13.緩木結香の秘密(シークレットテキスト)
「久しぶりのお昼だね♡ 今日は七芽くんのお弁当も作ってきたんだ~、食べて食べて~♡」
金曜日。
緩木は一日で退院して、千葉にへと戻って来ていた。
緩木は三限目の途中から何食わぬ顔で出席し、改めて話しはできていない。
だがメッセージは飛んできており、そこには『空き教室で待ってるから♡』と書かれていた。
だから今こうして空き教室に立っていると言うことである。
周りには誰もいない。僕ら二人だけだ。
緩木は相変わらず、先ほどのような甘々な態度で接してくるため、病室で見たあの得体の知れない緩木が夢だったのではないかと思ってしまう。
だが僕が言わなければ、緩木の甘い悪夢は終わらず、彼女は壊れてしまう。
そんなことは、僕も望んではない。
「その前に話がある」
「何かな? とうとう告白してくれるの?♡」
「いいや違う。お前の秘密が分かったのさ」
僕の言葉を聞いて一瞬固まる緩木だったが、口元は笑っている。
「へぇー? 私の秘密が分かったって? それなら聞かせてほしいなぁ、私は一体何を隠してたのかな?」
「緩木、お前の秘密。いや、お前の正体は、『南小学校の黒台風』だな」
「――――」
先ほどまで笑みは消え去り、緩木の表情が死んだ。
口を微かに開け、瞳は虚空を見つめたように光りが失っている。
効果覿面。
緩木結香の隠されていたベールを剥がしとってやったぞ!
そう、緩木結香の正体とは、僕らの小学校時代のトラウマである、最狂無血の喧嘩児『南小学校の黒台風』だったのだ。
「まさかお前が『黒台風』だなんて思わなかったよ。道理で思い当たらないはずだ、だってあの頃のお前は、喧嘩の強い『男子』て認識だったからな」
緩木のお母さんと話をして、緩木を黒台風だと突き止めた後、彼女から過去の緩木の写真を見せてもらったのだ。
そこには短髪で、その上から野球帽を被り、男の子のような格好をしている緩木がふてくされた態度で写っていた。
その姿はまさしく男の子であり、そして、僕の記憶にある黒台風の姿そのままだった。
「──なんでバレちゃったのかなぁ? あんなにバレないようにしたのに……あなたにだけは……絶対に知られたくなかったのに……っ!!」
「緩木のお母さんから聞いたんだよ」
「!? お母さんと会ったの……?」
「ああ。僕が行った日、緩木は最初『もう来たんだ。早かったじゃん』て言ってただろ。あれを聞いてピンときたんだ。もしかしたら、他の誰かが面会に来るんじゃないかって。たとえば、家族とか」
「あーあ……やっちゃったなぁ~……」
緩木は心底残念そうに肩を落とし、諦めたように笑った。
「そうだよ……私は『南小学校の黒台風』……七芽くんたち、男子の天敵だった」
「必死に過去を隠してたのはそのためか」
「当たり……。だってあの頃の私は……自分でもどうしようもないくらいに荒れてたから。突っかかってくる子はみんな倒す。どんな相手だろうと関係ない……まさに台風そのものだった」
「確かにあの頃の緩木は強かった。まさに敵無しだったな」
そのぐらい過去の緩木、もとい『南小学校の黒台風』だった頃の彼女は強かった。
最強と言ってもいいくらい、どんな相手でもコテンパンにしてトラウマを刻みつけたのだった。
今でもたまにクラス内で『黒台風』の話を耳にするくらいだ。
かくいう僕も、そんなトラウマを持つ一人である。
なるほど、緩木が必死に隠していたのはこのためか。
何せ好きな相手のトラウマが、自分自身なのだ。
僕も今は平然を装ってはいるが、最初に緩木のお母さんから話を聞かされた時は内心震えが止まらず、思わず両手で顔を覆った。
それくらい鮮明に覚えている。彼女から受けた顔面パンチを。
遊園地で僕よりも足が速かった身体能力の高さも、今となっては手を叩いて納得ができる。
「でも僕らの接点は分かったけど、それでもまだ謎だ。だって僕らは一回戦ったくらいの関係だろ? 学校だって違うし、その後も会ってない。一体どこで僕のことを好きになったていうんだ?」
「覚えてないの……?」
「えーっと……正直あまり……」
緩木は唇を噛み、目を細めて眉を下げた。
そう悲しそうにするなよ……罪悪感が半端ないぞ……。
「でもそれもしょうがないよね……七芽くんも最初は私のことを怖がってたし」
「あー……まあな……」
「それじゃあ話すよ。どうして私が『黒台風』なんて化け物になっちゃったのか。そして、どうして七芽くんのことを好きになったのか」
緩木は上を向いて、語り始める。
あの頃の話を。
僕がまだ『北小学校の切り札』であり、緩木がまだ『南小学校の黒台風』だった頃の話を。
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