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三ページ目 バイト

登場人物

倉井優希くらいゆうき

倉井真澄くらいますみ

倉井健二くらいけんじ

武田美麗たけだみれい

美術教室の皆さん

──現在時刻、午後一時半倉井家食卓で家族会議が開かれていた──





「......母さn」

「だめよ」


優希が最後まで発言することを、母、真澄は早々に拒否した。


「そこをなんとk」

「だめよ。あんたこの前金使わないから貯まる一方だ~とか言ってたでしょ?」


「いや~、まあそうなんですけど~...」


「なら別にお小遣いだけで十分でしょ?」


「なぁ、真澄。別にバイトくらいいいんじゃないのか?優希ももう十六だぞ?」


うぉ!ナイス!マイファザー!やっぱ俺の永遠のヒーローだ!


「お父さん...ありがとう...」


真澄の夫であり優希の父である倉井健二は息子に感謝の言葉を述べられ、少し照れ、鼻の下を人差し指でさすりながら、


「へっ、まかせr」

「だめよ」


「......お父さん」


「すまん息子よ」


「...はぁ、あなた達なんで私がこんな頑なにあなたの今言おうとしてることについて否定的なのか分かる?」


「......?」


真澄の言う事に本当に心当たりがない二人。それもそうでしょう。だって、


「この街でバイトしたって変人への耐性は付くかもだけど人生経験とか、得とか、積めないでしょ?」


「......(変人耐性は珍しくないか?まぁ、変人耐性なんて要らないわと思うけど)」


「それにね、そもそも無理なのよ。この隣町までチャリ八時間の辺境の地でバイトなんて」


机をトントンとしながらこの家のトップであり指揮官であり隊長の真澄様がやれやれと言った表情で優希のバイトを許さない理由を簡潔に述べたのだった。


「だって、この街でバイト雇ってるとこないじゃない」


「...!?」


みるみるうちに顔色が悪くなる優希。もちろん優希も事前の下調べでバイトのことは調べてはいたのだが、あんまりバイトの求人がないので自分の日頃のネットサーフィンで培った検索力に落胆を覚える程であった。しかも、優希は、ま、バイトなら親が送ってくれるっしょ。と、思っていた。だが、先の母親の発言で『チャリ』という発言が出たことから自分が送迎を確実にされないことに気が付いてしまった。


「あ、あの、お母さん?免許持ってます...よね?あの~、え~それで、いや~、ははは、送ってくれたりなんて~。」


「無いわね。」


「いや~ですよね~。」


「な、なら真澄、俺が送っていけばいいんじゃないか?」


「あなた、夏休み中にあんまり仕事休めないからって旅行の計画頓挫したの忘れたなんて言わせないわよ?」


「いやぁ、あの、ははは......す、すいやせん!!」


真澄のガチで据わってる目を向けられて、瞬間的に土下座の形に変わる。土下座の形になるのが早すぎたのか、土下座の姿勢になった一瞬後に床になにかが落ちる音がした。

優希もそれを見て、


「雷かよ」


と、漏らすしかないのだった。




場面は変わり真澄に自身たっぷりと「私の知ってる範囲の知り合いでバイトを探してる人がこの街にいれば、考えなくもないわ」といわれた優希。真澄はこの街で顔が利くので要はこの街でバイトを見つけさえすれば良いのだが、先の会議でもう既に戦意が喪失していた。


「って事があってさ」


「へぇ~、ゆうくん大変そうだね。あれ?でもなんかこの前家で働いたらお金もらえるって言ってなかった?」


「あ~。あれね」


そう、優希も別に金を稼ぐ方法がない訳じゃない。真澄の手伝いで稼ぐ方法だ。一仕事500円という破格なので、頑張れば頑張る程稼げる。ただ、時々、たまに、いや、しょっちゅう有り得ない仕事量を上げてくるので勘弁願いたいというが、優希の今の心境であった。


「うーん。やっぱあれはないわ。」


「ふーん。まっ!ならこの街で頑張って探せばいいっしょ!」


そんな彼女の元気そうな顔を見ながらなんで野原で駆け回りそうなこいつがカマドウマ触れないんだろうと、疑問に思っていた優希なのだった。...因みにこの街は虫が苦手な人はあんまりいないので美麗が触れないというのはこの街ではレアだ。


