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四ページ目 青春とは

登場人物

吉田佳代

桜田薫

武田美麗

加藤和義

「いくよ~はいっ!サード!」


カァンッ!


軽快なバットの音とソフト部の気合の入った声が聞こえてる昼下がり。家庭科部の一年である吉田佳代は同じ部活動の先輩、桜田薫と部活動というのは名ばかりの堕落した生活をしていた。


「先輩、私たちって何なんでしょうね」


「おっとどうしたんだい?君が哲学的な事を言うなんて珍しいこともあるものだね。因みにその問いに哲学的に答えを出すとすると、それを見つけるために今生きている、とでも言っておこうかな。因みにこれはどこかで聞いた誰かさんの言葉だ。その誰かさんは知らん。」


「いや、別にそんなに難しいこと聞いてないですよ。なんか誰かさんがなんとなく可哀想ですね...そうじゃなくて、運動部では汗水垂らして青春してるなーって思いまして。いや、別に運動部だけとは限りませんけどね。」


「ふむ。君が何を言いたいのかよく分からないが、まあ、一つの事に熱中して取り組むということに関してだけを青春としての認識にするのならば、白球を追いかけ、キャンバスに世界を写し、音楽を奏でながら曲の理解者となり得る者達と、私たちが行っているものの差というのは確かにあるやもしれん。」


「でしょう?」


「しかし、それだけで私たちが青春というものをしていないというのは私は些か早計だと思うぞ?」


「ほほう?して、それがしの考えというものは?」


「......まあいい、私の考えというか、うーむ、まず、青春というものは、何かをしていないと青春をしていない事にはならない!というわけではない。という仮説を立てる。」


「そらまた、そりゃほんまつてんとうってやつでっさ!」


「あなた、さっきからキャラがブレブレなのだけど大丈夫かしら?」


「あぁ、気にしないでください。先輩と話してるとだんだん言葉遣いが丁寧になっていくだけなので。」


「…はぁ、あなたの丁寧の基準を本気で知りたくなってきたわ。と言うか、私、今すぐにでもここから逃げたいわ。」


「そんな、冗談に決まってるじゃないですか~ヤダ~」


「…」


「つ、続きをおねがいします。」


はぁ...と一言漏らしもう諦めているのかそれ以上は何も言わないまま、桜田薫は話を続けた


「どこまで行きましたっけ?ええと、ああ、そうです。仮説を立てたところまででしたね。次はどうしたら青春になるか。というものです。これは私がつい先日、吉家ドナルドのラスクをサンドイッチにして食べてる時に耳に挟んだ話なのですが、あぁ、いえ、パンの耳と話を聞くというのをかけた訳では無いのですが...」


「...??」


「...失礼しました。ええと、その時に普通の会話をしている高校生位の人達を「青春してるわね~うふふ」と言ってました。つまり、何かをしてるかではなく、誰がしてるか。なのではないですかね?」


「ええっと、齢十七そこらの人が何かをしていれば青春をしてるって考えられるってことですか?」


「よくそこまでたどり着けましたね。」


「流石の私でも10あるうちの9.9喋られれば分かりますよ!!舐めないでいただきたい!!ラスクのようにね!!」


「いや、ラスクは食感を楽しむものでしょう。しかもどちらかと言うと、締めが甘いあなたの話においてこそ、ラスクのようにと形容するに値すると思うのですが。」


「うるさいうるさいうるさーい!もう先輩なんか知りません!ありがとうございました!」


バタン!


教室の引き戸が強めに締められ、さながら八つ当たりされた罪のない人たちが叫ぶかのような音が出る。


「......」


先輩はその日常的な光景に口元をニヤリとしながら目線を彼女のいた位置から本へとまた向け、一人、小説の海に沈むのであった。




「そんな事があったんですわ。なんなん?まじ、あの人なんなん?おかしない?」


「いや、知らへんがな」


関西人にとてつもなく怒られそうな関西弁で、だがしかしここは北の地。誰も咎める者はいない。そんな二人は今まさに下校中である。


「佳代ちゃんはなんで家庭科部なんて入ったの?」


「うーん。玉の輿?」


「待って、別に家庭科部に入っても金持ちをもらえるわけじゃないよ?」


「あはは!何言ってんのよ!美麗!あんた相当可笑しいわよ?」


「...確かに元々おかしい人から見れば普通な人もおかしく見えるかもしれ無いけど。」


「あれ?今私馬鹿にされた?」


「え?なんで分かったの?すごーい!頭良いんだね!佳代ちゃん!」


「えへへ~。最近勘が鋭いんだよね!さっきも先輩の話ちゃんと最後当てれたし!」


「......チョロ」


「んでさ~。美麗はなんだと思う?青春って」


「うーん。そうだなー。青春とか青春じゃないとかで自分の楽しさが変わるわけじゃないし、私は特にそういうの考えたことないな~。先輩?は年齢を重視してたみたいだけど、私はみんなで何かをやってれば青春になるかな。うー!こんな話してたらみんなと遊びたくなってきた!」


