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間の神門 …Hazama no mikado…  作者: 菜ノ 風木
三十一文字 1
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4. 三十一文字 〜 梅の唄 2 〜

久しぶりの投稿です。

かなり、ストーリーがあやふやになっていますが、飽きずにお付き合い頂けると幸いです。


「春風吹きいで、散りゆく花。

冬の叶わぬ、涙の花。

今宵は、貴方のために散りましょう。

かの花、恨めしく。

春風ともに、咲き誇る。

麗しき、清き、桜の花。

なれぬ、なれぬ。あの花には。」

ただの歌。私が幼い頃に適当に作った歌。

クルクル回って手を広げて歌っていた。今思えば、幼き頃の思い出だ。だが、いつまでたってもその歌は、私を締め付ける。黒い大蛇のようにするりするりと、息の根を止めようと企んでいる。

だけれど、それでいいと思っている自分がいることもまた、否定は出来ない。

私は、梅の花。

桜は、梅の花より人に愛され咲き誇る。

梅は、人に見向きもされず、静かに咲き、静かに散る。

誰も、私を見ないのだ。

手を伸ばしているのに、誰も手を掴んでは、くれない。

私の人生もそうだった。

必死に手を伸ばした。

でも、届かなかった。掴み返しては、くれなかったあの日の手。

そして、かつての人に想いを寄せた、未練がましい私の血。

今となってみれば、こんな醜い姿を見ないでほしい限りだ。

ボサボサの髪にボロボロの服、いつまでたっても、止まらない手の震え。

いつから、こんな姿になっていたのだろうか。

気付いた時は、もう遅かった。

雨の降る日、小さくくぼんだ大地に溜まった雨の雫。屈んで覗くと、自分の姿はボロボロで醜かった。

その時からだ。あまりの恐怖に手と体全体が震え始めた。

叫んだ。必死で叫んだ。涙が、涙が、雫と一緒になって、散り行く花を見送りながら、声の続く限り、雫が落ちてくる限り、泣き叫んだ。なのに、涙は枯れて、叫び声だけがそこに残った。

忌々しい姿。

醜くて、醜くて、見るに耐えない老婆のような姿。

よろよろの足取りで鳥居まで歩き、そっと古びて錆の生えた赤い柱に手を当てた。そして、ゆっくりと縋った。

遠くまで続く空は、見るに耐えなかった。

私の心まで醜かったのだ。

「叶わぬ、想いは、春風とともに消えてしまえ。」

誰かの姿が重なる。

かつての知り合いだったあの人が、言っていた言葉だ。

『叶わぬ、想いは、春風とともに消えてしまえばいいのでしょうね。』

愛する人を亡くした哀れな妖。

「はぁ…」

今日もまた一つ、ため息が出る。

冷たい風がゆらりゆらりと、心に触れ、いつもより増して、小刻みに体が震える。

いつも、得体の知れない何かにすがってしまっている。

この場所に来てからどれくらいの月日が経っただろうか。

日付すらもつけていない。

何かをする気も起きない。

ただ、目を瞑って時が過ぎるのを待つばかり。

だが、時を過ぎたと言っても終わりはない。始めがあるのに、終わりはない。

また、あの人が私の手を掴んでくれると、いつか、何処かで信じていた自分がいたが、それも、過去の話。そう、お伽話だ。怪談のような気もする。

この場所も錆びついて、汚れて、原型を保てているのかさえも怪しい。

でも、それでも、綺麗なのだ。

見窄らしいなどとは、思ったことがない。

いつまで立っても、綺麗な場所だ。陽の光と同じ。

風が吹き、目の前を花弁が泳ぐ。

「梅の花…」

今年も、ほとんどが咲かなかった。

あの梅の花は、私の心を表す。私の、金縛り。

溜息は、もう枯れただろうか。

ジャリっ…と、重い足を動かし、神社の裏側にある梅の木へと足を運ぶ。

静かだ。

肌寒いほどに、誰もいない。

私しかいない。

たった1人。

貴方がいた、この場所。

私が奪った景色に、空を見上げるたび、風が吹き、何度も何度も花弁が巻き上がる。

貴方が美しいと言った景色でさえ、私には、トゲのように深く、深く、刺さる。それらと、同じように、ジャリ、ジャリっ…と重なる砂の音にさえ、やはり、槍のように心の奥底まで、響くのだ。

