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第91話 不良とつき合うなんてお姉ちゃん許さないんだから

「間違いありません。サラトガです!」


 疾走する砂を裂くもの(サンド・スプレッダー)の上、遠目に見えたサラトガの姿にナナシが興奮気味に声を上げる。


「ええ主様。でも、あの様子は……」


 言葉の終わりに近づくにつれて、剣姫の声のトーンが沈む。

 近づけば近づくほどに、明らかになっていくサラトガの惨状は容赦なく二人の言葉を奪っていく。


 砂洪水(フラッド)によって抉られた左舷角(さげんかど)の城壁は、辛うじて航行可能な程度の高さまでは修復されてはいるが、上部は未だに崩れたまま。

 

 更には左舷中央あたりの城壁には、ナナシ達がサラトガを出発する時には無かった亀裂が縦に長く走り、そこから細かな罅割(ひびわ)れが無数に走って、何か小さな衝撃でも与えれば、左舷の城壁全体が一気に崩壊しそうにさえ見えた。


 城壁の真下まで来て見上げれば、よくもここまで辿りついたものだと賞賛と憐憫(れんびん)の入り混じった複雑な想いがナナシの胸に去来する。


 領主が反逆者、それ故に解体される可能性が高いと踏まれて、放置される痛ましい姿。通常であれば、即時にドックへと運び込まれるであろう満身創痍(まんしんそうい)の機動城砦の姿が其処(そこ)にあった。


 とはいえ、いつまでも感慨に(ふけ)っている訳にもいかない。

 砂を裂くもの(サンド・スプレッダー)から常設橋へと飛び移り、ナナシは剣姫へと手を差し伸べる。

 せーのという掛け声とともに、剣姫を一気に引き上げると、二人はサラトガ正面の城門へと向かって歩きはじめた。


「ミオ殿は既に連行されているのでしょうか?」


「たぶん。だからこそ、今からでも僕らに出来ることを、ミリアさんに確認したいんです」


 城壁の角を曲がり、サラトガ正面の城門が見える位置まで来て二人は足を止める。

 城門の前。

 其処(そこ)には物々しく武装した白い鎧の兵士達が槍を手に周囲を警戒しているのが見えた。


「主様、蹴散らしますか?」


「ダメです。というかですね剣姫様。蹴散らすという結論に至るまでに色々とプロセスがあると思いますけど、普通は」


 呆れた様に肩を(すく)めるナナシに、剣姫はすこしムッとした表情を見せる。


「とにかく、一度話をして見ましょう」


 ナナシはそういうと()えて、何も知らない様な顔で兵士達に近づいていく。


「あの、すいません。サラトガの中に入りたいんですが……」


 居並ぶ兵士の一人にそう訴えると、その兵士はギロリとナナシを睨み付け、突き放す様に言った。


「この機動城砦は立ち入り禁止だ」


「いや、あの、ここに知人がいるんです」


「知人?」


「はい」


「ならん、この機動城砦の領主には反逆者の容疑が掛かっている。裁判が終わるまで、何人(なんぴと)たりともここを通すわけにはいかん」


 その兵士がナナシに向かって大仰に首を振りながらそう声をあげると、周りの兵士達も、威嚇(いかく)する様に槍を構える。


 1,2,3……12、全部で12人か。


 兵士の数を確認しながらナナシは考える。


「蹴散らしますか?」


 再び剣姫がナナシの耳にそう囁きかけてくるが、その選択はありえない。

 たかが12名程度の兵士を倒して進むのは容易(たやす)いが、こんなところで皇家の兵と事をかまえれば、サラトガの、そしてミオの立場は益々悪くなることだろう。


 というか剣姫様、どんだけ蹴散らしたいんです? 


