表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/91

10.思考周回プレイ中

 緩木と一緒に遊園地へと行った三日後の火曜日。

 僕はいつも通り学校から帰ってきて、自分の部屋のベッドの上でひたすらに『スターダスト☆クライシス』をプレイしていた。

 いや、せざるを得なかったのだ。

 何故なら……、


「っ!」


 僕はとっさに枕を取り、顔を埋める。


「ふぅー…………はあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 このようにあの日のことを思い出しては悶え苦しみ、枕にへと叫ぶ。

 そんな悶々とした日々を過ごしていたからである。

 今もあの日のことを必死に忘れようとしているが、その都度に緩木のことを考えてしまい、赤面が止まらない。



『誰がなんと言おうと、例え七芽くんが私のことを嫌いになったとしても、私は絶対に七芽くんのことが好き。

 七芽くんが例え私を選ばない人生を送ろうと、私は死ぬまで七芽くんのことを愛し続けてる。

 何もかもを失ったとしても、私はどうしてもあなただけが欲しい』



「くぅあああああああああああああああああああああなあああッ!?」


 思い返しただけで恥ずかしい。

 あんな言葉反則である。

 これまで殆ど褒められたことのない僕が、あんな直球な好意を投げられて、耐えきれるはずがないのである……!

 不味いと思っているのに……駄目だと分かっているのに……心の奥では、ものすごくわくわくする、気持ちが止まらない!

 ドキドキだ! 少女漫画のヒロインか僕は!!

 気持ちの高ぶりを抑えることができないでいる!

 どんなに考えないようにして、嫌でも緩木のことを意識してしまう……ッ!!

 かぁー! あぁー! はぁーッ!!


 あの日以降、緩木とは一度も会っていない。

 緩木は現在仕事の関係で、綺羅星と共に学校を休んでいたのだ。

 だから顔を合わせる心配も無い。

 今では連絡用アプリのメッセージによれば、今は神戸市内で撮影をしているとか。

 その都度一方的に写真やメッセージは飛んでくるが、その頻度は意外にも少なく、送られてくる時刻も夜の9時限定だった。

 きっと、僕の時間をあまり使わせないようにするための緩木なりの気遣いなのだろう。

 その徹底ぶりはなかなかである。


 だが僕はそれらのメッセージに、『そうか』や『仕事、頑張れよ』くらいの素っ気ない返事しか返せていなかった。

 自分でもどうかと思うほどに冷たい返事だが、正直に言わせてもらえれば、なんて返事をすればいいのか分からなかったのだ。

 文章を考えようとしても観覧車のことが頭をよぎって、悶え苦しむ。その繰り返しだ。到底まともな返事など返せる状態じゃなかった。


「はぁ……はぁ……本当、なんで僕なんだろうな?」


 そんな答えの分からない問いを考えていると、持っていたスマホが微かに振動したのに気づいた。

 画面を見てみると、シンデルヤが『対戦をしよう』と、コメントを飛ばしてきたのだ。

 丁度いい。

 一人で考えても仕方が無いし、ここは第三者の意見を聞いてみることにしよう。

 僕はシンデルヤの対戦申請に『はい』を押して、対戦モードにへと移行する。

 向こうのキャラ編成を見るに、どうやらシンデルヤは今回もロイヤルブルースターダストブラスターを出すことはできなかったようだ。


[爆死ご愁傷様]

[おう、サンドバックになれや、こら]

[僕をストレス発散アイテムみたいに言うな]


 編成を終え、いつもと同じ賭け金を設定して対戦は始まる。

 対戦ともなれば気も紛れるだろう

 そうだ忘れろ……忘れるんだ……。

 いくら頭ではそう思っても、体は正直なものだ。

 続けざまにボタンの押し忘れや操作ミスをして、普段の五割の実力すら出せていない。

 油断をすればすぐにでも緩木のことを考えてしまう。

 戦闘はシンデルヤの攻勢一方で幕を閉じ、僕の画面には『YOU LOSE』。

 つまり、負けが表示していた。

 いつもだったらものすごく悔しいはずなのに、今は全くそんな気分など起きはしない。

 ただ、ぼうと画面を眺めていると、シンデルヤが一件コメントを飛ばしてきた。


[なんか辛いことでもあったん?]


 本当、波長が合う。

 なにも言ってないのに、僕の操作を見て気づいたらしい。

 全く、どれだけいい友人なんだよ。お前は。

 僕は同じ日本の何処かにいるであろう、顔も知らない友人に心の中で感謝しつつ、コメントを返した。

 シンデルヤならば、僕の悩みを親身になって聞いてくれるだろう。そう信じて。


[こないだ言ってた美少女転校生の話なんだけど、その子に観覧車の中で愛の言葉を囁かれた]

[お前を殺す]

[デデン!]


 どうやら少し内容の伝えかたが直接的すぎたようだ。

 あっぶない、あっぶない~。

 でもそんな物騒な言葉、SNSだったら即BAN確定だぞ、確実に。


[え、まじなん? それ?]

