!?


 駅から走って息を切らしつつ硝子さんのアパートに着くと、建物自体には何も起きていなかった。

 よかった。少なくとも火事とかではなさそうだ……。


 それを確認してから急いで階段を上っていき、硝子さんの部屋のチャイムを鳴らした。

 部屋から物音が聞こえ、扉が開いて硝子さんが顔を出してきた。

 顔は――白い! よかった! お酒は飲んでない!


「おかえり……ジョーカーくん……早かったんだね」

「硝子さんから連絡がないから、心配して急いで帰ってきたんですよ!? こっちの電話にも出ないし……」

「それはごめんね……とりあえず入って」

「はぁ……これじゃあ抜け出してきて飛んできた意味がなかったな……」


 カシャン


「ん?」


 僕が部屋に入った瞬間、いつの間にか両手には手錠が付けられていた。

 そして後ろからは扉の鍵が閉められる音がしたのが聞こえた。


「しょ、硝子さん……どうして手錠なんてかけてきたんでしょうか……? てか、なんでこんな物持っているの?」

「作画資料用に買っておいたやつなの……こないだ段ボールを片付けた時に出てきたの……それでね、ジョーカーくん。実はわたし、わざと電話をかけなかったんだ……ジョーカーくんに聞きたいことがあったから」

「へっ? な、なんでしょうか……?」

「この『無限ソシャゲガチャ』についてだよ」

「あっ!」


 見せられた硝子さんのスマホには、『無限ソシャゲガチャ』がインストールされていたのだ。


「どうしても我慢できなくて、インストールしちゃったの。そしたらこのアプリ、どうやら排出率が設定できるらしいんだよね? だからジョーカーくんのアプリを見せてほしいんだぁー?」


 硝子さんは僕のポケットからスマホを取り上げて、僕にパスワード解除をさせてから、『無限ソシャゲガチャ』のアプリを開いてそれを確認すると、首を上げた。

 垂れる黒髪の中に浮かぶ見開いた彼女の目が、じっと僕を見つめていた。


「0.1%かぁ……消費者センターに通報してもいいレベルの数値だね?」

「ご、ごめんなさい……でもそうでもしないと、硝子さんの浪費癖は抑えられないと思ったんです……」

「うんうん、そうだね、ジョーカーくんはわたしのことを思ってやってくれたことだもんね。だからこれでおあいこにしてあげる」

「はい?」


 硝子さんは僕に自分のスマホを渡すと、手錠をされて輪っかとなった僕の腕の中に潜り込んできて、身を寄せてきた。

 すっげぇ、硝子さんの顔とお胸が目の前に……。

 でも今は素直に喜べない。なんせ硝子さんの顔が、全く笑ってない真顔だったからだ。


「ジョーカーくんが星5SSRを出せたら、手錠は外してあげる……」

「はぁ……ちなみに排出率はいかほどで……?」

「0.001%」

「ほぼ0%じゃないですか、ヤダー! 明らかに違法な数値ですよ! それ!?」

「もし出来なかったら、じょ……ジョーカーくんに責任を取ってもらうようなことをする……っ!」

「助けて結香! 引きこもり痴女に犯されるッ!!」


 僕の悲痛なその叫びは誰にも届くはずもなく、部屋の中で響いて消えていった。

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