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14.シークレットテキスト:『美女と野獣』 前編

 あれはまだ、私が小学四年生の時の話です。

 私の両親は離婚して、既にお父さんは家からいなくなっていました。

 私はまだその意味がよく分かってなくて……いえ、正確には分かりたくなかった、が正しいですね。

 とにかくお母さんにひたすら、『いつお父さんが帰ってくるのか』を聞きました。

 ですが帰ってくる言葉はいつも同じ。

 『もうお父さんは帰ってこない』。ただそれだけ。

 その言葉は呪いのごとく私を苦しめて、同時に心を殺していきました。


 そんな不安定な状態だった頃、事件が起きます。

 クラスの男子の一人が、落ち込む私をからかってきたのです。

 もちろん、七芽くんではありません。

 彼は絶対にこんなことしません。

 その男子はしつこく付きまとって、私の苛立ちを積もらせていきました。

 そして等々我慢できず、私はその男の子の顔面に拳をたたき込んでしまったのです。女の子らしからぬ(グー)でです。

 無意識でした。

 爆発した感情を制御できず、私は八つ当たりのごとく殴りつけて、相手を叩きのめしてしまいました。

 冷静さを取り戻した時にはもう手遅れです。

 床には、顔面に無数の傷を負って泣きじゃくる男の子の姿がありました。

 まるでボロ雑巾のように、床に転がっていたのをよく覚えています。

 その後、私は一週間の謹慎処分をくらい、その男の子の家にも謝りに行かされました。

 ですが、子供だった私は、自分が悪いことをしたとは思わず決して謝ろうとはしませんでした。

 

 元々、しつこくからかってきたそっちが悪いんじゃない。

 どうして私が謝らなくちゃいけないの……。

 

