『書き綴った想い』
栞と篝
パタパタ……けほっ。
三角巾と前掛け、マスクを着けての大掃除。私は『布はたき』を片手に、薄暗いお母さんの部屋で本棚と格闘していた。隙間があるのか、マスクを着けていても咳き込んでしまう。
私は掃除が嫌い。だから年末にしかしない。両親の影響か、本に囲まれた生活を送ってきた。少しくらい掃除しなくても図書館みたいで良いと思ってる。……本当は違うんだろうけど。
「あ、窓開けてなかった。」
埃が舞っているのに出て行かないな、と思ったら窓を開け忘れていた。
肩を落としつつ、唯一の窓へ歩を進める。足元には、色々なジャンルの本が散らばっている。……本当に、私が掃除しないのは《《お母さんのせい》》だよ。
もう少しで窓に手が届きそう、というところで姉の声が聞こえてきた。
「ちょっと栞ー？ サボってないで他の部屋もやってよー？」
「うぇーぃ。」
まったく、口うるさく《《なった》》姉め。今忙しいの。
隙間から差し込む光に目を細めつつカーテンを開け、窓を開け放った。
良い風……あ、こっちから風が入ったら、
「ちょっと栞！ 廊下に埃出さないでよ！」
「分かったって。」
はぁ。自分に非があるため言い返さない。それよりも何で篝はココにいるの。聞くまでもないけど。私がおっとりしてるから、手伝いに来たんだね。
篝は廊下に散った綿埃を集めた姿勢のまま、部屋の現状を見て言う。
「終わりそう、もないか。」
「ん。」
適当に返答して掃除に戻る。ふと目についた『お母さんのお気に入りの本』。
……おかあさんは何を言おうとしていたのだろう。
あ、糸綴じの部分に何か挟まってる。
動きの止まった私に姉が近づいてくる。
本から折り畳まれた紙片を取り出して、二人で読む。
『 かがりへ
いいお姉ちゃんでいてあげて欲しいかな。』
『 しおりへ
本ばっかりじゃだめ 私みたいになっちゃう。』
『 酒は憂いの玉帚、よ？
あと……ごめんなさい。
遅れちゃったけど、見つけてみて？』
私たちは顏を見合わせ、階下へ駆け降りる。
お父さん、もしかしたら……お母さんは―――
さて、何と言ったのでしょうね？