[まじまじマジックトリックスター]

[おおまじやん]


 マジックトリックスターは、『スターダスト☆クライシス』の星5SSRキャラの一人であり、スーツを着て仮面を被った文字通りトリックスターをモチーフとしたキャラクターである。

 レアリティの高さからして、僕のマジさ加減も伝わったことだろう。

 だが、本当にこういう時、気楽に話せる友人がいるというのは、とても幸せなことである。

 先ほどまでの悶々としていた気持ちが、少しだけ晴れた気がする。


[それで? 付き合うことにしたわけ?]

[いや、相手が僕の事を好きな理由が分からないから、今だ曖昧な関係のままなんだよ]

[別に理由なんてよくね? だって『転校生』で『美少女』なんでしょ?]

[プラス『読者モデル』でもある]

[リアル星5確定ガチャじゃん。何故回さん]

[好きな理由がはっきりしてないからだよ。付き合って後、どんな人生の課金を強いられるのか分からないだろ? だから迂闊には飛びつけない]

[相変わらずジョーカーの人生無課金主義者ぷりは健在だなー。絶対に人生損してるぞ]

[僕は今の生活で十分に満足だ]

[でもいつまでもそのままって訳にはいかんでしょ?]


 シンデルヤの言うとおりだ。

 絶対にこのままではいけない。

 このままではずるずると外堀を埋められてしまい、僕の選択肢はどんどんと狭められて、あげくは緩木と付き合ってしまう可能性があるのだ。

 手遅れとなる前に、何か対策を講じる必要があるだろう。


[てなわけで、何かいい考えあるか?]

[とっととくっついてどうぞ]

[おい、もう少しよく考えてくれよ]


 そうならないように頑張っているのに、それを言ってしまえば身も蓋もなくなってしまうじゃないか。


[じゃあジョーカーは結局どうしたいわけさ? それを決めないことには、俺もアドバイスが出来ないんだぜ?]

[そこなんだよなぁ……]


 僕は一体、緩木とどうなりたいのだろうか。

 だがそれを考えようとするたびに、観覧車で言われた緩木の言葉がフラッシュバックし、枕に顔を埋めてしまう。

 そのくらい、現在僕は追い詰められていた。

 絶体絶命のピンチである。まさか自分の人生でこんな危機がこようとは思いもしなかった。

 分からない……どうすればいい?

 確かに緩木はいい子である。

 僕の事が好きで、料理もできて、気配り上手。おまけに星5SSR美少女(ヒロイン)と、怖いくらいに男子の理想が具現化したような存在である。

 付き合ったらさぞ楽しい毎日が送れる。そんな気がする。

 だがその前に、僕は恋愛には関して一つだけ、どうしても目をつむれない点があった。


[なあ……恋愛関係って絶対に面倒臭いよな?]

[だろうね、魂を賭けてもいい]


 人間関係に必ず生じる不和。

 それはどんなに仲が良くても、起こりうるものである。

 非常に面倒臭く、同時に人生のあらゆるものを犠牲にして、消費する。

 ああ! そうなればなんて人生の無駄か!

 そんな地獄のような時間を味わうくらいなら、付き合わない方がまだマシだ!

 僕はそんな経験をするのがいやで、恋人はおろか友人すら作らず、面倒となる原因を元から絶っていたのだ。

 

 そんな考えの僕が彼女を作るだって?

 それも恋愛経験の無いのに、緩木のような星5SSR美少女と付き合う?

 無理無理、絶対に無理だ。

 必ず破綻する。魂を賭けてもいい。


「はぁー……駄目だぁ……やっぱり僕にはまともな生き方なんて向いてないんだよなぁ……」


 本当に自分でも呆れるくらいの、駄目人間ぷりである。

 これは綺羅星に色々言われても文句は言えないな。

 だが幸い、緩木は後二日間は仕事の関係で帰ってこないのだ。

 だから金曜日の登校時まで、まだ時間はたっぷりとある。

 それまでに気持ちを落ち着かせて、しっかりと考えを纏めることにしよう。

 うん、そうしよう。


 ピンポーン


 そう決意した瞬間、家のチャイムが鳴り響いた。

 今の時間帯は父親も母親も働きに出ているため、僕しかいない。

 通販か何かか? でも最近買い物もしてないし、なんだろう?

 僕は仕方なく一階にへと降りて玄関の扉を開けると、そこには思いもよらない人物が立っていたのだ。


「どうして……ここにいるんだよ……!?」

「久しぶりだね、七芽くん。元気にしてた?」


 デートの時とはまた一際違った雰囲気を醸し出す緩木結香が、僕の目の前にへと立っていたのだ。

 彼女を見た瞬間、僕の頭の中は真っ白になり、完全に思考が停止してしまった。

何らかのご意見、ご感想がありましたら、お気軽にお書きください。

また、評価ポイントも付けてくださると、とてもありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