 剣姫の提案は論外として、ナナシが目の前のいかにも頭の固そうな兵士を、どう説得したものかと考えを巡らせている内に、ナナシ達の背後から聞きなれた声がした。


「ま、そんな固い事言うなよ。おっさん」


 振り向くと、そこには驢馬(ろば)を曳きながら、常設橋をこちらに向かって歩いてくるキスクの姿があった。


 突然不審な男が現れたことで、皇家の兵達はナナシ達の存在を忘れたかの様に、キスクに向かって一斉に槍を構える。


「おいおい、そんな興奮すんなよ。俺達の身元ならはっきりしてるぜ、俺はアスモダイモス軍の将軍位、そこの小僧は次期ペリクレス伯だ。

 お前ら『消耗戦(イグゾースト)』の映像見てないのか? そのガキは剣帝だぜ、剣帝」


「ちょっと! キスクさん」


 キスクが冗談めかしてナナシの事を『剣帝』と呼ぶ分にはともかく、他の人間に自分は『剣帝』だなどと吹聴することなどナナシの性格から言って絶対に出来ない。

 顔を赤らめて、慌てた素振りで向き直るナナシに、キスクは呆れた様な顔をする。


「ばーか、何恥ずかしがってんだよ。この際使えるもんは何でも使え、『剣帝』なんて、めっちゃくちゃわかりやすい看板じゃねえか」


 確かにキスクの言う通り、皇家の兵士達の間からさざめくようにして「剣帝!」とか「見たことある」といった囁きが聞こえてくると共に、それまで警戒感しか感じなかった兵士達の視線の中に幾分、好奇の視線が混じり始めているのを感じる。


 しかしナナシの眼前に立っている兵は、頭の固そうな印象どうり、くだらないとでも言いたげに鼻を鳴らすと、キスクへと言い放った。


「剣帝? それがどうした。しょせん奴隷どもの中で、強いというだけのことだろう」


 キスクは、ウンザリした様な顔で肩を(すく)める。

 いるのだ、こういう馬鹿が。

 身分が高い人間は必ず身分の低い人間より優れている、そう錯覚する世間知らずが。

 ただ、こういう人間を言い負かすのは、ある意味一番簡単だ。

 身分という鎖に自分から縛られているのだから。


「言うねえ。じゃあ、こう言った方が良いか? 