「...眩しいな。」


どこから持ってきたのか分からないサングラスを掛け、そう呟く。

この時佳代には美麗がさながら太陽でも体に入ってるんじゃないかというような光を見たと、後日語るのだった。


「美麗ちゃん、こんにちは、今帰り?」


「あ、加藤くん。今帰りだよ~。加藤くんもなんだね。あれ?加藤くんって何部なの?」


「あぁ、僕ね。僕は部活には入ってないよ。今日もボランティアでちょっとね。」


「へぇ~そうなんだ。どんなことしたの?」


「今日は先輩が風邪をひいたらしくてねその代役としてお呼ばれされたんだ。」


「ふーんそうなんだ。ボランティアなんて偉いんだね。加藤くん。ところで、佳代ちゃんの事はいいの?」


「私はこいつが嫌い」


「ぷふっ。」


いー!という口をしながらギリギリ歯ぎしりし、警戒中の猫のように和義を見る佳代。


「そうなんだよね~。嫌われててさ、この前ももう話しかけないで!な~んて言われちゃって、僕から話しかけられないんだ。」


「いつもは加藤くんから佳代ちゃんに話しかけに?からかいに?行ってるからびっくりしたよ。」


「あはは!佳代は面白いからね。いじりがいがあるよ」


「ちょっとどういうこと?和義。」


「......」


「ねえ!なんで無視するのよ!」


「えっと、加藤くん?」


「どうしたの?美麗ちゃん。」


にこりと優しい笑みを向けながら対応する和義。多分内面を知らない人は堕ちる。いや、知りませんけど。


「え?いや、どうしたの?というか、どうしてなの?って聴きたくなるんですが。そりゃさっき話しかけないとは言ってましたけど...」


「え?ここに僕ら二人以外に人いる?」


「もはや認識すらしてない!?」


「ちょっと!なによ!馬鹿!もう知らない!」


「あ、ちょ、そんな走ったら危な...!」


佳代が走り出した先の交差点。下を向きながら走ったのか赤信号で渡ろうとしている。というか、横断歩道という事にも気付いているか危うい。

刹那、美麗の横を風が通り過ぎる。


「え」


発したのは佳代か、それとも美麗か。はたまたそのどちらもか。そんなことよりも異常な初速から瞬時に佳代まで追いつき腕をつかむ和義の方が気になる。点字ブロックギリギリで止められ、運転手のクラクションが喧騒の中に鳴り響く。その音が事象を置き去りにする中、信号から鳴る音がスタートを促すかのように発され、それと同時に三人にも時間が流れ出す。


「...」


「なんで何も言わないのよ。」


「...」


「なんで!」


「...」


「...」


「佳代ちゃん...」


にこり、と言うよりへにゃりと言うような何とも力なく、困ったように笑う和義。


パン!


「さ!帰ろっか。」


「待ってよ。まだ聞いてない。」


「ほら、美麗ちゃん、帰ろ。」


「...まだやるんだ」


「え、あの、いいの?」


「ん~?まあ嫌われてるならしょーがない」


「それはっ!...っ」


苦虫を噛み潰したような表情から涙をぽたぽた垂らし、


「もう知らない!」


後ろを向きながらそれでも肩からまだ佳代が泣き止みそうにないのが見て取れる。


「あ、加藤くん私ちょっとこの子の事見てるわ。」


「うーん。しょうがないか。じゃあ俺も悪かったから一つだけ、佳代に。」


「...何よ。」


絞り出したかのような質問。


「俺は、青春とかそうじゃないとかじゃなくて、佳代といるとのが、多分一番楽しいよ。」


ハッと顔を上げ勢いよく振り返り、彼の顔を見ると、




──夕日に照らされた、世界で一番ずるい、世界で一番輝く笑顔をした自分のヒーローが立っていた──





(はぁ...反則だわぁ、ほんとないわぁ、頭おかしいわぁ。)


あの後、半ば放心状態で帰宅した佳代はずっとあの、クソ野郎の事を考えていた。


(あんのクソ野郎マジで次会ったらぶん殴る)


そこで、ふと、昼下がりに起こった乙女マンガ事件さっきのやつを思い出してしまい猛烈に恥ずかしくなる。

ジタバタと足を動かし、抱き抱えていた枕に顔をうずめながら、


(そういえば、青春って何なんだろう?)


と、そんなことを考えながら、眠りについたのだった。

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