第五十一話「変わるものと変わらぬもの」
話が終わった後少しだけ沈黙が私たちの間に流れたけれど、「お風呂入ろっか」というゆりちゃんの一言で徐々にいつもの空気に戻りつつあった。
「今となってはですが、もっと前に話しておくべきだったかなと思ったりもするんですよね」
ゆりちゃんがお風呂に入ってしばらくすると、うきちゃんはそんな風に話し始めた。
「私自身、もうとっくの昔に気持ちの整理がついてる話だったので、お二人に話しても「で?」くらいに思われるかなとか、いろいろ考えた結果ちょっと微妙な空気になってしまったので、余計なお世話だったなって」
「……まぁ、私が勝手にあることないこと考えてもやもやしてただけだし、そんな態度で二人に接してたんだから、余計に言いづらい雰囲気になってたのもあるけどね」
私は特にいらんことまで考えてしまうので、もっと相手との会話が必要だなと感じる。
言っても伝わらないこともあるとは思うけれど、きっと言ったほうがずっともっと伝わるだろうし、相手を深く知ろうとしないと、結局相手も自分も傷つくことになってしまいかねない。
私はずっと、私が傷つくことを恐れていたんだ。
そして、そうやって自分だけが傷つかないようにしてきたから、他人の心に疎くなる。
ゆりちゃんの心にも、うきちゃんのこころにも、私はずっと向き合ってるつもりで、その実真正面から向き合ったことがなかったのかもしれない。
「めんどくさいよね、人間って」
「それを言ったら何もかもおしまいな気がします」
「心なんて、誰にも見えないのに」
いつもそれが一番重要で、いつもそれが問題を深刻化させる。
自分の心でさえ見えないしわからないことだってあるのに、他人の心まで考えなくちゃいけないんだから、この世で一番面倒な生き物だなって、私はそう思うけどね。
「私はね、悪い言い方をすると”押し付けあうことができる関係”っていうのが理想でして」
少しの間私の言った意味を考えていたのか、難しい顔をしながらもうきちゃんはそう言い返してきた。
「押し付けあう?」
「はい。何が好き、何が嫌い、何を考えていてどう感じるか、どうしてほしいかとかどうしたいかとか、そういうのを言い合える関係がいいなって、最近思うんです」
「して、その心は?」
「そういうのって多分ですけど、自分の心の一部をその人に預けているようなものじゃないですか」
心の一部を預けあう関係。
それはなんだか昔の私にあって、今の私がなくしてしまったもののようで。
そして昔うきちゃんが持てず、今手に入れることができたものなのだろう。
「相手の中に自分の好き嫌いを置いておくといいますか、相手の行動基準にそれを含んでほしいという押し付けといいますか。とりあえず私が言いたいことは、話さないと分からないし、伝わらないし、不安だってことですよ」
「それっぽくまとめたけど、言いたいことがまとまらずにひっちゃかめっちゃかだと思います」
「そういうことは言葉にしなくていいんです!」
「いや言葉にしないと伝わらないかなって思って」
「自分でも十分理解してるので余計なお世話です!」
怒った表情をしながらもどこか嬉しそうなうきちゃんと、にやにやと気持ち悪い笑顔の私を見て、お風呂から上がってきたゆりちゃんは「どうしたの二人とも、気持ち悪い顔して」の言葉とともに若干引いた表情をくれた。
それを受けて私とうきちゃんは顔を見合わせて、堪えきれずに笑ってしまった。
「なになに!? どうして気持ち悪いって言われて二人とも笑ってるの!?」
何が起こっているのかさっぱりわかっていないゆりちゃんはひたすら不思議そうに首をかしげている。
ゆりちゃんにも後で説明してあげよう。
でも今はうきちゃんとの秘密ということで、もう少しだけこの感情を二人きりで共有しておこう。
友人として初めての感情共有記念として。