 俺達を通さないと、後日アスモダイモス伯とペリクレス伯の連名で、皇家に抗議が入ることになるぜ。

 融通の利かない兵士のせいで、とても迷惑を(こうむ)りました、とな。

 いいのか? お前さん、あっさり職を失うことになるぜ?」


 そう言って睨み付けながら詰め寄るキスクに、その兵士はあからさまにたじろいで身体を逸らす。

 キスクの目論見どうり、兵士は急に困ったような、慌てた様な、そんな顔になって、しきりに汗を拭いはじめた。


「ま、待て。少し待ってくれ。私では判断できない。上司に相談させてほしい」


「それが分かってんなら、とっとと相談してきやがれ!」


 キスクが恫喝する様に声を荒げると、転げる様にして兵士は城門の内側へ消えていく。

 そして、しばらくすると上司と思われる全身鎧を着込んだ男が、先程の兵士を従えて城門の内側から歩み出てきた。

 上司はナナシの方へと近づくと、柔和な表情を浮かべて丁寧に話始める。


「剣帝殿、この者からお話は伺いました。

 現在、この機動城砦の乗員は全て監視対象となっておりますので、さすがに城に入っていただく訳には参りません。

 ですが、特別に貴方の知人という方をここまでお呼びしましょう。我々が監視する中での面会ということであれば、問題にはなりますまい」


「あ、ありがとうございます」


「ただそれには一つ条件があります」


 条件、その言葉にナナシが鋭く目を細めると、まわりで様子を伺っている兵士達も上司が何を言いだすのかと注視しはじめる。


 上司は少し言い難そうに口ごもった後、一つ頷くと意を決して口を開く。


「わ、私の剣にサインをしてください!」


 ぽかんとした表情を浮かべるナナシ。

 背後では、居並ぶ兵士達の方から「汚ねえ! 隊長、汚ねぇよ!」「職権乱用だ!」「俺は後ろの剣姫さんのサインが…」と口々に声があがる。

「黙れ!」と上司が一喝すると、兵士達は一応黙ったものの、その視線は明らかに不満げである。

 しかし上司はそんな部下達の視線を全く気にする様子は無い。


「失礼しました。では、これにお願いします」


 にこやかな笑顔をナナシへと向けながら、上司が腰から剣を引き抜いてナナシへと差し出すと、先ほどの頭の固い兵士が、上司の背後でボソッと呟いた。


「隊長、それ隊の備品です」


 上司が頭の固い部下を、しこたまぶん殴る様を横目に見ながら、ナナシがキリエ、ミリア、アージュの三人を呼びだして欲しいと他の兵士へ伝えると、その兵士は乗員名簿の様なものを取り出して、該当する名前を探し始める。


 その結果、ミリアは現在、サラトガには居ないということがわかった。

 家政婦(メイド)の様な下働きの者は、難民キャンプに収容されたはずです。と、兵士が先程までとは打って変わった丁寧な態度で教えてくれたのだ。


 そのまま待つこと半刻、再び城門が開くと、皇家の兵に先導されてキリエとアージュが出てくるのが見えた。

 二人とも武装は解除されてはいるものの、普段と変わりないその様子に、ナナシはホッと胸を撫で下ろす。


 しかし次の瞬間、


「おおおお、我が弟よ!」


 ナナシの姿を見止めた途端、前を歩く兵士を追い越して、キリエがいきなりナナシへと飛びついた。


「なっ!?」と小さく声を上げたきり、硬直するキスク。

 突然の事に唖然とする兵士達。

、キリエの背後ではアージュが、ナナシの背後では剣姫が、共にとてつもなく複雑そうな表情を浮かべながら言葉を失う。

 しかしキリエは周りの反応など気にする様子もなく、ナナシの頭を胸に抱きながら、矢継ぎ早にナナシへと問いかけた。


「元気だったか? お前少し痩せたんじゃないか? ちゃんと食べていたか? 毎晩ちゃんとお姉ちゃんのことを思い出してくれていたか? 寂しくなかったか? ペリクレスの連中にはいじめられなかったか?」


「ちょ、ちょっとキリエさん、落ち着いて!」


 埋もれると表現するにはずいぶんと無理のあるささやかな胸に顔を押し付けられて、喘ぐようにナナシが訴える。


「何を言っているのだ! お姉ちゃんは(すこぶ)る落ち着いているぞ。

 ん? そうだ! 

 我が弟よ、お前、剣闘大会なんぞに出ていたというではないか、危ない事しちゃダメじゃないか、怪我でもしたらどうする気だ。

 もー、お姉ちゃんに心配をかけるなんて悪い子だな。メッ! だぞ。

 まあ良い、こうして無事に帰って来たのだ。お姉ちゃんはそれだけで満足だ。

 ん? しかし我が弟よ、お前ずいぶん髪が伸びているではないか、このままでは男前が台無しだな、よーし、お姉ちゃんが散髪してあげまちゅからねー」


 反論する機会も与えられないまま、一方的に捲し立てられ、ナナシの目がどんどん虚ろなものになっていく。


 剣姫とアージュがナナシの頭を掻き抱くキリエを恨めし気に見つめる一方、皇家の兵達は、皆一様に胸やけした様な表情で「ダダ甘だ……」「ダダ甘お姉ちゃんだ……」という呆れた様な囁きを洩らしている。


 キリエがダダ甘なのは今に始まったことではない。

 抱きつかれるのは流石に恥ずかしいがナナシには、それ以上にすごく、すごーく気になっていることがあった。


 ナナシは、何とか身体を回して体勢を変えると、キリエの頭の上でふよふよ揺れている()()をじっと見ながら、恐る恐る尋ねる。


「キリエさん、その……頭の上のソレは……」


 ナナシの視線の先にあるのは、黒い兎の耳を模したカチューシャ。

 黙ってさえいれば、もう一度言う。黙ってさえいれば、クールビューティで通るであろうキリエには恐ろしく不釣り合いな、かわいいウサミミ。


 それを指摘されると、キリエは照れた様に頬を染める。


「き、気付いたか?」


 そりゃー気付きます。


「ほら、お前も知ってのとおり、お姉ちゃんは割と()()()だから」


 控えめ?