記憶にないことばかりだ。

気付けば、気付けばだ。

所々にだけ咲く梅の花。

「あの頃は…、もっと、美しかったのに」

まだ、貴方がいた頃。

この花たちは、美しく、咲き誇っていた。




「え、縁斗…」

「ハァ…、な、何だ?」

重い足を何とかあげながら、この階段を登って来た。

目の前には、ようやく古びた鳥居が間近に見える。

「よ、ようやく…」

リクノエは、目をキラキラさせながら。

「つ、つ…」

俺は、鳥居を見上げながら。

最後の一歩を踏みしめて、最後の段を上がった。

「「ついたァァァァァァァーー!!!」」

バタッと、お互い同時に倒れた。

ようやく、この長い階段を登りきったのだ。

暑くて、半ば思い切り、ランドセルを地面に投げ付けた。

「ようやく、だね…」

しみじみと感じているのだろう。リクノエの涙腺が、おかしくなっているみたいだ。

「だな…」

俺もリクノエと一緒で涙腺がおかしかった事は、一目瞭然だ。

度々、吹く風が気持ちいい。

年中半袖見たいな格好で、生活してて良かったと改めて自分に感謝した。

いっつも、ねーちゃんに怒られるけど…。

あっ、ねぇ。そういえば、と、言いながらリクノエは起き上がった。

「ん?」

「神社には辿り着いたけど、このあとどうするの?」


・・・。


「あっ」

何も、考えてねー。

「え、あ、あ?」

リクノエがプルプルと震えだす。

何か、まずいことでもやったか…?!

「何も、考えてなかった…、まさかそう言うつもり…?」

リクノエの震えは、時間が経つたびに震えが増していった。

「そ、そうだけど…」

はっきり、言って、ビビった。

リクノエの震えようはやばかったし、何より目が怖いと言うか、ヤバかった。




「監察官。どうだ。」

警部の俺が重々しく言葉を発した。

暗い部屋に重々しく飾られた電球は、度々チカチカと存在を訴える。

「あまり…」

監査官の俺が言うと一同皆、ため息を揃えて唸り始める。

事件現場の写真がホワイトボードに次々と貼られて行くが、周りの警官たちを見るに、捜査は難航しているようだ。

「犯人…、いわゆる、リクノエの事ですね…」

監察官の俺が発言する。

その目は、雲行きが怪しいと言うことを物語っている。

「あぁ、現場を見てどう思った。」

警部の俺が言う。

ガタッ…と、監察官の俺が立ち上がり、敬礼をして言った。

「今回のこのリクノエ、プルプル事件…。我々には、見当もつきません!!!!」

俺の意味不明な、脳内会議は終わった。





「縁斗?おーーい、縁斗ー!!」

ハッ…、つい悪夢を見てしまっていたようだ。

「あ、あぁ…」

まだ、頭がボッーーーとしている。

警部の俺がまだ何か言うはずだったんだけどなー、忘れちまった。

「大丈夫?」

「な、何とか」

俺の脳内会議の最中にリクノエの震えは、治っていたようだ。

「よし、で、これからどうするの?」

リクノエは、クルクルと辺りを見回す。

「あーー、えーーと、探さないと…」

俺は、見つけるためにきた。

「何を?」

「『梅花』って、名前じゃないんだけど、そんな感じのやつ、を…」

リクノエに言ったら、マズイか。

それに、これ以上迷惑かけたら悪いかもしれない。

「何か、隠してないよね?」

ギクッ…、ヤバイ。

リクノエには、不思議な部分がある。

クラスでは、あまり存在を主張はしないが何かを頼めばちゃんとやってくれるやつだ。

だけど、周りと交わりを持とうとは、しない。

まぁ、不思議ちゃんタイプだ。

よく、読書とかしてるし。俺には、意味不だ。

「まぁ、別にいいけど。」

あっさりと、リクノエが言った。

「早く行こう。」

冷たい、冷たい、風が吹いた。

今日の今日で、リクノエをだいぶ知れた気がしていたのだ。

それは、間違いだったのか。

今のリクノエは、さっきのさっきまで、一緒に階段を登った、あのリクノエのようでは、ない気がした。まるで、別人で、だけど、よく学校で目にするリクノエの冷めた冷たい顔と目だった。

「お、おぅ。」

「特徴とか、わかる?」

何か違和感がする。

「な、何もわかんねー…、でも、梅がどうのこうのって、それに『必ず、ここにいる』って言ってたよーな…」

リクノエは、何でこうも、俺を手伝ってくれるんだ?

「必ず、ここにいる…」

「あ、あぁ、で、この敷地内から出れない的な…」

俺は、リクノエに何かしたか?

