第七話 大きな賭け
3騎はひたすら西を目指していた。
「殿、もうすぐ兵庫城に着きますぞ」
長成はそう信忠に言い、先頭を駆けた。
「うむ、暫しの辛抱だな」
話しは少し前に戻る。
「兵庫津?恒興の所か?」
「はっ、池田様の所に向かいまする」
「恒興の所が何故安心と言い切れる」
「池田様は大殿の昔よりの直臣であり幼馴染でございます」
「それだけで信用をしろと?」
「それだけではございませぬ、池田様は我が兄、長可の岳父殿でございます」
「うむ、そうだな」
「兄は大殿に心より心酔しております、もし池田様に謀判の意思があったのなら兄にも話しがいくでしょう、そうなれば兄は例え離れた所にいても駆けつけ岳父であっても池田様の首を切り落とすでしょう」
「ふむ」
「兄はそういう人間でございます、それにそうなった時にそれがしに兄から何の情報も来ないとは考えられませぬ」
「長可からの便りが来なかった事が恒興が謀判に加担していない証拠であるという事だな?」
「はっ、それに明智軍は安土、岐阜を手にするため東には兵を向けるでしょう、西は比較的手薄になると思われまする」
「そこまで考えての兵庫津か」
「そうでございます」
「うむ、分かった!兵庫津に向かおう」
こうして信忠一行は兵庫に向かうことになった。
京から兵庫津はさほど離れていないが明智軍を警戒し遠回りして向かった為に信忠達が池田領に入ったのは京を経って5日目の事であった。
そして遂に一行は兵庫城に到着した。
「是非とも池田様にお目通りを」
長成が門兵に目通りを頼んだ。
「お前たちは何者じゃ、殿がお会いになるわけないであろう、とっとと去れ」
しかし当然門兵が3人を知っている訳も無く、門前払いをしようとした。
「このうつけが!その首がなくなる前に恒興を呼んで来い!!」
信忠が声を荒らげて門兵に詰め寄った。
「無礼な!名を名乗れ!!」
「織田左近衛中将信忠である!」
「おっ!!のぶただ・・・様!!?」
そこで長成が信忠をたしなめた。
「殿、このものは自分の仕事を全うしているだけのこと、落ち着いてくだされ」
「うむ、直ぐに恒興を呼んで来い」
信忠も直ぐに落ち着きを取り戻した。
「し、少々お待ちください!!」
門兵は転びかけながら城内に入っていった。
そうして。
3人は部屋に通され、信忠の前には一人の武将が頭を下げていた。
「我が兵が大変失礼いたしました!」
池田恒興である。
「よいよい、良い兵を持っておるな」
信忠は笑いながらそう言った。
「それにしても夢を見ているようでございます、殿は京で自害されたと聞いていたので」
「本来であればそうであろうな、しかしこの者のおかげで命を拾ったわ」
と、言うと信忠は長成の方を見た、それを見た恒興は。
「蘭丸か?」
「お久しぶりでございます、されどそれがしは今は蘭丸ではございませぬ」
「とは?」
「こやつは父より長成の名を賜ったのだ」
「そうでございましたか」
「それがしには勿体無い名前でございます」
「何を言う、お主はわしの命を救ってくれた。もはや立派な武将ぞ」
「殿・・・」
そう言うと、長成は胸が熱くなった。そんなやりとりを遮り恒興が言葉を発した。
「殿、ゆっくりと話しをしたいのは山々で御座いますが、実は」
「うむ?どうしたのだ?」
「こちらをご覧くだされ」
「手紙?これは・・・秀吉からの物か」
「はっ、藤吉郎は光秀を討つべく京に向かっております」
それを聞いて長成は驚いた。
「中国から京にですか?」
長成の驚きは当然であった、本来ならば秀吉は西の毛利を征伐するために中国にいるはずであった、その秀吉が光秀を討つ為に中国から兵を連れて戻ってくると言うのだ。
「藤吉郎は光秀謀反の一報を聞いた時に毛利と和睦を結び、その全軍を持って京へ進軍中らしいのだ」
「流石は秀吉と言った所じゃのう」
信忠が関心して言った。
「信忠様」
恒興が改めて信忠に頭を下げる。
「どうしたのじゃ、恒興」
「お疲れのところ、誠に申し訳ございませぬが、此度の戦の総大将としてご出馬いただきたいのです」
「うむ、当然じゃ。父上の仇をわしがとらずしていかがする!」
信忠が鼻息荒く言った。
「お待ちくだされ!」
長成がそれを制した。
「どうしたのじゃ、長成」
「殿にはここに残っていただきとうござります」
「何を言う長成!わしは織田の棟梁ぞ!わしが出向かぬ訳にはいかぬ!」
「そうじゃぞ、それに殿がいれば兵の士気もあがり勝ったも同然じゃ」
「殿、殿は金ケ崎の事は覚えておられますか?」
「もちろんじゃ、浅井の裏切りで父上が危うく命を落とす所であったのであろう」
「はっ、それがしも話でしか聞いておりませぬが、信頼していた浅井に裏切られ退路を絶たれました」
「それがどうしたと言うのじゃ?」
「もし、この度の戦にて第二の浅井がおりましたら、如何なされますか」
「父上の弔い合戦に参加する手勢の中にも裏切り者がいると申すか」
「その可能性はけして捨てきれませぬ」
「蘭丸・・・いや、長成よ。それはちと考えすぎではないか?」
「いかなる可能性も捨てることなく考える事が大切と存じます」
「しかし、考えすぎて動けなくなったら元も子もないではないか」
「殿、それに」
「なんじゃ」
「もし、殿が生きていたと明智勢にばれたら、捕虜として投降した二条御所の皆々様はどうされると思いまするか」
「そ、それは」
「殿のお命を守る為、そして皆の命を守る為、ここは堪えて下さい」
「ぐぬぬ!!」
信忠は悔しさのあまり畳に拳を打ち付けた。
「恒興様」
「なんじゃ」
「何卒、信忠様が居ることは誰にも、お味方の一人にもご他言なさらぬようお頼みいたします」
「それは流石にやりすぎなのではないか?」
「僭越ながら、拙者に一つ考えがございますゆえ」
「考え?なんじゃ?」
「それは今は言えませぬ」
「・・・ただの小姓かと思っておったが、変わったのう蘭丸・・・いや長成よ」
「ありがとうございます」
「この事は池田恒興の名にかけて誰にも言わぬ、安心せい!」
「かたじけない!」
そうして恒興は数日後、秀吉軍と合流すべく軍と共に城を出た。
それを信忠と長成はずっと見届けていた。
「のう、長成よ、本当にこれで良かったのか」
「この考えがあっているかどうかはまだそれがしにもわかりませぬ」
「出来る事なら・・・出来る事ならこの手で父上の仇を取りたかった!」
「恨むならこの長成を恨んで下さいませ」
「・・・いや、そちには考えがあるのであろう、仇討ちよりも大きな」
「はっ、これはまだ賭けではございますが大きな賭けでございます」
「わしは幸せものよのう」
「何がでございますか?」
「父上は最後にお前のような腹心をわしに残してくれた」
「そんな、拙者はまだまだでございます」
こうして信忠は生き延びる事に成功した、やがて表舞台に出る日の為に。
まず、投稿が遅くなり申し訳ありません。
実は入院をしておりまして、書くのも少しずつになってしまっています。
これからも少しずつですが書いていきますのでよろしくお願いいたします。




