⒈ 三十一文字 〜決まり唄〜
第3話です。
これからも、成長していきたいので改善点また、間違っているところがございましたら気軽にお教えいただけると嬉しいです。
ユキちゃんと出会って三日後、僕は学校で困り果てていた。
・・・何が起きてるんだろう。
そう、人生初めてのことで行き詰っている。
いや、いつか来るとは思ってたんだ。
そんな僕は今、自分の机の中とにらめっこしている。ちなみに、顔は恐怖で埋め尽くされていると思う。そんな僕は机の中のある、とある物を取り出そうかどうか悩んでいる。
やっぱり…おど「ねぇねぇ、何してるの?」
「うわっ!!!」
足が震えている。突然後ろから声が掛けられたので思わず、全ての力を失うところだった。
僕に声を掛けてきてくれたのは、隣の席のひとみちゃん。現実に戻してくれたのは良いのだが、心臓が停まる可能性もあった…
「あっ、え、えーーと、しゅ、宿題のプリント机の中に忘れてたかもっ、て思って見てたんだ」
キョトンとひとみちゃんが僕の方を上下にゆっくり見る。そして、納得したようだった。
「そうなの?あっ、ひとみのプリントみる?今日答え合わせだから!!」
いつもと同じ元気一杯のひとみちゃん。けれど、僕は大抵、距離を置いてしまう。
「あっ、えーーーっと、だ、大丈夫!!すぐ終わると思うから!!」
そう…と言ってシュンとしだすひとみちゃん。その姿に僕は何かしたのかと物凄く心配になったがどうかしたのかと聞くとなんでもないの!!と、言われてしまった。
やっぱり、女の子はわからない。
ユキちゃんも、たまにわからない時がある。ぷくっと頬を膨らませて、見た目で怒っていると判断できるのにそれを指摘したら怒ってないって言う。
女の子は謎だ。
けど、初めて会って二日しか経ってないのに表情を指摘されるユキちゃんも凄いと思う。
誰かが言っていたが、女の子は謎のままの方がちょうどいいのだそうだ。
女の子に慣れていない僕にとってはイマイチわからないけど…。
それでも、少しずつ何かが変わっていく。母さんの口癖、でもそうなのかもしれない。
キーーーーーンッ
今日何度目かの風を切るような雪風が僕の耳に届いた。
痛っ、風が吹いたせいかな?
突然の耳鳴りだった。
窓の方に目を向けると、少しだけ空いた窓の奥に朱色の汗ばんだ鳥居が見える。
ドンッ
「あっ、わりぃ」
クラスの男子だ。
たまに遊んでて周りに気付かずにぶつかってくることがあるけど、謝ってくれるからそこは良いところなのかな。
けど今日は、ただ騒いでいるだけではないみたいだった。
「なぁなぁ、お前、あの噂知ってるか?」
先ほど、ぶつかってきた男子、松谷君が話しかけてきた。
「あの噂って?」
「なんか、こうすっげー!!!力でたった1人の人間を助ける妖怪の噂!!!」
松谷君が話しかけてくるのは珍しい。
いつもは、テストの点数を落として、なんとか上げるために僕が手伝わされていることはある。
まぁ、松谷君の場合成績が落ちると、塾に入れられるらしいが…どこの親も怖いもんだ。
「うそでしょ、そんな事あるの?」
「うそじゃねーよ、俺も守られてー!!」
「俺もー」、「俺もー」と松谷君についてきた男子達は口々にそう言い始めた。
松谷君は噂好きだ。
松谷君は、このクラスのお調子者の1人で、噂話もみんな、松谷君の話を冗談だけど、面白いからと思って聞いている。妖怪系の話が多い松谷君の話だが、トーク力が凄くかなり面白いのは理解できるが、どこからその話を入手して来るのか…。八割くらいは当たっている。
「でも、今はあっちの噂の方がすげーけどな!!」
自信満々で、春の桜が満開です。なんてキャスターさんが言った時に松谷君の顔をテレビ画面に出したら、桜の満開感がもっと出せるのになー、とこの時だけは、自分でも頭がおかしくなったのかと思ったものだ。
「えっ、どの噂?」
「何だよ、お前、知らねーのか?」
完全に顔面のニヤニヤを隠しきれていない松谷君の顔は誰かに似ている気がした。
そして、思い切り叫ぶように言い放つ。
「ほら、あの神社のことだって!!!」
松谷君の人差し指が、僕の席の少し開いた窓の間から見えるあの汗ばんだ朱色の鳥居を指していた。
「その噂って、呪いとかのやつ?」
「そう!!それだ!!!」
気付けば、松谷君と一緒にこの席に来ていた男子グループは別の場所に遊びに行っていた。
「それで…」
コソコソと松谷君が、呟いて来た。
「今日、あの神社に行こうと思うんだ。リクノエ、お前も来てくれるよな?!!」
「えっ?」
お前だけなんだ、頼む。と、せがまれでしまった僕は、どうしても断れず…、彼の頼みを聞いてしまった…。
日本人の性格は、たまに残念だ。特に、シャイ(?)と言う部分において…。
それだけ言うと、松谷君はまたいつものグループに戻って行った。。
はぁ…、どうしよう。
今日は、ユキちゃんの所に行く予定だったのに。
って言うか、僕何しようとしてたんだっけ?