「へ、へぇ〜」

リクノエの雰囲気は、見たことがないわけじゃない。誰かと、似てる気もする。でも、誰だか思い出せない。

「な、なんか、あれだよな。げ、ゲームみたいな、バカな話だよな!!」

頭が毛糸玉みたいに縺れて、絡まって、何が何だか、わからなくなっていた。

「縁斗…、嘘、つかなくていいよ。」

リクノエは、何か知っているような声だった。

「は?なに言ってんだよ…」

「いや…、ただの勘」

そう言って、薄すい小さな作り物みたいに笑った。

突拍子のないことを言う奴だ。

「すげぇな。」

リクノエがそう言うことを言うのは、少し予想外だった。

流れるような風に甘い匂いが漂うのに、周りの空気は冷たい。

「環境の問題だよ。」

寂しい目で、この場所の寒さによく似合っていた。

「奥に行ってみようよ。何かあるかもしれない。」

さっきまで、階段を登っている時のリクノエの笑っていた表情とは、別で、今は、作り笑顔のような、薄っすらした微笑みともいえない表情で笑った。

あぁ、よく学校で見る笑顔だ。






今見えているのは、古びた社と鳥居。

「確か、なんかの木と小池があるって言ってた。」

うーーーん、と空を見上げながら縁斗が、言った。

「なんかの木って…、あ、梅の木じゃない?」

リクノエが地面を見ながら言った。

「あ、そうかも知んねー」

記憶を辿る。

「ってか、なんでわかったんだ?」

「下」

リクノエが、人差し指で下を差した。

「下?」

真っ直ぐ続くように、梅の花びらが地面に続いていた。

よし、とリクノエは言い、足早に花びらの後をつけて言った。

「こんなところに、いんのかな…」

モサ男の言うことなんか、あんまり、信じらんねー。

リクノエに、あんまり迷惑かけないほうが良いかも知んねーし。



「縁斗!!」



先に社の裏に行ったリクノエが珍しいほど大きな声で呼んだ。

「ど、どうした⁈」

急いで、社の裏へと走る。

何か、リクノエにあったのかも知れない。

あ、きたきた。そう言って、リクノエはあの薄べったい笑顔とは違う。今日一番の笑顔を浮かばせながら、俺を待っていたを

「綺麗だと思わない?」

所々に咲いた赤い梅の花。

確かに、綺麗だった。

まだ咲き誇っては、いないが十分に綺麗だ。

だけど、だけど、だ。


あの時見たような燃えるような花ではなかった。





「そ、そこにいるのは誰ですか!!」




「えっ…?!」

突如後ろから、声がした。

振り向くと、そこには、赤いあの燃えるような梅と同じ、赤色の着物に身を包んだ女性が息を荒だてながら、そこに立っていた。

「その木から、お退きなさい!!」

この神社の持ち主なのだろうか。

にしても、ボロすぎだ。

「え、あ…」

「す、すみません…」

神社って、入っちゃいけないところだっけ?と、思い返してしまうような、怒鳴りようだった。

「どんな理由で此処に来たのか知りませんが。早く、この場所から立ち去った方がよろしいですよ。」

「お、おねぇさんは?…?」

リクノエがすかさず、聞いた。

本当に、役に立つやつだ。

俺は、こう言う時、あまり粘れない。

「・・・私は、故あって此処にいます。ですが、あなた方は違うのでしょう?」

リクノエに、頼ってばっかじゃダメだよな。

俺の意思とリクノエの手伝い共々で、ここまで来たんだ!!

リクノエに負けてちゃダメだろ!!

