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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
春の章
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第四十九話「必要な会話」



 修学旅行二日目。

 この日は一日目と違い、何事もなく過ぎて行った。

 えりさや遥、繭染さんが行きたいと言っていた場所にみんなで行き、たまに道に迷って、何となく入ってみたお土産屋さんやレストランで当たり障りのない会話を楽しみつつ、旅行を存分に楽しんだ。

 そしてお昼過ぎ。

 明日の見学場所の近くのホテルへと移動するため、学校が用意したバスへとみんなで乗り込み、少しばかりの休息をとることになった。

 付け加えて言うならば、バスの座席は窓側にゆりちゃん、その隣に私が座っている。反対側の窓側から繭染さん、えりさに遥となっている。遥が私の近くの席ということには若干の不満を抱えたりするけれど、まぁゆりちゃんが隣にいるので良しとする。

「いやー、結構歩いたね」

「遥が何にでも興味を示すから、道にも迷ったしね」

「あれが無ければもう少しどっか見て回れた気がする」

「そんなこと言ってしょうがないじゃん。それに、比奈理も楽しかったでしょ?」

「そりゃ、まぁ、ねぇ」

 楽しかったと言えば楽しかった。というかいつも言っているけれど、ゆりちゃんと一緒なら何でも楽しい。それがどんな事であろうともだ。

 だからと言っても、遥の奔放な性格を許容するわけでは無い。これは個人的に旅行に来ているわけでは無いのだから、もうちょっと計画的に行動をしてほしいものだ。

「で、明日はどこに行く?」

「みんなが行きたい場所でいいよ、私は」

「比奈理って、意外と我がないよね。何というか、こうしたい! って感じの欲が無いっていうか」

「そうかな。結構欲張りな気がするけれど」

 そうね、ゆりちゃんと二人きりであれば、私はそれなりに自分の欲を出していくけれど、これが多数、正確に言えば三人以上という集団での行動となると、付いて行くだけという事が多い。

 それは多分、誰かに愛されたいというよりも、一人に愛されていたという欲が出ているのかもしれない。

 愛されたいから、欲を出す。愛していたいから、縛りつける。

 これじゃ、私も姉のことは言えないな。

「比奈理さん、百合子ちゃんはああ言ってますけれど、どうなんですか? 二人きりの時はにゃんにゃん甘えちゃってたりするんですか?」

「その気持ち悪い笑顔やめろ。というかそんな甘えたりしないし」

「そうですかねー、比奈理みたいに普段つっけんどんな子が二人きりの時にだけ甘えたりすると結構可愛い感じになりそうだけれど」

「二人の時のひなちゃん結構可愛いよ。甘えたりしてくるし」

 ゆりちゃん、そういうことは言う人を選んでくださいな。

「へぇー、私も見てみたいなぁ、甘える比奈理ちゃんのこと」

「見せないし、甘えたりしてないし。遥はいいからその笑顔やめろ」

 あとえりさ、笑ってるだけじゃなくて遥をちゃんと制御してください。保護者でしょあなた。

「でもさ、比奈理ってたまに何考えてるか分かんないし、二人の時くらい本当の姿を見せてもらいたいって思うけれどなぁ」

「その理屈はごもっともだが、遥に甘えることは絶対にないから安心して」

 私が甘えるとすればゆりちゃんだし、まぁ姉にくらいならぎりぎり甘えてもいい。というわけで遥に甘えることなど絶対にないと言い切れる。

「えー、もっと甘えてくれてもいいんだよ? えりさなんてもういつもいつも、毎日毎日甘えてくるんだから」

「そういう事は言わなくていいの!」

「いやいやー、あの可愛いえりさはみんなと共有したいっていうか、見せてあげたいなって思うんだよ」

「……遥だから見せるんだって」

 ぼそっと、遥にだけ聞こえるように言ったようですが、えりささん、残念ながらこっちにも聞こえてますよ。

「そうそう、好きな人にだけ見せるからいいんだよね、そういう姿は」

「ゆりちゃん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけれど、今この場で言う事じゃないよね」

 言うべき場所が場所であれば、私もゆりちゃんを全力で抱きしめてあげるのだけれど、この場ではちょっと遠慮しますね。

「あれー、おっかしいなぁ、比奈理ちゃんは私と二人きりになっても甘えてくれないのに、百合子ちゃんと二人きりだと甘えちゃうんだぁ、妬けちゃうなぁ」

「お前はえりさに甘えてもらってるんだからそれで我慢しておけ」

「うーん、えりさの甘えた姿も可愛いけれど、やっぱり比奈理ちゃんにも甘えられたいなぁ」

 そういう事は言わんでいい。ほら、後ろでえりさが不満全開って表情してますよ。

 まぁ、遥の性格的にはこうしてえりさに嫉妬させてるんだろうけれど。

「ダメだよ、ひなちゃんは私にしか甘えないって言ってたから」

「あらあら、いいこと聞いちゃったなぁ」

「言ってないし、ゆりちゃんもあることないこと言わないの」

 遥を助長させてもいい事なんてないんだから。

「……みなさん、あれだけ歩いたのに元気ですね」

 繭染さん、遥に元気じゃない時なんてないんだよ?

 それに、繭染さんはバスも苦手で酔っている状態だから、余計遥が元気に見えるのかも。

「まだまだ歩き足りないくらいだったけれどね」

 みんなの事もちゃんと考えて歩き回ってくださいね、本当に。




 そんなこんなで、バスで今夜泊まるホテルへと到着した私たちは部屋割りをどうするかを話し合った。

 昨日の部屋割りは事前に決めていたけれど、今夜の宿はその場で決めて付き添いの先生に申請をするというものになっているので、どこの班も意外と決めかねているらしい。

 かくいう私たちも少しばかり厄介な事になっている。

「私は遥と一緒なら部屋はどんなでもいいですけれど、昨日百合子ちゃんと比奈理ちゃんは二人部屋だったんですから、今度は私たちが二人部屋でもいいんじゃないですか?」

 とはえりさの弁だが、その言い方だと繭染さんが邪魔者みたいに聞こえるので、もうちょっとマイルドにしましょうね。

「私はそれでもいいけれど……」

 ゆりちゃんや繭染さんがどうかが問題である。

 この二人を一緒の部屋にして大丈夫なのだろうか、何か起きないかが心配でたまらない。

 しかし、ゆりちゃんは笑顔で言った。

「私はそれでもいいよ。繭染さんと話をしたいこともあるし」

 話か。多分その話には私も参加しないといけないんだろうなぁ。ちょっとだけ気が乗らない。

「私も、別に誰と一緒がいいとかはないし」

「繭染さんもこう言ってるわけだし、部屋割りは私と遥の二人と、百合子ちゃん、比奈理ちゃん、繭染さんってことでいい?」

「いいよ」

「異議なーし」

 と、全員の同意を得られたところで、私たちは荷物を持ち、先生に部屋割りを申請してから、今夜の部屋へと向かったのだった。

 そして、今夜はきっと昨日以上に眠れない、長い長い夜になるのだろうと、私は感じていた。



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