「お前が虫苦手を治すくらいに不可能なんだよ。」


「うぐっ。そ、それは何故にですか。」


「母さんのこの街での顔利き能力は異常なんだ」


ずいっと身を乗り出し、美麗に説明を始める優希。


「はぁ、大体どうしたらあんな専業主婦がこの街の情報を掴んでるんだか。街の端で母さんの噂してもバレそうだわ。」


肩を落とし、項垂れながら一応バイトのことを考える。


「ってかゆうくんは何でそんなにバイトしたいの?」


「ん?あぁ、いや実はな。あと二ヶ月後に母さんの誕生日があるんだけどよ。そこに合わせてプレゼントを買いたいんだ。」


「へぇ~立派なもんだね~」


嘘だ。いや、正確には完璧に嘘という訳では無いのだが、そこは優希も男の子。本来の目的は聖典にある。ぐへへ...聖女達が組んず解れつで......おほほっ!!!...っと、母さんには悪いが、今回は母さんにちょっとばかり利用されて貰うぜ。

そう、優希は母の誕生日プレゼントのためのバイトする。ということにして、もし第一の目的がバレても母のお涙頂戴の展開にする算段なのだった。因みに母さんが気を良くしてもし自分の本当の目的がバレても罪を軽くするという理由もある。そっちの方が反感を買うような気がしなくもないが...


「ぐふふふふ」


「ゆ、ゆうくん。どしたの?なんかちょっと嫌だ。」


「あぁ、すまん。」


おっと危ない。冷静に。ここでバレてしまえば全部おじゃんだ。


「まあ、そういう事だから、お前もバイト募集してる所知ってたら教えてくんない?」


「わかったよ~」


っと何故かここで麗子はその歩みを止めて考え込んでしまった。


「おい、どうした?」


「......」


「麗子?」


「......あっ!!!」


「うぉ!なんだよ。いきなりビックリするだろ。」


「ある...」


「え?」


「あるよ!バイト!この街で!真澄さんの知り合いで!」


「本当か!で、ど、何処なんだ?」


「うん。えっとね──」





騙されたぁぁぁあ!くっそ!あいつ!なんて所紹介してくれてんじゃ!いや、確かに母さんの知り合いの店でこの街の経営だけどこれは十六がやっていいのか?いや、別にいかがわしいとかは微塵も思わないけど。こういう事かよ!


「あ、倉井さん。動かないで。」


「あ、す、すいませ」


「動かないで!」


「!」


と、いう訳で今私は全裸です。なんだよおい。ほんと、デッサンのモデルってなんだよおい。いや、母さんもなんで許してんだよ。なんだよおい。

いや、そりゃね、美麗からめっちゃにやけた顔で言われた時に『あ?なんだこいつ』とは思ったけどさ。いや、まさか親が許すとは思わないじゃん。なんだよ。そこで経営してる人が母さんの姉さんの息子の先生の兄さんって、遠すぎだろ。もはや他人だよ。どうやって知り合ったんだよ。


「はい、一度お昼休みにしましょう。」


一斉にガサガサと道具を仕舞い出す生徒達


「倉井もお昼、食べちゃってください。」


「は、はい。いただきます。...あの、どこで食べれば...」


周りでは男女比四対六位の生徒達がご飯を食べている。優希も服を着て、ご飯を食べようとするが周りではもちろんグループのようにご飯を食べていて優希が入れそうな雰囲気ではない。


「あぁ、別室がありますのでそちらで食べていただいて結構ですよ。」


さっきの言葉と打って変わって柔らかい口調で提案され、素直に頷く。流石に否定してまでここで食べるメリットは優希にはない。


「ふぅ。疲れたな。三時間か。残り四時間か。」


パン!


自分の頬を叩き気合いを入れ直す。それもこれも未来の聖典のためだ。と、自分に言い聞かせながら──


この後は何事もなくバイトも終わり、そこには帰り支度を始める人たちと、大事な何かが欠如してしまったかのような目をしている一人の男が佇んでいるだけだった。


「...もう...お婿にいけない...」


「倉井さ~ん。もう閉めますよ~。」


「は、はーい。」


その日のバイトは終わり、今後のバイトを憂鬱に思いながら自宅への帰路に着くのだった──




──時刻は遡ること午後の一時半、母、真澄は全てを見透かしていた。

そう。バイトの件が出た時点できな臭くは思ってはいたがよく考えると息子は私には逆らえないので、どうにかこうにか尻尾を出させたかった。それ位にあいつは怪しい。

だから、優希がどこまでしっかりとバイトを探しているのかということも試すべく私が一件だけ用意したバイト募集のことをこの会議の後にそれとなく美麗ちゃんに話し、優希に伝えられるくらいのことをそれとなく伝えておいた。「最近知り合いが手伝い欲しいらしくってね~」みたいな感じで。


「ねぇあなた。」


「ん?」


「あの子はやっぱり私たちの子ね」


「ん?あぁ、そりゃそうだろ。」


「えぇ、私たちの子だわ」


二人の捉え方に若干の語弊があったかもしれないが、真澄はそんな事もお構い無しにイスに座りながらほけーっと優希が出てったあとの玄関をニヤニヤした目つきで見つめていたのだった。

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