-対面-
朝9時。見事に中堅隊に入る資格を手に入れた新入り達が集まっていた。皆時間厳守を貫徹している。ヴァルは変な緊張を持っていた。あの時走破訓練で倒れた人じゃないかと気づかれないだろうか。その時は試験用の兜を被っていたが、誰か一人はヴァルの顔を見たはず。
「中堅隊合格おめでとう。そして第6隊入隊おめでとう。隊長っていうわけじゃないけど、君たちの身に何かあった時に一番先に報告すべき立場のリーバです。よろしくね。」
走破試験のスタートにいた試験官だった。早速暴露されるのではないかと、ヴァルは汗を垂らす。
「中堅部隊になったからって、出番が後回しになって良かった~、なんてことは決してないからね、そこは十分気を付けるように。事態を急いで治めるために、俺らから呼ばれることもあるから、いつでも準備と覚悟が必要だからな。」
他の合格兵には、引き締まった表情の者が多い。緊張と士気は密接な関係にあることはリーバも分かっていたのか、急に明るくなって話を切り替える。
「さ、次だ。面倒なことはさっさと片付けよう。中堅隊以上の特権、武器選びでも始めようか。聞いたと思うが、この軍の基本は片手の剣術だ。君たちも多少の剣術訓練は受けてもらう。そのことも頭に入れておいてもらったうえでの武器選びだ。剣と似た武器で飲み込みを早くするか、完全に自分の好みか。あ、軍が扱ってる範囲でな?」
選ぶ時間も兼ねて休憩に入る。それぞれゆっくり起ちあがって、見本として並べられた武器やリストを見に行った。
王の前で見せる服も重く感じる。何故こんなに弱っているのだろうか。まったく今まで自覚症状がない。
「アーウィング総司令。今回の進軍事項に票をお入れください。」
「………。」
「……?アーウィング総司令。」
「……っ…。」
進軍が決まったうえでの採決ゆえに、そもそも今回の志願兵参加を拒否していたアーウィングは頑なに動こうとしない。
「いつまでそうするおつもりですか!!進軍はもう決まっております!!このままでは総司令と呼ばれるのも危ういのでは?!」
権利があればとことん使う、先ほどもめたばかりのアーウィングの部下。王の言葉で抑えられるが、他の重要人や大臣も目が冷たくなっている。
「進軍の日程、隊列は私が決める…。捨て駒とする行為だけは許さん…!」
「…ふん、その言葉を待っていただけでございます。」
四方からアーウィングへの鋭い視線が解けた。
最高機関も終了し、自室へ戻ろう天井の高い廊下を歩く。
「………!?」
目の前の景色が揺れる。足に力が入らない。大きく前によろけて膝を強く付いてしまった。幸か不幸か、この場にはアーウィング独りしかいなかった。呼吸が早くなり、立てない。
(何だ……。苦しい…!)
「……っは!…はぁ…はぁ。」
視界が元に戻ったが、激しい動悸が続いている。背後から役員二人がやってくる。隠す必要はどこにもないが、この苦しみを抑え込み、無理矢理胸を張って再び歩き始める。
「というわけだ。みんな落ち着いて!……総司令もいい人だからな…、反対すると思ったんだけど…。票が足りなかったのかな。」
全軍、今回の志願が叶ったヴァル達も含めた皆に、侵略による仕事の通達。早速新入りが危険な場所へと連れていかれることとなった。リーバは騒ぐ部下達を抑えるのに必死だった。
「この進軍と重なったのは本当に偶然だ!この戦いのためだけに君たちを呼んだんじゃない!」
やっと落ち着いたが、皆の目は不信の目であった。ヴァルはどちかというと密かに怯えている。
(そんなすぐに…生き残れるのか…?いやいや、ダメだ!そんなこと考えちゃ。)
「いろいろ日程が変わってるが、次だ。この第6隊に何かあった時の動きと役割を説明する。ちゃんと聞けよ、すぐに使うかもしれない。…君たちのなかに戦死者が出たとき、君たちが戦況次第で分断してしまったとき。俺への報告係と、もう一人、『総司令官』への報告係を決める。」
リーバへの報告、この一本道が断たれてしまった時のことを考えてのことだった。総司令官の元に人も増えることになり、中枢の安全性が増し、新たな指示が出せる意味もあった。
「まずは俺への報告係、誰かいないか?…あ、君か。名前は?」
隊と固まって命を守るか、一人離れて命を守るかと、ついついそんな考えが浮かんでしまう。すると、自分の目的を思い出し、自分が動けば誰かの助けにならないかと思いつく。
「次は総司令官への報告……。君がやってくれるか、名前は?」
「…ヴァルです。僕がやります。」
先程選んだ槍を握りしめて立ってしまった。リーバは良かったとほっとした表情。他の隊と比べてスムーズに今日の日程を終わらせることが出来た。この騒がしい様子では、すぐに呼ばれる可能性があるが、この場はこれで解散となった。しかし、ヴァルにだけ解散の前に一通の書類が渡される。リーバは申し訳なさそうにヴァルに声を掛ける。
「助かるよ。その場所に行って、総司令官に一つ挨拶をしに行って欲しい。これは総司令官から直々の頼みだ。」
「え…?!総司令官に?」
「そりゃ、いきなり初対面の人が報告に来ても困るだろう?総司令官もみんなを思ってのことだ。めちゃくちゃ優しい人だぞ?」
「は、はぁ…行ってきます…。」
一気に高まる緊張から、また槍を握りしめて目的地へ行こうとしていた。
「中堅第3隊の報告係に就かせていただきました。よろしくお願いします!」
「総司令のアーウィングだ…共に力を奮おう。」
「はっ!」
特に命令ではなく、同じく任された新入り達がそれぞれ個別に挨拶に来ていた。アーウィングも新入り達のことを考えていることが良くわかる。あの威圧にもなりうる重すぎるような鎧は外しており、この城の正装で迎えていた。
(やっぱり…最初、門にいたあの人だ…。)