信濃路へのいざない
おいゴラ、なにしてるの、バカモン!
そんな言葉しか親に言われたことのなく、ケダモノなみの暴力しか親から振るわれない少年がいた。そんな少年が旅行者と出会った。
かつて、あるところに、名前ではなくてあたかもものかのように呼ばれていた少年がいた。本来の名前は存在するのだが、家に帰って来れば毎日虐待を受けていた、とあるテレビ局の取材に対して語っていた。
その少年は、ある日親に命じられて、駅前のコンビニに買い出しに行ったが、何を迷ったかそのまま公園に行って全て食べきった。そして、その様子を見ていた長野からの旅行者の若き男性が話しかけた。
「きみは、こんなに陽が3時を告げているというのに、なぜこんなところにいるのかや。もし、きみが親に怒られるとか、いじめを受けてるとか、辛い思いをしてたら、JRの普通列車が乗り放題のきっぷで安曇野の自分の家まで来なさい。」
「え?」
「長野県まで連れてってあげる。」
「いいの?」
「いいよ。これは、JRの普通列車が丸一日乗り放題の青春18きっぷだから、どこまで乗ってもいいよ。北海道でも鹿児島でも行けるようになっているんだ。」「きみは、親に暴力を振るわれたり、罵声を浴びせられたことはあるかい。」
「うん。」
「毎日か。」
「うん。」
「今すぐにでも逃げたいか。」
「当たり前だ!」
「なら今すぐに電車に乗ろう。今の時間だったら安曇野まで行ける。」
「よし。」
そうして、2人で安曇野市に向かって電車に乗った。まずは上野行きという表示の、緑の帯を巻いた列車に乗った。
陽は南西の方角から皓々と照っている。かつてこの男の子に当たることなどなかった太陽が、漸く彼の元に光を当てた。
利根川なども電車は橋梁をガタンゴトンといわせながら南西の方角に快走する。下総の大地の真ん中に聳立する高架の鉄路の上では、若き青年がテキストチャットで彼女に以下のように送った。
「今どこいるの?」
「俺常磐本線(笑)」
数分後には、彼女からのメールが返信されて来た。「今岐阜城を観光中。今日は諏訪湖で大花火大会があるからここで集合ね(ハートマーク)」
「ちょうどよかったな。今日は諏訪湖で花火が上がるぞ。行くか。」
「そりゃ行くよ。当たり前じゃん。」
そうその男子が答えると、まもなく列車は江戸川を渡ろうとしていた。
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