ハッと、思い出したように僕は机の中へと向き直った。
えっ…、ない??!
さっきまであったのに。
その後から、僕は時が止まったように感じた。
「ねぇねぇ、リクノエくん帰らないの?」
そう僕に声を掛けてくれたのはひとみちゃんだった。
「え…、もうそんな時間?お昼じゃないの?」
そして、ひとみちゃんはキョトンとした感じで言った。
「何言ってるの?今日は午前授業だよ?」
「えっ?えっ?」
「リクノエくんが、ビックリするなんて珍しいね」
ひとみちゃんが、こちらをジッと見てくる。
「そ、そうかな…」
僕は、やっぱり目を合わせられない。
手がだんだんと汗ばんで行くのがわかる。
「ねぇねぇー、リクノエくん!!甘いものたべれる?」
「えっ、うん。」
「そう、ありがと。それじゃ、また明日っ!」
「えっ」
それだけ聞いて、足早にひとみちゃんは教室を出て行ってしまった。
な、何かしたのかな…
女の子は苦手で、謎だ。相変わらずそう思う。
バンッ
「うわっ!」
急に背中を叩かれたせいで、ランドセルを落としそうになり、なんとかキャッチした。
よ、よかった…
「よっ!!リクノエ!!早く行こーぜッ!!!」
「ま、松谷君?!ビックリするよ」
「あっ、わりぃー、早く行こーぜッ!!」
完全に目的に囚われてしまっている。
けれど、目は今までに見た中で、遊んでいる時よりも、誰かに褒められた時よりも、僕の見間違いでなければ、かなりキラキラしているように見える。
「わ、わかったからちょっと、待って!!」
さっきから、ボッーーとしていたせいか帰る準備を何もしていない僕に松谷君は会話の間も無くドンドン話して来る。
「なぁ、」
もう、教室には誰もいなくて、松谷君の笑い声がよく響きだす。
「な、何?」
でも、その時だけは信じられなかった。
例えば、『みんな持っているものだけど、僕には手に入れられないようなもの』が手に入る。みたいなこと。
「妖怪って信じてるか?」
・・・えっ?僕にその質問する?
「う、うーん、妖怪ってよくわからない…」
「俺は、信じてるんだ。」
何を言っているんだろう。
「ど、どうして?」
人が踏み込んだらダメなはずの境目がどこにでもある。
「こんなこと言ったら、他の奴らなら変な目で見て来るかも知んねーけど、俺」
突然止まる声。
「一回守られたことがあるんだ。」
教室の開いた窓から、冷たい風が僕らの間を通り抜けて言った。
「誰に?」
その境目の決まりを破ったやつがいる。
「妖怪」
そう言って松谷君はニッと笑った。
境目の決まりを破ると、時の波動がおかしくなる時がある。
その、妖はそれを知らなかったのだろうか。
それか、かなり強力な者なのか。
境目の決まりを破る、また覆すにはそれなりの妖力がいる。
妖怪には、レベルの差があり、下級妖怪や大物それらを統べる者、まぁ、昔のやり方に習い妖怪を統べる者は血筋で選ばれる。
統べる者達の一族を統家と呼び、そして、統家達を統べるたった一つの一族。その当主の座を、王妖座また、その一族を王妖一族と呼ぶ。ちなみに、僕の家は、王妖一族だ。
「で、でも何で僕に言ったの?」
友達がいないからか、それとも何か隙を見つけて脅す気か。
妖達は、いつも言う。人は、嘘つきで情がなく憎たらしい。
でも、僕は違っていると思うんだ。
「なんとなく」
まっ、そういう系の話ならお前の方が話しやすいし、なんて、言いながら照れ臭そうに笑っている。そんな、松谷君を見て、僕の心は泣いていた。
「ありがと…」
松谷君達は、僕の思いを表すには十分に大きな存在だともっと、こう言う人たちは居るんじゃないんだろうかとつい、つい、思ってしまった。
小学生で大人びている。と言われる僕は結局、松谷君に頑張って笑顔を向けたけど、なんでか、苦笑いを向けるだけになってしまった。
笑うことに慣れていないのは今更だが、笑いたい時に笑えないのは少し、少しだけ、どこかが"チクチク"する。
「なぁー!」
キョロキョロしながら、松谷君は聞いてくる。
「何?」
ここは、校門の前。
さっきからずっと、松谷君はここで立ち止まり考え込んでいる。
「どっちに、行けばいいのかわかんねー」
・・・ん?