「ん、なんだ、その、イメチェン。イメチェンだ。少しは()()()様にしないとと思ってな。どうだかわいいか?」


「は、はい」


 困ったような微妙な愛想笑いを浮かべながら、ナナシは内心、これが実はキリエのボケで、ツッコみを求められているのではないかと疑いはじめていた。


「うんうん、流石我が弟だ。女が髪型を変えたなら、すかさずソコを褒める。紳士の(たしなみ)というものが分かっているな」


 髪型の範疇(カテゴリー)なんだ……。ウサミミ。

 確かに頭の上ですけれど……。


 キリエについては、誰にもどうしようも無い。そういう空気が流れる中、ナナシの背後から、前髪をやたらといじりながら、なぜかモジモジと体をくねらせてキスクが進み出てくる。


「よ、よう」


 本人的にはさりげない挨拶のつもりだったのだろうが、あまりのぎこちなさに見ている皇家の兵達の間に謎の緊張が走る。


「あん?」


 興味なさげに声のした方へと目を向けたキリエは、それがおっぱいソムリエだと気付くと、一瞬驚いた様な表情になった後、何かとても不味いものを食べた時の様な表情になった。


「お、俺もかわいいと……思うぜ」


 モジモジしながらそう言ったキスクを、キリエはあっさり黙殺すると、ナナシをさらに強く抱きしめながらも厳しい口調で言い放つ。


「我が弟よ。友達は選ばなきゃだめだ。見ろ、この中身の無い男は女と見れば、何かそれっぽいことを言ってすぐに言い寄ろうとする。こんな不良とつき合うなんてお姉ちゃんは許さないんだからな!」