 そんな不満な気持ちで一杯でした。

 一向に謝らない私の代わりに、母は何度も何度も相手側の両親に対して謝罪し、頭を下げていました。

 でもこれが原因で、私と母の関係はますます悪くなっていったのです。

 そしてこれが全ての始まりであり、同時にトリガーでもありました。


 それからと言うもの、私の噂話を聞きつけた男の子たちが、日に日に私に対して喧嘩を挑んできたのです。

 あるときは同級生から。

 あるときは高学年から。

 中学生にも絡まれたことがありました。

 強い子から大柄な子まで、ありとあらゆる相手を、私はぶちのめしていったのです。

 湧き出る感情を制御できず、八つ当たりのごとく相手に対してそれをたたき込んでいました。

 あのときの私の強さは、一言で言えば怒りです。

 それも四方八方なんにでも怒りを感じていた私は、まさに最強でした。最強にして最狂だったのです。

 そして同時に、少しずつ私は女の子であることを捨てていきました。

 長い髪は喧嘩の時に引っ張られるから短くし。

 スカートなどの可愛い服装は動きにくいため、パーカーやズボンをよく着るようになり。

 素性を知られないように、野球帽を被るようになりました。

 そしていつしか私は、『南小学校の黒台風』と呼ばれるようになりました。


 やってることも、感情も、何もかもがぐちゃぐちゃに混ざり合っている私にはピッタリのあだ名に、自暴自棄になってた私はその名をえらく気に入っていました。

 歩いた後は全て破壊する。まさに台風そのもの。

 黒台風となってからは、過去の友達も既に失い、また誰も私へ近づこうとはしなくなりました。

 そして私の世界もまた、黒く、灰色にへと染まりました。

 何を食べても味がしない。

 何を見ても、何も感じない。

 楽しいのか、辛いのかどうかも分からない。

 そんな灰色の世界を、ただ呆然と喧嘩しつつ生きていました。


 そんな私を見て、母親は酷く嘆いていました。

 深く悲しみ、同時に苦しんでいたと思います。

 今だったら痛いほどに母の気持ちが分かりますが、子供だった頃の私には理解出来ませんでした。

 いざ話し合っても、最終的にはお父さんの話題となってしまうため、そこでまた言い合いが始まり、お互いを傷つけ合う。その繰り返しです。

 まさに私にとって、人生のどん底。

 真っ黒に塗りつぶされた、どうしようもない過去。 


 これが、私が『南小学校の黒台風』となった経緯です。

 みんなのトラウマの誕生秘話と言ったところでしょうか。

 あのままいけば間違いなく、私の人生はおかしな方向にへと進んでいたと思います。いえ、確実にそうだったでしょう。

 それこそ、読者モデルなんてやってなかったし、刹那ちゃんみたいな素敵な友達も出来ていませんでした。

 あの日、七芽くんと出会うまでは。






 七芽くんとの出会いは、忘れもしない全校大対戦の時です。

 私を倒すため、『北小学校』、『東小学校』、『西小学校』、『南小学校』から選りすぐりの男子約30人が河川敷にへと集まったのです。

 この中には、『北小学校の切り札』だった頃の七芽くんも混じっていたのですが、私はそんなことお構いなしに、掛かってくる男子を殴る蹴るで倒していきました。

 一人、また一人と倒していき、最後の最後に残った一人。

 それが、七芽くんだったのです。

 彼に関しては全く戦いに参加せず、ただ呆然と遠くから眺めているだけでした。

 ですが一人になると、途端に当たりを見回してアタフタし始めました。

 足も震えて、顔も真っ青。

 今でならそんな七芽くんも可愛いと思えるのですが、このときの私は心底呆れてました。

 そんなに怖いなら、来なければよかったのに、と。

 私は倒れる男子たちの死屍を越え、七芽くんの元まで歩いて行きます。

 私が近づくにつれて、七芽くんの体の震えは激しさを増します。

 まるで着信のきた携帯電話のようです。

 私は七芽くんの前に立つと、ガンを飛ばしました。

 これでもう涙目です。

 ああ……でも小さい頃の怯えた七芽くんも可愛かったなぁ……♡

 おっとと、話を戻します。

 すると、七芽くんは何かを言ったのです。


「ま、待て話――」

「ふんッ!」

「ぐふぇッ!?」


 でも私はそんなの気にせず、七芽くんの顔面にグーパンチ……。

 七芽くんは顔を押さえてうずくてました……。

 もしあの頃に戻れるのなら、このシーンをやり直したい! 

 これの所為で、私は七芽くんに素性を話せなかったんだから!

 そして七芽くんに向かって、こんな言葉を吐き捨てました。


「いいか! お前らみたいな雑魚が何人いようが、俺の敵じゃねえんだよ! 面倒臭いから二度とくんな! こいつらにもそう伝えておけ! バーカ!」


 もう完全に男の子です。

 これは七芽くんが私の正体を分からないのも頷けます。

 私は伝えたいことを伝えると、その場から離れるため七芽くんに背を向け歩き出しました。

 本当ならここでさようならです。

 でもその時です。私の人生が変わったのは。


「待て……よ……」


 七芽くんが立ち上がり、私に話しかけきたんです。

 顔からは鼻血を出しており、目からは涙を浮かべていました。


「……なんだ、お前? まだやり合おうていうのか? あぁっ!?」


 もうダルいから帰りたい。

 そんな気持ちで一杯だった私は、威嚇して七芽くんを萎縮させようとしました。

 完全にヤンキーです。思い出しただけで死にたい……。

 でも七芽くんは、そんな私でも諦めず話しかけてきてくれました。

 そして私に、運命の言葉を投げかけてくれたんです。


「違うよ……ただどうしてそんなに……無理してるのかと思って……」

「!?」


 心臓が飛び跳ねた。そう思いました。

 だって七芽くんが言ったことは、その時の私の状態を的確に言い当てていたからです。

 抑えきれない感情の暴走。

 それを、私は突っかかってくる相手に対して物理攻撃としてぶつけてました。

 でも私も好き好んでやっていた訳ではありません。

 勝負を挑んできた相手を対処するために戦う。

 元が女の子である私には、そんな日々に嫌気がさしていました。

 まさに嫌々です。もう勘弁してほしい。そう思っていた。

 そう思っていても、それを理解してくれる人も、分かってくれる人もいなかった。

 そして私自身、それを言語化出来ずにいました。

 自分の立ち位置が分からない。

 何処を目指しているのか、目的地が見えない。

 それを、七芽くんは的確に言い当ててくれたのです。

 誰にでも言える、簡単な言葉で。


 それを聞いて、私は黙り込んでしまいました。

 いえ、目の前が見えなくなって、頭の中がぐるぐると回って、写ったのはこれまでの記憶でした。

 それは少しずつ遡っていって、これまでの嫌だった記憶を通り過ぎていきます。

 そして最後に辿り着いたのは、まだお父さんがいた頃の景色。

 そんな記憶の奥底に眠っていた大事な思い出が涙と一緒に溢れかえってきて、気づけば私は七芽くんの前で泣いてました。号泣です。


 いつからだったろう、お父さんを忘れてしまったのは。

 いつからだったろう、お母さんと口を利かなくなってしまったのは。

 いつからだったろう、自分というものを見失って、『南小学校の黒台風』なんていう化け物になってしまったのは。


 数多の考えが溢れかえって頭の中を駆け巡って、止まりません。

 ですが目の前で当然私が泣き出してしまったため、七芽くんはぽかんとした顔をしていました。 

 困った様子でアタフタしていましたが、泣いている私にこう言ってくれたのです。


「えっと……とりあえず、僕の家来る?」


 このときの七芽くんの言葉が、私の人生を大きく変えることになるとは、まだ知るよしもありませんでした。

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