「・・えっ?」
「お前、どっちに行ったらいーか、わかるかー?」
「えっ?ちょっと待って、いま??」
「お前、頭いいだろー?」
「それとこれは、別かも」
「嘘だろー」
松谷君、最後完全に棒読みなんだけど…
でも、松谷君は松谷君でかなり頭を使ったのかもしれない。
「リクノエ?」
「わかった、案内してあげるから誰にも言わないでね」
まるで、レモンがはじけたような笑顔で松谷君はニコニコし始めた。
「おぅ!!!」
松谷君が、僕を誘った理由は道案内と言うことだろう。多分、去年の遠足の時。僕は松谷君と同じグループだったけど、僕達のグループだけ先生とはぐれ、道に迷ってしまった。その時に、僕がみんなを誘導した。
はっきり言って、感だったことを松谷君は見抜いていたのかもしれない。
ここは、ユキちゃんと遊ぶ場所に行く時に走り通る並木道。
今日も昨日と同じで枯葉がふわふわと踊っている。
「本当につく?」
いつもと同じ松谷君の声だ。と、多分誰でも思うだろうが、自分の悲しい癖かそうには聞こえない。だけど、僕には『興味』と『不安』と誰かに『会いたい』そう聞こえた。
「わからない」
枯葉のかすれる音が、何度も何度も途切れ途切れに聞こえた。
「わかんねーことってあるんだなー!めずらしー!!」
「・・えっ?」
「だって、いっーーつも本読んでるだろ?
それに、質問で当てられても一回も間違えたことねーし。お前、天才だろ??!!!」
そんな風に、思われてたの、か…
本を読むことは好きだ。そこに、自分の世界があるように思えるから。でも
「でも、お前も俺と同じで安心したー」
「何だ、それ」
クラスメイトの前じゃ自分から、笑ったことがないような気がするけど、この時だけは笑いが止まらなかった。
確かにそうだね、すぐ近くにいるものなんだね、ユキちゃん。
「頼め置かむたださばかりを契りにて憂き世の中の夢になしてよ」
ユキちゃんと初めて会ったあの草原の場所を僕はよく、地図で探す。
「何それ?」
「頼め置かむたださばかりを契りにて憂き世の中の夢になしてよ」
再び、ユキちゃんはそう言った。
「何それ?」
今日は、ユキちゃんがこの場所に持ってきたオセロで対決中だ。ちなみに、白がユキちゃんで黒が僕。
「えっ、知らないの?うただよー、和歌って言うんだ!!」
いつものように寝転びながら足をバタつかせているユキちゃん。
「へぇ〜、でもその和歌は聞いたことないけど」
「うそだー!絶対に聞いたことあるもん」
「聞いたことないよ、それに、覚えてないし」
「えぇーー」
バッチリ、会話をしながらもユキちゃんは相当手強い…
「あっ、もーらいっ!」
「あぁー!!!」
角一列、取られてしまった。
「クスクスッ、リクでも叫んだりするのね」
「えっ?」
「うーーん、だってリクの印象は大人しい子って感じだけど、クスクスッ、本当はもーーーっと、面白いよね!!」
手を広げ、どデカイ!!と言うイメージを表す姿に思わず笑いそうになってしまった。
「そ、そうかな?」
ユキちゃんといると、本当に飽きない。
「うん!!」
ついつい、笑っちゃうんだ。
「あっ、やったー」
僕は、ユキちゃんがさっき取った方とは、別の場所の角一列を取った。
「あぁー!!!とられたー!!」
ユキちゃんの表現はとにかく、大きめだ。気に障らないのか、足を思い切りバタバタとさせている。着物があまりバラバラになっていないのが謎だ。
「ねぇ、リクはさっき私が言った和歌、知らないの?」
「うん、聞いたことないな。」
「そっか」
頬杖をつきながら、次の一手を考えている姿は絵になりそうだ。
「ユキちゃんは、どこでその和歌を知ったの?」
・・・。少しの間があった。
その間にユキちゃんは、深く考えるように僕から視線を外した。
風が強く吹いて、あまりにも目の前が見えなくなりそうだった。
「クスッ、ある引っ込み思案の子がいてね。その子が、昔とあーる人と会って、その人達と友達になったからその人達の願いを叶えてあげたいと思ってて…続き、わかる?」