「だ、誰が不良だよぉー」


 にへらと締まりのない表情で、キレの無いツッコミを入れるキスク。

 どうやら今、キスクの脳内ではキリエと楽しく会話していると脳内変換されているらしい。これはこれで、ある意味幸せだと言える。


 しかし、ナナシにとって、キスクは友人(ヘイザ)のその恩人だ。

 しがみ付かれながらも、ナナシはキリエを真剣な顔で見つめて(さと)す様に言った。


「そうですよ、キリエさん。ヘイザはキスクさんに何度も助けてもらったって言ってましたよ。とっても良い人なんだって」


 ポカンとした表情を浮かべるキリエ、対照的にキスクは顔をほころばせる。


「剣帝……。お、おまえ良いヤツだなぁ」


「う、う、うちの弟が、あのかわいかった弟が、お姉ちゃんに口答えを……。これが非行の兆候というやつか?」


 歯噛みする様にそう言って、キリエが益々強く睨み付けると、キスクは照れたような表情で一層慌ただしく前髪をいじる。


「キリエ殿、話を進めてよろしいですか? 主様も困っておられますので」


 さすがにこれは収拾がつかないと思ったのか、今の今まで、黙って見ていた剣姫が、キスクの背後からピシャリと言い放つ。

 キリエは少しムッとした表情になった後、ナナシにしがみ付いたまま、プクッと頬を膨らませて拗ねた。

 どうやら、ナナシを離す気はないらしい。

 良く見れば剣姫のこめかみに、(うっす)ら青筋が浮かんでいるのが見えた。


 ナナシは苦笑しながら、真面(まとも)に話が出来る相手を求めて、アージュの方へと顔を向ける。


「アージュさん。ミオ様は?」


 ナナシの意識が自分に向いたことにアージュは一瞬喜んだものの、その口から出た言葉が、自分についての話では無いことに、少しがっかりする。


「もう、既に連行されてしまった」


「そうですか……。裁判は何時からなんでしょう?」


「全領主が揃ってからとは聞いているが、メルクリウスの到着が遅れているらしくて、まだ始まっていないみたいだ。

 つい先程、セファル殿に「所在を告げよ《イル・ルォーゴ》」でメルクリウスの位置を確認してもらったのだが……」


「何か気になることでも?」


 アージュは小さく頷く。


「メルクリウスの背後に、ピッタリとゲルギオスがくっ付いているんだ」


「えっ?!」


 驚いたのはナナシだけではない。

 何気なく聞き耳を立てていた皇家の兵士達が一気に騒然とする。

 当然だろう。

 サラトガ同様に、ゲルギオスも皇家への反逆者として追われている立場なのだ。


「メルクリウスが襲われているという事ですか?」


 アージュは目を(つぶ)って小さく首を振る。


「いや、どうやらメルクリウスがゲルギオスを曳航(えいこう)しているみたいだ」


「それは、つまり、どういうことなんでしょう?」


「…………メルクリウスがゲルギオスを占拠したと考えるのが自然だな」


 アージュが少し言い淀んだのは、ゲルギオス領主とナナシの関係を(おもんばか)った末に、その事実を伝えることにためらいを覚えたのだ。


「普通に考えれば、ゲルギオス伯はメルクリウスに討ち取られているはずだ」


 アージュのその言葉に、ナナシの顔が一気に蒼褪(あおざ)める。


 ゲルギオス伯キサラギはゴーレムだが、中にはナナシの義妹キサラギの魂が囚われている。

 救出の手段を模索している間にそのゴーレム自体が討ち取られてしまったというならば、キサラギの魂も一緒に失われてしまうことになる。


 ナナシの身体が小さく震えるのを感じたのか、しがみついたまま、むくれたフリをしていたキリエが、更に強くナナシの身体を抱きしめ、耳元で囁いた。


「そのまま何ともないフリをしながら聞け。大丈夫だ。我が弟よ。ミリアがアスモダイモスに潜入した。無事脱出していれば、今頃、紅蓮の剣姫とともにストラスブルにいるはずだ。合流しろ。義妹のことも相談すればいい。まだ諦める必要はない」


 おもわずハッとした表情を浮かべるナナシに片目を(つぶ)ってキリエは合図を送る。その意味をナナシなりに理解して小さく頷くと、キリエを(わずら)わしげに振り払った。

 はっきり言ってその演技はかなりわざとらしい。


「キリエさん。もういい加減に離れてください。話になりません! キスクさん、剣姫様、行きましょう。ミリアさんはここには居ないみたいですし」


「えっ? おっ、おう……」


 皇家の兵達に一礼すると、ナナシは機嫌を損ねた風を装って、振り返りもせずに常設橋を街の方へと歩いて行く。


「じゃ、じゃあ、またな!」


 やけに前髪をいじりながら、キスクがキリエに向けてぎこちなく笑いかけると、キリエはじとっとした目を向けて、底冷えする様な低い声で恫喝する様に言った。


「我が弟に悪い遊びでも教えてみろ、今度こそぶち殺してやるぞ」


「そ、そんなことしないさぁー」


 何故か弾む様な声でそう言うと、キスクは何度もキリエの方を振り向きながら、ナナシを追いはじめる。

 その顔がやけに綻んでいるのは、久しぶりにキリエと会話できた嬉しさからであろうか。

 後にこの場にいた兵士達は述懐して、この時のキスクの鋼のメンタルを称えるのであった。


 そして最後に残った剣姫は、アージュと目を見合わせると静かに一礼して、ナナシを追って走り始める。


 皇家の兵士達が、キリエとアージュを城門の中へ入る様にと促す中、アージュは遠ざかっていくナナシの背を、名残惜しそうに目で追った。

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新作始めました!舞台はサラトガから数百年後、エスカリス・ミーミルの北、フロインベール。 『落ちこぼれ衛士見習いの少年。(実は)最強最悪の暗殺者。』 も、どうぞ、よろしくお願いいたします!
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