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蘭丸記-森長成の物語-  作者: 羽盛 広野
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第三話 長成の策

二条御所は明智軍に囲まれていた、そして御所内では織田の軍勢がその攻撃に備えている。

織田勢は声を枯らすように信忠様をお守りせい!と叫んでいた。

そして、御所の一番奥では総大将がジッと座っていた。


時は少しさかのぼる。

「長成よ、お前は父上の名代じゃ、策があるなら儂はそれに従おう」

信忠が長成に策を求める、覚悟を決めた長成も精一杯頭を回転させる。

信長ならどうするか、諸葛亮孔明ならどうするか。

孔明はもちろん会ったことは無いが信長ならどう下知するか、自分が孔明ならどう答えるか。長成は必死に考えた。信長は無駄を嫌う、それならばこの千の兵は無駄死にさせる訳にはいかない。

「それがしの策は・・・」

長成の額に汗がにじむ、思いついた策が賭けだったからだ。


そして今、長成は押小路を馬で西に向かっていた。

後に二人の男が同じく馬を走らせている。

目的地は右京である、時間との勝負だった。


一方二条御所では、未だ両軍のにらみ合いが続いていた。

織田軍から手を出すことはせず、また明智軍も大将の光秀を待っていたからだった。

ただ、御所内からは相変わらず信忠様をお守りせい!と威勢の良い声が響く。

その声を兵に出させているのは毛利良勝であった。

「よいか!これは信忠様の桶狭間じゃ!手柄を立てた者には身に余る恩賞が約束されようぞ!!」

かつて自身が今川義元を打ち取り、信長から多大な恩賞を賜った良勝の言葉には重みがあった、それ故に兵の士気は上がっていた。


ところが明智軍もにわかに士気が上がりだした、大将の光秀が到着したのである。

「ほう、篭ったか。信長の居ない今、わずかな兵の信忠に何が出来る!」

光秀はそう言い放ち、余裕の笑みを浮かべた。

彼の謀反劇は詰めに入ろうとしていた。


その頃、長成は右京に到着した。

右京は京の都とは言え荒廃しきっており、京内では本来禁止されている農業の地となっていた。

信長により京の賑わいも回復はしたものの、右京は未だにそのような地が多かった。長成はそこに目をつけた。

「よいですか、我々は休息の場を求めて訪れた旅の者。間違っても己の身分を明かしてはなりませんぞ」

長成はそう後ろを付いてきた男に話しかけた。

「うむ、分かった」

その男こそ二条御所にいるはずの信忠だった。

「しかし大丈夫なのですか」

もう一人の男、と言うよりは長成よりも若い、まだ幼さの残る顔が不安そうに聞いた。

「岩殿、ここは京の僻地。明智軍の目は二条御所に篭った兵に目が向いているはず、まさか殿がこのような所に逃げたとは思いもなさらないでしょう」

岩と呼ばれた青年、彼こそ御所内で兵を鼓舞する毛利良勝の子だった。

「しかし、もし明智の兵が来たら」

尚も岩は尋ねる。

「その時は儂に天命がなかっただけよ」

長成の代わりに信忠がそう答えた。

「なんの、その時はそれがしが命に賭けて殿をお守りいたします」

更に長成がそう言うと。

「わ、私もお守りいたします!」

岩が震える声でそう応じた。それを見た二人はクスリと笑い、緊張が解けていった。


舞台は再び二条御所に戻る。

総大将を務めていたのは信長の五男の津田源三郎であった。

そしてその脇で斎藤利治がじわりと汗をかいている。

何故なら利治こそが今回の策の要の人物であったからだった。

「利治よ、そんなに心を乱さずともよい」

源三郎が諭すように笑った。

「しかし、失敗すれば。みな命はありますまい」

利治は己の出自を恨みながらそう答えた。

「なに、儂らがここで死のうとも兄上がご無事なら織田家は安泰よ」

源三郎が更に笑った、利治は肝の据わったその姿に信長を見たような気持ちになった。


時は再びさかのぼる。

「して、どうやって戦い京を出る?」

信忠が尋ねた、それに対しての長成の答えは。

「戦いませぬ」

その場の全員が、長成が何を言っているのか分からなかった。

「戦わずして如何に明智の包囲を抜けるのだ?」

信忠が再び尋ねた。

「殿には兵を放棄していただきます。具足も脱ぎ、それがしと共に単騎で逃亡していただきます」

「兵を、家臣を見捨てろと申すか!?」

「違いまする、皆を生かす為に逃げるのです」

「どういう事じゃ」

「皆様方には兵と共に御所に篭っていただきます、しかし決してこちらからは手を出してはなりませぬ、殿がに御所に居ると思わせていただき明智軍の目を御所に向けさせていただきます」

「それでは結局は皆に死ねと言っているようなものではないか!」

「それゆえに、斎藤様」


長成は利治に声をかけた。

「なんじゃ」

「斎藤様のご存在が要となりまする」

「どういう事じゃ?」

「明智勢にはご同族の斎藤利三がおりますな?」

「うむ、まったく恥ずかしい事よ」

「時間を稼いだ後に利三を通して明智軍に降伏なさって下さい」

「・・・本気で言っておるのか?」

「はい、利三は光秀の腹心、話しを通すにはうってつけでございます。捕虜になりこそあれ殺されはされますまい」

「何故、そう言い切れる」

「降伏して捕虜になれば駒が出来るからです、それに降伏した相手を殺したとなっては光秀にどのような大義があったとしても奴の悪名は広がります、それは光秀にとって望むことではありますまい」

「失敗したらどうするのだ?」

「その時は・・・織田軍の意地を見せて下さい」

そう言い放つ長成は強く辺りを見回した。

「大切なのは信忠様に生き延びて頂くこと、それがしの策より良い策があるなら申して下さい!」

長成にもう迷いは無かった、そんな長成の覚悟に周りは黙った。


「儂は長成を信じよう、利治よ・・・大変な役目だが皆の事、そなたに託す」

信忠はそう言うと頭を下げた、主に頭を下げられた利治にはもう何も言える事など無かった。

「・・・殿、必ずご無事にご生還なさりませ」

利三は溢れる汗を流しながら、そう答えるのがやっとだった。

「しかし、儂と長成の二人ではちと心もとないのう・・・岩よ」

信忠は小姓の毛利岩に声をかけた。

「は、はい」

突然名前を呼ばれた岩はとっさに前に出た。

「そなたも共をせい」

「わ、私でございますか!?」

「そなたは儂の小姓であろう?ならば付いてくるのは当然ではないか?」

それに長成も賛同する。

「そうでございますね、良勝様のご子息の岩殿がいればゲンもよいかと」

その声に岩の父の良勝は大きく笑った。

「はっはっは!御所には儂が、殿には岩が、本当に信忠様の桶狭間になりましたな!」

「うむ、父上の覇道が桶狭間から始まったなら、儂の覇道は今回の京から始まる!皆の者!必ず生きてまた会おうぞ!!」

「はっ!!!」


こうして信忠の脱出劇が始まるのであった。


相変わらずマイペース投稿ですみません。

そして派手な戦の展開を期待なさっていた方には本当に申し訳ありません。

自分なりに考えた末の流れなので、もしよかったらこれからもお付き合いの程、よろしくお願いします。


追伸 感想もいただけて嬉しいです、ありがとうございます。

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