「間違ってるかもしれないよ?」
「いいよ、教えて!」
「叶えてあげられなかった?」
「クスッ、正解」
ユキちゃんのちょっと、残念そうな笑顔に僕の目は、ユキちゃんから離せなかった。
「でも、私。その子の願いを叶えてあげたいの!!」
「どうして?」
ユキちゃんは一瞬キョトンとして、いつもよりも、かなり真面目な声と凛とした目で僕に言った。
「どうしてって…誰かが悲しい顔をしているのは嫌いだし、一緒に笑いたいから!!誰かが泣いているのは、もっーーーと、いやだ!!」
僕は、圧倒されていた。
こんな子が僕の小さな世界にいたのだと、納得できなかった。
「ユキちゃんは凄いね。」
はっきりと、本当にそう思ったのに疑うようにユキちゃんの目は揺らいでいた。
「どうしてそう思うの?」
誰だって、思うよ。
「うーん、どうしてだろう…でも、ユキちゃんの周りに居る人達はどこでも笑顔いっぱいだね」
ユキちゃんは、納得いかないような笑顔を僕にチラチラと向けたけど、最後にはいつも通りに笑った。
「クスッ、ならリクもだね」
風が吹きながら、僕たちの間を通り過ぎていく。
「えっ、ぼ、僕??!!!!」
なんで?
「クスクスッ、なんで驚くの?だって、こうしてリクと一緒に遊んでるでしょ?」
風はユキちゃんの綺麗な黒髪を揺らしながら、木々の香りを僕たちの元へと運んでくれる。
綺麗な景色に、大好きな友達。
気付けば、顔の頰はゆるゆるになった。けれど、学校や家のことを思い出すとどうしても瞼を瞑りたくなる。
ノロノロしている僕とは違い、ユキちゃんのオセロを打つ手は止まらない。
「で、でも、ゆ、ユキちゃんと遊んでる時は楽しいけど、学校は…」
「えぇーー、楽しくないの?」
足をバタつかせて、イタズラっ子みたいにニヤニヤしている。
「うん、まぁ、そう…、だけど…」
「あっ!!」
もーらいっ!!と言い、指パッチンをしながらウィンクを僕にむける姿は、思わず笑いそうになって仕方がない。
「きっと、これから楽しくなるよ!!」
人差し指を僕に向けながら、ドヤ顔で決め台詞を言い放つユキちゃん。
「ど、どうして?」
ユキちゃんは、カッコイイけど、やっぱり女の子なんだなーってよく思う。
「えぇーー、リクが気付いてないだけで、その子の隣にいるっーて言うか、顔を見ると、笑いが止まらないー!!!って、思う子は必ずいるよ!!」
ニコニコの瞳が僕を見つめてくれる。
「い、いるの、かな…」
当たり前だよって言うように、その目はちゃんと僕を映してくれていた。
僕にとって忘れられない一日。
「いるよ。自分が気付いてないだけだから、大丈夫だよ!私のおとうさんのお墨付きがあるからね!!」
僕は、ずっと後悔していた。
「あ、ありがと…」
この日。此処に来るべきではなかった。
いや、来てはいけなかった。
僕はこのオセロでの最後の一手を打った。
結果は引き分け。
ユキちゃんは勝負が決まったのに納得いかない、と言いながら頰をぷくっと膨らませていた。
「頼め置かむたださばかりを契りにて憂き世の中の夢になしてよーー!!」
「また?」
「うん!また〜」
頰は、いつもの自然体を取り戻し今度はニヤケ顔に変わっていた。
「意味知ってる?」
「知らない」
パチパチと、オセロの駒を元に戻す。
ユキちゃんは片付けを僕に任せてゴロンゴロンと寝転びだす。
「えぇーー、リクは知りたい?」
突然、ガバッと起きて満足気な顔で僕を見てきた。
「うん?教えて」
ユキちゃんは、驚かす天才なのかもしれない。
「意味は、あの人に会いたいっ、て意味なんだって〜」
人差し指を指揮棒に見立てながらフフ〜ンと鼻歌う。
「あの人?」
鼻歌なのに、綺麗な音だ。
「うーーん、私にはわかんないんだ〜」
また、頰がぷくっと膨らみだす。それでも、鼻歌は離れない。
「何か引っかかるのー!!」
相変わらず、ぷくっと膨らませた頰は今だ元に戻ろうとしない。
「リクは会いたい人いる?」
「僕はいない」
