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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
春の章
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第四十七話「楽しい食事の時」



 なんとなくだが、旅行というものはこうも非日常的な気分に浸れるのかと、今更ながらに感心していた。

 お腹が満たされたからか、少しばかりの理性が私の中に戻ってきた。その時思ったのが、やっぱり食事前のゲームはやり過ぎだろうということだった。

 旅行中だったとはいえ、やはりあれはちょっと行き過ぎた行為だったのには変わりない。みんなが了承していたとしても、するべき行為では無かったはずだ。

 しかし、そう考えているのは私だけらしく、遥辺りはまた明日にでも第二回を開催したいとか言い出している。しかも私たちだけじゃなくてクラスの子も何人か加えて。頭おかしいと思われるくらいならまだ良い方。まず間違いなく病院を紹介されてしまう。

 というわけで、私は第二回の開催を断固拒否したおかげか、遥はそれ以上ゲームの話題から遠ざかった。

「でもやっぱりさ、何か罰ゲームとかないと、ただ遊んでもつまらないじゃない」

「遥の考える罰はエロに全振りだからいけないんだよ。考えればもっと色々あるだろ、罰なんて」

 私の反論に遥は納得がいかないようで、うーんと首をひねりながら口を開いた。

「でもさ、エロの方が盛り上がらない?」

「安易なエロで場を盛り上げようとするな」

「私常時エロい事しか考えてないから、それ以外って言われると弱いんだよね」

 こいつ、真面目に考えることを放棄しやがった。

「他の人の目がある場所で万年発情期宣言やめろ」

「なに、私たちだけならいいの?」

「私たちは既に知ってるから、今更すぎる」

 ほんと今更。自分が今までどういう立ち位置だったかを知らないみたいな言い方だったのもちょっとむかつく。本当は全部知っていて言ってるくせに。遥だけはどれだけ長い付き合いになったとしても、考えていることが分からなさそう。

 多分、理解をされたくないっていうスタンスでいるからだろうけれど。その辺りは多少私と似通っていなくもない。そのせいで中途半端に理解しあっているから、反発するし、受け入れられないことも多い。

 まったくもって複雑で厄介な友人を持ってしまった。

「にしても、人少ないね」

「まぁ、私たちのグループが最後だし、私たち来るの意外と遅かったしね」

 見渡せば大きな食堂には私たちを含めても十数名ほどしかいなかった。従業員も既に一人か二人程度がいるくらいで、忙しない空気はなかった。

「でもさ、満員のぎゅうぎゅう詰めの中食べるのも嫌じゃない? 私はこのくらい空いている方がいいな。やっぱり食事は落ち着いてとりたいし」

 私も繭染さんに同意だった。人混みが嫌いだからか、人がたくさんいる場所での食事も私はあまり好きではない。だからこのくらいの人数での食事が一番落ち着くのだ。まぁ一番落ち着くのは一人での食事なのだが、それをゆりちゃんの前で言うと拗ねるので、今は言わないでおく。

「食後のデザートも揃っているのがいいよね」

「遥はむしろデザートしか目に入ってないよね」

 えりさの言う通りである。

 バイキング形式の夕食をいいことに、遥は自分の皿に食事を乗せることはせずに、ケーキばかりを取ってきたのだった。

「遥、太るぞ」

「私、いくら食べても太らないし」

 いろんな人を敵に回す発言は控えてもらいたいですね。ほら、ちょっと隣の子たちが睨んでるから。

「遥は食べても太らないっていうよりも、食べた分だけ運動するからね」

「そうそう、夜とか結構動くし」

 夜にランニングしてるとかですよね? そうじゃなかったらちょっとあれなんだけれど。

「まぁそういうの抜きにしても、食事がケーキだけっていうのはちょっとやばいかもしれないですね」

「そうね、栄養とか偏るし、虫歯とかもなりやすそう」

「いやいや、いつもこんな感じの食事ってわけじゃないから。それに今は旅行中だよ? 普段出来ない事をしてこそだと、私は思うのよ」

 確かに普段からケーキしか食べないってわけじゃないだろうし、旅行中は普段出来ない事をしたいと言うのは分かる。

 しかしこうも近くでケーキばっかり食われると、本人よりもこっちが胃もたれとか胸やけしそうになるからやめてほしい。

「ま、本人が良いっていうなら、私はもう何も言わないけれどね」

 言っても無駄だろうし。それに遥のお守りは私の管轄ではなくえりさの管轄だから。

「ところでゆりちゃん。さっきからずっと黙々とご飯を食べていらっしゃるのですが、何か不満でも?」

「……何でもないよ」

 怒ってらっしゃる? いやこれは怒ってるっていうよりも、なんか考えてる?

 その悩み事は私には言えない事? それとも、この場では言えないってだけ?

 だめだめ、考えるだけこれは無駄なことだ。焦っても答えは出ないし、仮に出した答えで安堵することも無駄の極みであろう。

 そう、私は考え過ぎなのだ。ずっとずっと考えて生きてきたから、他人の行動一つひとつに意味を持たせようとし過ぎてしまう。それは決して悪いことではないだろうが、過ぎれば自身で自身を縛ることになる。

 既に雁字搦めで身動き出来ないのに、これ以上自分を縛ることはないだろうに。

 でも、そうしていなければ私は前を向けなかった。

 何となくで流せない。どうでもいいで済ませられない。だからずっと悩んで苦しんで、もがいてあがいている。忘れないように、覚えていられるように。

 そうしていつまでも、私は前だけ向いて、しかし歩むことはせず、ひたすらにその場で立ち尽くす。みんなが前へ進んでいく中で、その背中を送り続けている。

 これが、私の在り方で、それが私の関わり方だから。

 って、またこうして考えて、思考を巡らせているのだから手に負えない。

「ゆりちゃん、その量で足りるの?」

 別に少ないってわけではない量だったが、しかし今日の運動量からすると物足りなさはある。

「足りなければまた取りに行けばいいだけだし、それに食べられるか分からない量を取るのは申し訳ない気がして」

 そうだね、それを是非とも誰かさんに聞かせてあげたい。

 でもまぁ、そうだな。取りに行く回数が決まっているわけでは無いし、足りなければ足せばいい。

 足りなければ足せばいい。食べられるだけの量を持ってくる。

 不思議と、それはゆりちゃんの在り方と似通っている気がしないでもない。

 自分に足りないものは他者で埋める。自分で背負っていけるだけの悩みを持って、他は切り捨てる。

 私とは違った在り方で、でも私とどこか似ている在り方で。だからこそ求め合って、惹かれ合って、繋がり合っている。

 それが心地よくて、つい忘れてしまいそうになる。

 自分が一体、何を犠牲にして、何の上に立っているのかを。

「……みなさん、結構おしゃべりしてて食事進んでないですけれど、あと少しで時間終わりますよ?」

「え?」

 繭染さんで私は時計に目をやると、あと少しで食堂の終了時間であった。

「あー、これは話してる場合じゃなかったね」

「そうだね。今はご飯に集中しようか」

 話なんて、部屋に戻ればいくらでも出来るのだから。



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