「さ、探している人がいるんです!」

引き気味だが、これが今の俺の精一杯だった。

「探し人…?」

「はい。『梅花』と言う名に関係のある人なのですが、ご存知ありませんか。」

リクノエが、丁寧な言葉遣いで聞いた。

やっぱり、頭良いなこいつ。

だが、そんなリクノエを感心している俺とは、別で、目の前に立っている女の人は、さっきのリクノエの震え用とは比べものにならないほど震えていた。

「ばい、か…」

その言葉が何度も女の人の口に出るたびに、空気の層が、ピシッと割れる音がする。

「早く!!!早く!!!早くーー!!!!此処から、立ち去って!!!お願いお願い!!!」

「ちょ、ま、待って!!」

痙攣を起こすような、怒鳴りようと、震えようだった。






「此処に、人の子は、来てはいけない!!」





あれ?あ、まただ。

空気の層がピシッピシッと犇めき合い、突如、パリンパリンと割れていく。

ずっと、考えていた。物心つく頃から考えていた。

僕の…。

「人、の子…」

『人』と『妖』。

何の違いがあるのかをずっと、誰かに答えてもくれない誰かに問うていた。

体力か、超人的な能力か、それとも、生きた時間か。

『人』にだって、様々な違いがあっても、理解し合おうとする者がいると言うのに、どうして『人』と『妖』は、理解し合えないのだろう。

どうして、『妖』はそこまで人を嫌うのか。

縁斗の様に『妖』に興味を持っている『人』もいる。

僕も、屋敷のみんなが嫌いなわけじゃない。

『妖』を嫌いなわけじゃない。

なのに何故だろうか。

僕が、僕らが『人』が一体何をしたと言うのか。

教えて欲しい。

『人』が『妖』の様な力を持たないからか。

『妖』の様に長生き出来ないからか。


僕は、『人』だから、『妖』の世界には、踏み込ませては貰えない。

誰でも良いから、僕の存在を理解してくれる人が欲しい。

何度願ったか、彼らと同じような存在になれるならば、これ以上の幸福は、ないだろうと。

自分は、間違ってる?





「リクノエ!!!危ない!!!!」





遠くで、縁斗の声がする。

僕は、どうしてここにいるんだろう。

瞼が重く、垂れ下がってきて、視界は徐々に暗くなっていく。

縁斗は、何で、叫んでいるんだろう。

こんな、良い日なのに。



『リクノエ。答えを知らなくても、良いのよ。』


母さんは、よく、僕に言う。


『知りたくないことを、知らなくても良いの。』


虚ろに覚えてる。母さんの言葉。

そして、僕の言葉が重なる。







『でも、やっぱり、知らないって怖いのよね。』


でも、母さん、やっぱり、知らないって怖いね。







「此処に、人の子は来てはいけない!!」

はっ…?

意味不明だ。

「おい、何で何だよ!!良だろ、好きなとこに行くぐらい!!」

何で、そんな事を言うのか、理解できない。

「死にたいのですか!一刻も早く!!ここから立ち去…」

叫び声のような怒鳴り声がやむ。

その途端に、グラグラッと、突然地面が揺れ始め、徐々に強くなっていく。

「じ、地震?!!」

「なぜ、こんなところで…!!」

この地域では、地震なんて珍しくはないが、こんな大きな地震は、初めてだ。

でも、何か違和感がある。別の、ら別の。

「リクノエ!!!」

さっきまで、忘れていたような感覚だ。

「姿が…」

あいつどこに行った?!!

考える行動なんて、捨てたみたいに、体が動いた。勢い良く、地面を蹴る。

「あ、!!どこにいくのです!!」

「リクノエを探しにいくに決まってんだろ!!」

後ろを振り向いて、怒鳴り返してやる。

「やめて下さい!!今行ったら巻き込まれます!!」

さっきの声とは、別で本当に心配しているような声だ。驚いて、足を止めてしまった。

その隙を突かれ、手首を握られた。

「巻き込まれる?!!何にだよ!!それに、リクノエをここに連れてきたのは俺なんだよ!!」

だが、そんな優しさになんて気付いていなかった。だから、徐々に言葉を吐き捨てた。

「ですが!!」

「探しにいくのは、当然だろ!!リクノエは、友達なんだからな!!」

相手が掴んだ手を振り払い、何度も何度も神社の周りを走りながら、リクノエの名前を呼ぶ。

「リクノエ!!!」

あいつ…、どこに…。

地震は、一向に収まらず気付けば足元がふらついて、立つことすらままならなくなってきた。

やばッ…い!!

目の前がグルグルと回り始める錯覚が体を襲う。

リクノエ、どこにいんだよ…。

早く、見つけねーと。

でも、あれ…、なんで…、眠たく…。

頭がボッーーーーーとする。

瞼が重く、空の光は徐々に小さくなっていっ…




「危ない!!!」




落ちていた。

落ちていた。

地面にひびが入って、ゆっくりと、ゆっくりと、体が重く、下へ行くのがわかる。

このまま、死ぬ、のか?

わからない。

どうして、ここまで来たのか。

ねーちゃんが、何を知っているのか。

あの、モサ男は?

母さんは?

俺は、何がしたかったんだ?





時が止まる音がする。





誰かが、こっちを見て、微笑んでいる。

嬉しそうだ。

悲しみなんて、知らない顔。

俺の現実には、まるでいない傍観者。

そんな目だ。

こっちを見つめてる。

にやけてる。

退屈そうに「はぁ…」とため息もつくし、イライラしているようにも思える。

でも、ただ、わかるのは誰も自分達の未来も、俺たちの未来も『知らない』って事だけ。


「縁斗…、僕には秘密がある。」


なんの秘密だよ。


梅の花びらが一つ、ひらりと、落ちた。


「ごめんな、縁斗。父さん、もう行かないと。」


どこに?