ランドセルから今日の算数の宿題と筆箱を取り出し、ワークを広げる。僕もユキちゃんと同じように、寝転ぶような体制だ。
「ユキちゃんは?」
あっ、今日の問題簡単だ。3ページだけだし、朝の時間に確認テストがあるのかな。
「私?うーーーん、いるよ」
鉛筆、鉛筆、あっ削り忘れてる。
「どんな人?」
連絡帳、連絡帳〜、あったあった、冬休みいつからだっけ。
「リク!!聞いて!!」
「う、うん聞いてるよ」
頑張ってニコッとユキちゃんに笑顔を向ける。たぶん、他の人から見れば苦汁を飲んだような顔だと思う。
「ふぅ〜、笑わないでよ?」
一つ息を吐くその姿と、日本人の瞳のはずなのに、青く、透き通るような色合いを感じるその瞳は、みんなを吸い込んで引っ張って、いくのかな。
もっと、ずっと、この時間は続くのかな。
「笑わないよ」
当たり前だ。ユキちゃんは僕の話をちゃんと、聞いてくれる。
僕はビビリだ。周りのことが怖くて怖くて仕方がない。だから、こんなにも不安になるのかもしれないが、いっつも思ってる。早く早く、この怖さはどこかに行ってくれないかなって…
けれど、そんな時。誰も隣にいてはくれない。それが、この呪いみたいなものが、ユキちゃんに伝わらなければいいなって思う。
けど、そんな僕とは違ってユキちゃんとは会って二日目なのに前から知っていたような感じで、なんでも知っててカッコイイ。
でもたまになのかもしれないけど、よく、うん、たまにね。女の子だよねーって言ってくるのだけは心に刺さるからやめてほしい……
「クスッ、ありがと」
そんな僕の心を知らないユキちゃんは、ずっと変わらないであろう笑顔を向けてくれる。
「私の会いたい人はね、いっーーつも夢の中にしか出てこないの……!」
静かに目を瞑って、ユキちゃんは話しだす。
その時だけは、本当に驚いた。
「夢の中で、その人が…毎日毎日謝ってきてね、大丈夫って言っても聞いてくれなくて……けど、最初に出て来たのは…小さな子で…」
だって、泣きそうな声だったから。
「ユキちゃ…」
でも、ユキちゃんは強くてカッコイイ。僕の憧れの存在。
「会いたいの!」
クラスのみんなが、ユキちゃんを見たらみーんな、ユキちゃんといると楽しいっ!って思うよ。涙は、また瞳の奥に戻った。
キラキラとした星空のような勇気を表す瞳。その目はなにを見ているのか分からなかった。
でも、ユキちゃんの笑顔が一瞬、曇りの日のようになったのは僕の見間違いだろうか。
寂しそうな瞳が、僕の記憶から離れない。
もし、本当だとしても、嘘であって欲しかった
と、これから先の僕は思うんだ。
そう、その時の僕は、知らなかった。
あの和歌の想いの強さを…。
「こっちかな」
「リクノエ…、やっぱり、感で動いて…?」
「え、うん。いっつもこうだよ」
「え、遠足…」
「あれも、感」
松谷君の顔がだんだんとヒクヒクとした顔に変わっていった。
変なこと言ったかな?
「ふーー、でも、いいや!!俺には、わかんねーしッ!!!」
大きく手を広げ、深呼吸をし、背伸びをする姿は、ユキちゃんと重なって見えた。
「そっか」
何がいいのやら、僕には分からないが松谷君がいいのなら問題ないのだろう。
「ってか、遠いー!!足〜!!」
「し、仕方ないよ。裏山を通らないといけないんだし」
早歩きで歩いていたせいか、体力が2人ともあんまり持ちそうにない。
「俺、疲れたー」
先ほどよりも、棒読みになってきている。
そろそろ…
「僕も…けど多分もう直ぐだよ!」
「嘘だーー」
「う、嘘じゃないよ。ほら…」
前を見て!!て、リクノエは何度か言ってきたけど、嘘だって思った。
けど、違った。
前を向く、より、上を向いたらそこには望んでいたようないなかったような、体力が無い時にはキツイような。
嘘だ…
目の前には、神社へと続くような古びた階段があった。
目に止めていただきありがとうございます。
これからも、成長していきたいと考えていますので改善点や間違っているところがございましたら気軽にお教えいただけると嬉しいです。
今後とも、よろしくお願いします。