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Psychotic Armor  作者: イトヒー
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-総司令官の枷-

「俺はもう…、戦いたくない…。」



 軍事力ゆえの安泰。総資産ゆえの幸福。固く守られ、永い平和が続いていたこの国。今日は意味がないかも知れない、軍の入隊試験の日だった。天気は快晴、少しでも良い人材を探し当てるために、かなり多くの試験科目をこの日も用意した。そのため朝も早い。

「総司令官、全員集合を確認しました。」

「…わかった。」


 一方の集合場所では、両親が映ったペンダントを見つめ、ぐっと意思を固めようとしている若い志願兵が一人。命を危険に晒すものの、武勲を立ててまた村に帰る簡単な作業だと思って、やる気を起こしていた。

「今回の志願、誠に感謝する!間もなく門を開けるが、国王と総司令官への一礼を忘れぬように!!」

 ざわざわとした緊張の空気や視線を、軍隊のベテランが一つに集めた。重い音を立てながら、門番二人と、兵士十人がかりでゆっくりと門が開いていく。順番に、それぞれ担当の部隊長へついていき、志願兵の皆が城へ入っていった。門を通ってすぐの場所、一際目立つ鎧を身に着け、かなりの気迫を感じる男の姿が、志願兵の皆の目に映った。すかさず硬い一礼をその男性に見せる。その総司令官であるだろう男も、所々で静かな会釈を繰り返した。

「剣術…、護身…、走破…、三つか。」

 メモ帳一枚程度の紙を渡され、そこには希望する兵種に沿った試験の科目と、場所が記されていた。途中で体力が切れるのも御免だと愚痴をこぼして、護身・剣術・走破の順と勝手な体力を使わないであろう順番に受けることにした。他の志願兵が既に護身能力の試験を始めていた。

「決められたエリアの中で、一定時間自由に戦闘行動をしてもらう。基準は戦い方と攻撃を受けた回数だ。なにも防御が護身術とは限らない。自分なりの生き残り方をアピールして欲しい。」

 ヴァルは先に試験を受けている皆の戦闘の様子を見ようと思い、きょろきょろと見回すが、試験の舞台は高い壁に囲まれており、状況を見ることはできない。余計なことするなと試験官に背中を押され、次のグループとして高い壁の内側へと入れられた。きちんと打ち合わせがあったのか、スタート位置が決められていた。

(隠れてばっかでもダメだよな…。いいとこ取りで来られるのを注意しとけば…!)

 真上に放送用のスピーカーがあり、試験開始の轟音が響き、耳を痛める。攻撃は最大の防御を信じる者、特殊兵のように隠密行動で狙う者など、最初の立ち上がりで様々なライバルを見つけた。15分間、裏を取り合い木剣を振り合い、いまいち手応えの無い結果に。

「この軍は中堅部隊に入らなければ、武器を選ぶ権利が与えられない。まずは基礎の剣術戦闘力を見せてもらおう。1人ずつ2分間、私に向かって木剣を振り続けよ。」

 数百人の相手を任されたベテランは新入りに気迫を与える。公開試験だったが、どの志願兵も試験官である部隊長の前では、どうも結果に残るような動きになっていない。あっという間にヴァルの出番が来た。リラックスはしていたが、やはりどの振りも試験官に届かない。強気の姿勢も評価に入っていると信じて懸命に向かい、一瞬で2分を終えた。

「時間的にこれで最後の試験の人がいるのかな?撤退戦を想定して突っ走ってもらうよ。途中に敵役として君たちの先輩が襲い掛かってくるから、どう対処するかはみんなに任せるよ。」

 若く明るい先輩らしき試験官が走破試験のスタートに立っている。かすかに直線上にゴールが見えるが、その敵役先輩とやらは見当たらない。ゆっくりと様子を見る暇もなく、護身術の試験の時と同じ轟音が鳴り響いた。

「うわぁ!…びっくりした」

 戦場を出来るだけ再現しているつもりなのか、音だけのほぼ威力を無くしたような爆弾があちこちで破裂する。さっさとゴールしてやろうと、片足強く踏み込んだ途端だった。

「…うぇ…!!」

 スタートして数十メートル。ヴァルの後頭部に敵役の悪意のある一撃が当たり、みるみるうちに視界が暗くなった。



 大勢を捌く試験が行われているなか、城の一室でヴァル達が城門で見た、総司令官の姿があった。同じく発言の権利を大きく持っている部下と激しい言い合いあを繰り広げている。

「夢を持ってやってきた志願兵だぞ!すぐに侵略戦の駒に使うことは許さん!」

「これ以上侵攻を延ばすわけにはいきません!すぐに通知を全志願兵に送り、前衛隊だけでも編成をさせます!」

「そもそも国民はこれ以上の拡大を望んでいない!!総会での市民代表の声、聞いただろう!」

「もっと総司令官が背中を押すべきでしたな。最終決定で侵攻が決まってしまったのですから。」

「……っ…!」

 総司令官・アーウィング。兵も国民と考え、自分なりに国民を愛したつもりだった。侵攻も反対していた。隠していたり、自分を否定して今まで生きてたが、鬱の持ち主だった。頭の中は真っ白で一室のベッドに座り込む。



「俺はもう…、戦いたくない…。」



 ヴァルらが入る兵舎。試験も終えて、束の間の休息の時だった。ヴァルはぷるぷると震えながら一枚の紙を見つめていた。

『中堅部隊への入隊資格をここに証する。』

 手応えがあった、または試験官へのアピールが届いた志願兵は、さらに上の隊への合格を決めているが、ヴァルも情けない場面はあったものの、多少の評価があったようだ。

『第6隊 9時00分 下記の場所へ集合すること。』

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