2.新キャラクターが追加されました
綺羅星鋭利→綺羅星刹那に変更しました。
突然だが、人生とは変化の連続である。だから同じ日常がいつまでも続くはずもないのだ。
何故こんな話しをするのかと言えば、僕の人生にもそんな変化が訪れたからである。
あれは高校一年生となった、四月中期の出来事。
◇◇◇
高校生活も始まって周りは新しくできた友達や、同じ学校の仲間たちと談笑する中、僕は一人、窓際席の奥地にてスマートフォンをいじっていた。
やっていたのは、今ハマっているスマートフォンゲーム『スターダスト☆クライシス』。それの素材集めのための周回プレイをひたすらに行っていた。
もちろん周りからは浮いていたが、このご時世一人でスマートフォンをいじっていてもおかしくはない。
同時にスマートフォンをいじっていれば他者から話しかけられる率も下がり、例えどうでもいい人間に話しかけられても、『今やってることがあるから』と断ることができるのだ。
どうだ、この完璧なまでのロジックは?
だから僕はあえて無駄な人付き合いは避けているのである。だから決して友達作りが苦手なのではない。作らないだけだ。
「そうなんだ~、だから次の雑誌買ってね? 私が表紙だからさ!」
クラスから明るく聞こえる一人の女子生徒の声。
他の女子友達と楽しく話しているのだが、それは先ほどから僕の集中力を何度も削いでいた。もちろん悪い意味でだ。
声の主は、綺羅星 刹那というなの女子生徒。
髪を腰まで伸ばし、毛先はパーマでもかけられているのか、スパゲッティみたくくるくるカールしている。
強い意志を感じられる瞳と、自信ありげに笑う口元が特徴であり、容姿はモデル顔負けの美人とプロポーションを兼ね備えている。
その美貌を生かし、彼女は学生をしながら読者モデルの仕事を行うという次元の違う生活を送っており、この話はクラスの常識にまでなっていた。
ゲームに例えるのなら、間違いなく星5でSSRキャラクター。
もちろんそんな彼女に好意を寄せる男子も多いが、僕には理解できない。
僕が綺羅星さんを『星5 SSRキャラクター』と例えたのは、なにも比喩だけではない。
彼女と付き合おうとなれば、それ相応の労力、金銭、時間などのありとあらゆる人生の課金が発生するはずだ。いや、それぐらい苦労しても、撃沈する可能性すらあるだろう。
まさに人生全てを廃課金しても手の届くかどうかが分からない、『課金系美少女』。
それが僕の中での綺羅星刹那の評価である。
だから、星1でNキャラクターな僕が関わっていい人間ではないので、その声に我慢しつつ、僕は再びゲームへと思考を戻した。
触らぬ神に祟りなし。
関わらなければ、被害も受けない。それだけだ。
今も、『~が来る』云々と話しているが、正直僕には関係なかった。
そんないつもの朝の登校時間が過ぎ、ホームルームを告げるチャイムが鳴って生徒全員が席にへと着いた。
チャイムの残響がまだ残るほどのタイミングで、担任の先生が出席簿を持って入ってくる。
そこまではいつも通り。
だがその日はいつもと違った。
先生の後ろから付いてきて共に教室にへと入ってきた、一人の少女がいたのである。
まず見えたのは、毛先が内側にへとカールしたショートヘア。その髪を肩まで伸ばし、その中に収まる小さな顔が表情を表した。
ぱっちりした瞳に、ほのかに赤い頬が特徴的な、柔らかで可愛い印象を受けてしまう美少女。
制服が大きいためか、手の甲にまで袖が伸びており、その小柄な体型を余計に際立たせている。
綺羅星刹那の『綺麗で美人』な美少女とはまた違い、彼女からは『柔らかで癒やされる』そんな印象を受けた。
そんな星5でSSRな美少女が、このクラスにへと入ってきたのである。
この流れからして、導き出される答えは一つ。
「えー、今日からこのクラスに入学することとなった転校生だ。それじゃあ、自己紹介してくれるか?」
「は、はい! 皆さん初めまして。少しだけ遅れて入学する事となりました、緩木 結香といいます。これからよろしくお願いします!」
そんな緩木の挨拶が終わり、騒然となるクラスだったが、真っ先に彼女に声をかけたのは意外な人物だった。
「結香、おはよう!」
「あ、刹那ちゃん、おはよう! 今日から同じクラスだね」
「結香と一緒なんて最高よ。分からない事があったらなんでも聞いて? 教えてあげるから」
この二人、知り合いなのだろうか?
