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出会い

キオ  私ね、青っていう色が見てみたいんだ。




ナレ  二人で見た、青い花。

ナレ  俺と、彼女が初めて見た、どこまでも澄んだ、遠い色。


キオ  青ってやっぱり綺麗な色なんだ。




ナレ   その花は僕とキオに、僕らの明日を見せてくれた。



ナレ   「ラブリーブルー」




ナレ   福祉センターに本を返却しに行く途中の出来事だった。俺は自転車で 本を返却しに福祉センターから家に帰っていた。ふと路面電車のほうを見ると電車から俺と同じ年の頃の女の子が降りてきた。彼女は手を上げている。白い杖を持っていることから視覚障害者だとわかる。


ナレ    通行人は何人かいたが、みな彼女が見えないかのようにその横を素通りしている。俺も放っておこうと思った。関わっても後が面倒だ。だいたい一度出ていった施設を後戻りするのはバツが悪い。


キオ  福祉センターまでいきたいんですー!



ナレ  細いが、よく通る声だ。誰も彼女を助けようとしなかった。仕方がない。




カリマ   どうした、どこにいきたいんだ?


キオ   ん?ど、どなた?


カリマ  アンタ、困ってるんじゃないのか?



キオ   はい、福祉センターに行きたいんです。


カリマ  来いよ。こっちだ。手を貸して


ナレ  俺は彼女の左手をとって道を歩いた。点字を意識して歩くのは初めてだった。


キオ  とっても助かりました!ありがとうございます!




ナレ   彼女は屈託のない笑顔で俺を見て笑った。

     彼女にとっては慣れた道だったんだろう、想像していたよりずっとスムーズに福祉センターまで、彼女を連れて行くことができた。


キオ   ありがとう。私、高近季緒莉たかちかきおり。キオって呼んで!



ナレ   (ボソ)助けたと思ったら、いきなり馴れ馴れしい。



キオ   アンタだって初対面の私に対してぶっきらぼうだったじゃん。



カリマ  悪かったな、ぶっきらぼうで。



キオ   ううん、なんか珍しい人だなって思って。私みたいな障害者には、丁寧に接してくれる人がほとんどだし。

     


カリマ  そりゃ悪かった。



キオ   私はいいの。っていうか、バカ丁寧だと他人行儀って感じで、壁感じちゃうんだよね。



カリマ  そういうもんか?



キオ  そういうものなの!


次の土曜日、俺はまた福祉センターを訪れた。先週と同じ時間に駅に行き、首を回してあたりを探していた。

郊外からの電車が止まり、一番先頭の車両から、キオが降りてくるのが見えた。



カリマ  キオ!



キオ   カリマ?


ナレ   音に敏感なのか、キオの見えないはず目は俺を捕らえて、爛々と輝いていた。俺はこの時、どんな顔をしていたんだろう。


キオ   カリマカリマ!私、カリマにまたあえてうれしいよ!


ナレ   それから俺とキオは次の 土曜日に会うようになった。キオは郊外にある自宅から電車とバスを乗り継いで福祉センターに通ってらしい。そこで子どもたちを相手に、点字絵本を朗読している。



キオ   どっどーう、どっどーう、ティラノうさぎはどっどうはねるー。えもの探してどっどうはっねるー!


ナレ  キオは子どもたちから人気があるらしく、点字絵本を指でなぞりながら朗読していると、子どもたちは花に群がるミツバチのように彼女に身を寄せた。コロコロと頭をくすぐるような声とゴムまりが弾んでるような抑揚ある演技、なにより豊かな顔の表情が子どもたちを楽しませているようだった。



キオ   あれれ〜?パキケファロゴリラが地面をほじくり返しています。「やったー、ニンジンとったよー」



ナレ   絵本から手を話し、身振りを交えながら、キオは絵本の世界を絵本から飛び立たせていた。 キオは絵本を暗記している。



キオ   あの子たちは別に私に同情向けてこないしね。ときどき病院にも慰問に行くんだけど、最近は大人の人も聞いてくれはじめたよ!



カリマ  朗読を?


キオ   うん。聞いてて楽しいみたいよ、私の。でも聞くよりも、やってる私のほうが楽しいって、毎回思うんだけどね。


ナレ   そういうものなのかと、その時俺は思った



キオ   青っていう色ってどんななの?


ナレ   ある日、キオにいきなりこう聞かれた。


キオ   赤とか黄色とか、緑ってわかるの、私にも。でも、青がまだわかんないんだよ〜!


カリマ  色なんて目に見えるだけの要素だろ。目が見えないのによくわかるなんていえるなあ。


キオ   大体どんな色でもわかるんだけど、青だけちょっとわかんない。空とか海とか、遠いから。


カリマ  海は触れるだろ。


キオ   触れるのは海水だよー!海にあるときは青いんだけど、手にすくうと青じゃないんでしょ?なんでなのかよくわかんないけど。


カリマ  おれもなんでなのかよくわかんないけど、他にも青いものはあるだろう?


ナレ   自分で言ってから、青いもので触れて青を実感できるようなものが他に思いつかなかった。


キオ   赤とか黄色は食べ物の味でわかるんだよね。でも青はちょっとまだわかんないんだ。


ナレ   こいつの赤とか黄色はトマトやレモンの味らしい。ゲンキンな認識である。



キオ   ブルーノートとか、そういうのも聞いて見るんだけど、まだ青がわかったっていう感じがしないんだよね。そんなわけで、青いもの、なんか持ってきてよ。


カリマ   まいったな〜、ちょっと思いつかない。



キオ    ふふ〜っ。んじゃ、これ今度カリマと会う時の宿題だね。


ナレ    これは案外難問だった。部屋で一人で考えたが埒が明かない。


カリマ   ふわぁぁ~あ。テラキに聞いてみるか~。


ナレ   学校に行くのは気が進まなかったが、電話は学校よりもっと嫌いだ。

昼休みにあいつを捕まえて相談すると決めて、その日は眠ることにした。


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