梅の花びらが一つ、ふわりと、落ちた。


「縁斗、行ってくるわね。元気にしてなさいよ!じゃないと、悪い(うさぎ)が来ちゃうわよ。」


もう、帰ってこないんだろ。


梅の花びらが一つ、すぅっと、落ちた。


「縁斗ーー!!帰ってくるのが遅い!!今まで、どこほっつき回ってたのよ!!」


うるせー!

ねーちゃんだって、人のこと言えねーだろ!


梅の花びらが一つ、しゅっと、落ちた。


「まぁまぁ、落ち着いてください。」


モサ男は、黙ってろ!


梅の花びらが一つ、悲しく、音も立てずに、ひらりと、落ちた。


「やっと、お会いできましたね。」


誰?


「覚えていらっしゃらないのですか…」


覚えてない


「そう、ですか…、でも、それで良いのかもしれませんね。」


なんで?

そっちは、嫌だろ?


「いえ、そんなことはありませんよ。」


そう、なのか。俺なら、嫌だけどな。


「人それぞれですよ。貴方様のお名前は?」


え、名前?


「はい。」


もう、知ってんのかと思った。


「あらためて、ですよ」


あらためて?


「はい。」


俺は、松谷 縁斗。


「縁斗様、ですね」


様は、いらない。


「なら、呼び捨てでも、よろしいのですか?」


そっちの方がいい。


「クスクスッ、ふふ、はい!縁斗!」


どっかで見たことが、…


「私を、ですか?」


うん。そっちの名前は?


「はて、名前…、ですか…。くすっ、忘れてしまいました。」


忘れた?


「はい。ですから、縁斗。貴方が付けて下さいまし」


俺が?


「はい。とっーーておきの!」


とっておきの…、あっ…赤い花が…、綺麗な赤い、炎みたいな花だ。

この花の名前、何だっけ?


「あ、これは、これは、梅の花。懐かしゅうございますね。」


うん、懐かしい。


夢か?何かか?

懐かしいと思うものは、そこらじゅうにある。

何で、そう思うのかもわからないけど、そこには何かがあると思うんだ。

俺の知りもしない物語。

でも、とっくの昔から、知ってて、さらにガキの頃に俺が作っていた。

あの時、モサ男は気付いていたのかもしれない。

『縁斗君。君には、術が掛かっています。』

「はぁ?術?」

「はい。術ですよ。」

意味のわからない返答だ。

「呪いとか?」

とりあえず、頭の中に浮かび上がってきた言葉を口に出す。

「いえ、呪いではありませんよ。」

あまりにも、あっさりとした返答に優しい俺の泉が沸騰し出す。

「じぁ、何なんだよ」

少し、荒っぽく言ってしまったせいか、ねーちゃんの目が怖い。

弟に向ける目じゃねー。

「縁斗。」

「うっす」

姉の目の威圧感は、ハンパない。そのせいか、目だけで物を語れるようになってしまった。

だが、モサ男はそんな俺の恐怖心を感じ取らず、また意味不明な何かを話し始めた。

(アカシ)ですよ。君が過去に〇〇された話…」

「証?」

最後の部分がよく、聞き取れなかった。

「えぇ、君にしかない、物語だ。」

もう、何が何だか、天才的な俺の頭じゃわからない。

だけど、今やっと、落下中だけど、一ミリぐらいは理解できたのかもしれない。

だよな、永真(エイシン)

ほんわり笑う、あいつの顔が脳裏に浮かぶ。

初対面であれだけ喋ったやつは、初めてだ。

でも、どっかで会ったことがあるような気がする。

うーーーーん、何処だったか。

思い出せない。

けど、いつかと同じ、言葉。




「君にしか、作れない物語。」





あぁ、わかってる。












「春」















お前なんだろ?















『〇〇〇様…』


あぁ、やっと、だ、な…。


「はいっ…縁斗」


私に、暖かい春をくれた人。

もう一度願いが叶うならば、今一度、貴方のご縁を見せて下さいまし。



「花よいでよ、我が身の…『梅花(ばいか)』。」

風が吹き荒れ、春の香りが鼻をくすぐる。

あぁ、やっと、手が届く。

貴方に、貴方に、恋い焦がれた。



古びた神社の守り(びと)

その場所には、乙女がいた。

そう。貴方に、恋い焦がれた私がここにいた。

最後まで飽きずに読んでいただきありがとうございました。

感想や改善点修復点など、ございましたら、教えて頂けると幸いです。

これからも、是非とも、よろしくお願いします。

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