そこで僕は先ほど綺羅星刹那が話していた『~が来る』という言葉を思い出した。
話していたのは、緩木結香のことだったのだ。
緩木は先生に指示により、綺羅星刹那の隣の席にへと座った。
座って早々に周りからの質問攻めにあって慌てふためいていたが、それを先生がバッサリと切り授業が始まった。
席に座る直前、一瞬こちらを見たような気がしたが、多分気のせいだろう。
◇◇◇
と思いたかったのが、どうやら気のせいではなかったらしい。
放課後、僕が下校しようとすると下駄箱の中には一枚の手紙が入っており、差出人はあの『緩木結香』と書かれていたのだ。
手紙に書いてあったのは、『話があるので学校にある空き教室まで来てほしい』という内容。
おめでたい男子高校生の思考で考えれば、これは間違いなく告白の流れだろう。
だが僕は知っている。最近ではこういう風に下駄箱の中に手紙が入っていた場合は、99%告白ではない別の要件か、残り1%はまず誰もいないというオチが待っているのである。
もちろん僕は行く気はない。
人生無課金主義者を貫く以上、こんな様々な面でリスクを背負うことなどに関わってはいられない。
……と思ったが、待てよ?
緩木結香は星5ランクの女子であり、クラスでも好意的に受け止められている人物。
そんな女子からの誘いを断れば、僕のクラス生活になんらかの支障をきたすのではないだろうか。
クラス女子たちからの敬遠や嫌がらせ。
彼女を好きな男子からの、面倒なからみ。
嫌われるのは別にいいとして、それらに浪費する時間や労力を考えれば、あまりにも受ける損害が大きすぎる。
それが最悪3年間も続けば、多大なる人生の損失にへと繋がるだろう。
あの優しそうな緩木結香が人を貶めるような真似をすることはないと思うが、結局はそれも憶測にすぎない。
ましてや彼女が話さなくても、周りが何かを察して事情を聞き出すこともあるだろう。
そうなってしまえばもう手遅れである。
ここは、今行って問題を片付けた方が先決だろう。
そうと決まれば善は急げである。僕は手紙を握りつつ、再び校舎の中にへと入っていき、空き教室にへと向かった。
◇◇◇
空き教室の廊下側にはカーテンが掛かっており、中の様子を伺うことができなかった。
だが外から入る日の光がカーテンを照らしていることから、窓側のカーテンは開けてあることが分かる。
その光りで緩木の影でも見えればよかったのだが確認は出来なかった。
どうかいませんように。
そう願いつつ扉を開けるも、僕に天は味方しなかった。
窓際の影で外の景色を眺めていた緩木結香が、入ってきた僕の方を向いてきたのだ。
その顔には一瞬だけ驚きが混じっていたが、すぐにまた朝に見た優しげな表情にへと戻っていた。
「来てくれたんだね。無生七芽くん」
緩木が言った名前は間違いなく僕の名前だった。
星1Nレベルのモブ的存在である僕の名前など、誰も知りたがらないだろうと思い名乗っていなかったが、緩木はそんなことお構いなしに僕の名前を開示してきたのだ。
ヒロインによって名前が判明する主人公など前代未聞である。決して僕が主人公だなんていうつもりもないが。
緩木は後ろに手を組み、顔を赤らめながら恥ずかしげに僕から目を逸らす。その逸らした視線の先には、僕の握った彼女の手紙があった。
「手紙、見てくれたんだね……よかった……」
「それで要件はなんなんだ? 早く話してほしいんだけど」
照れるのはいいが、早く要件を告げてほしい。
少しでも早くここから切り上げて、『スターダスト☆クライシス』の素材集めをしたいのだ。そのため一分一秒と時間が惜しい。
「う……うん、ちょっと待って! もう少しで覚悟が決まるから……ふぅ~」
「もしかして僕に告白でもする気か?」
「へっ!?」
その返答があまりにも予想外だったのか、緩木は顔を真っ赤にし、僕を凝視する。
それはもう答えたも同然であり、緩木はその後数十秒かけ首を縦に振ったのだった。
これが、僕に起こった変化の一つ目だった。
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