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DRAK/DUTY  作者: 皐月 悠
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プロローグ


プロローグ


 この世の中には、科学で説明しきれない現象が存在している。

多くは、トリックだと説明できるものもあるが、時々、そんな説明すらできない現象も存在しているのも事実だ。科学が現実であり、原理が解明できない現象が非現実だとするのは強引だが、理解もできず、どう扱っていいのも分からないその現象は、人々にとって不安で自分たちの視界の中から、消してしまいたい存在だった。

 それでも、確かにその現象は存在している。

 それは、魔法という名前で…。そして、それらを取り扱う人々もまた、存在していた。



漆黒の闇が支配する夏の夜。

時刻は、深夜十一時。

美術館の周りは人でうめつくされていた。テレビ局のアナウンサー、テレビカメラマン、「彼」のファンが集まっているのは、「青龍の瞳を盗みます」と予告状を送ってよこしたからだ。予告のみではなく、「彼」が大胆不敵に盗む怪盗なのも人気の理由だ。

ガッシャーン

窓ガラスがわれる音が美術館内になり響き、静寂が破られた。

「いたぞ!奴だ、捕まえろ!!」

「もたもたするな!!」

ガラスを割って進入してきた黒装束の青年の姿を見けると口々に怒鳴った。走り去っていく怪盗を追いかけて走って行く。

ピー

電子音が鳴り、そのうちの一人が赤外線に触れてしまう。若い警官は思わず舌打ちする。目の前の男は、余裕だと言いたげにニッと口元を持ち上げているのが見えた。

ガコッという音とともに床が二つに割れて、ぽっかりと穴があく。 一瞬、そちらの方に気をとられている間に、彼の姿は消えていた。隠れる場所など、どこにもない。この廊下は展示室や階段はない。なのに、完全に見失ってしまう。

「完全に見失いました」

「ちッ」

ほとんどの警察官達は彼が走り去った方向に向かうが、若い彼だけは行かなかった。

頭の中で近道をみつけて、奥になるほど濃くなっている廊 下を展示室へと走り去っていく。廊下の壁にちょうど人一人ほどとおれるくらいの亀裂があり、地図にはない、隠し通路がそこに存在している事に他に気づく者がいなかった。


冷たい警備室のモニターには、「彼」対策の仕掛けを見られるように防犯カメラからの画像が リアルタイムで映し出されていた。

「彼」が消えたのを見て、二十代前後の青年は、細く切れ長な琥珀色の瞳を細め、口元を持ち上げる。

「な、おい!どうしてくれる!!」

太目の小柄な館長は、一気に顔を青ざめた。無理もない。苦労して元の持ち主から奪い取った美術品があっけなく盗まれようとしているのだから。

「アレを、買収するのに一体いくらかかったと…!」

青年は、視線を館長に向ける。

「……買収、ですか」

低く落ち着いた声は、年よりも上に感じさせた。彼は、冷たい目で見下ろす感じで睨みつける。

「貴方は、何に怯えているのですか?」


怪盗は、「青竜の瞳」の展示室に進入する。部屋の中は夏の夜だというのに、空気が凍てつく。窓からの月光が怪盗の姿を浮かび上がらせる。

闇のような前髪の間から、人を惹きつける瞳がのぞいた。

中央にあるガラスの展示ケースの前に立つと、彼はガラスケースをはずし キレイな海のように深い青色の水晶球を守るようにまとわりついている。 手が触れると、深い青色で魔法陣のような模様が浮かぶ。

「間違いない、コレだ」


「怯えてなど…!」

「貴方は、なにか勘違いをしているようですね…」

「な、何を!?」

なんだか分からない恐怖で震えながら、館長は後ろにさがる。

「美術品の価値は、お金じゃありません。そんな事も分からないのに、アレの持ち主になるなど…よく言えましたね」


「待て、シリウス」

展示室の入り口から、若い警官が怪盗の名を叫び、ゆっくりとシリウスは振向いた。

「待てと言われて、待つバカはいないな。大田くん」

ニヤっと笑っておどけた口調だ。 青く輝く青竜の瞳を見て、若い警察官は顔つきをひきしめる。

「じゃあな」

片手をあげると、窓ガラスの鍵をなでるようにはずし窓枠を飛び越えて 外に飛び出す。 追いかけて窓の外を見るが、彼の姿は窓の下のどこにもない。彼は窓枠に片手をたたきつけた。

「…ッ」


「アレの価値は金額ではない。こめられた想い。与える影響力」

「な、そんなのあるわけ…」

「ありますよ。少なくとも貴方にはアレの持ち主になる資格は、ありません」

「!」

窓辺にいる館長に近寄って来た時に、月光で彼の左頬に二本の鋭い傷跡が見えた。

「その傷…」

「……。貴方のしたことは、すべて調査済です。証拠もすぐにでてくるでしょうね。その時に、もう一度お会いしまよう」

そう告げて、櫂はモニター室の外に出ると、ドアを閉めよりかかると、痛む古傷うずく。何年も前につけられた傷が、今さら痛むわけがないのに。

「……許してくれ……」

古傷と共に思い出す昔の友人に向かって、青年は謝った。言葉で何回謝っても、この世にいない人に向かう後悔の感情は薄れていくどころか、心の奥に沈む十字架のようだ。ふとしか瞬間に、いつでも過去の出来事を思い出せてくる。


世の中を騒がす怪盗がいる。

黒装束で美形。その他に、もう一つ有名な理由がある。それは、彼が盗む美術品には、不思議な話がついているという事だった。

彼の名は天狼星と同じ、シリウス。

正体は、誰も知らない……。


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