第四十六話「夜のゲーム大会・後編」
ゲームも一段落し、皆一様にうっすらと汗をかいてしまったので、丁度いいとホテルの大浴場に来ていた。
思えば随分と大胆な事をしていた気がする。私はゆったりと一人で髪や身体を洗いながらも、先ほどのゲームの事を思い出していた。
「よし、私の勝ちね。それじゃ無難に一番と三番がキス。もちろんベロチューね」
何がもちろんだよと思ったが、命令は絶対である。遥が出した命令で動いたのは繭染さんと私である。
最初の命令ということもあってか、遥は抑え気味の命令を出したと思うが、しかしあれだ。ゆりちゃん以外の子とキスとかちょっと……っと思っていたのに、当のゆりちゃんはそれを意にも介さず「頑張ってー」なんて言ってた。キスで何を頑張るのかは知らないが、ゆりちゃんから頑張れと言われてしまえば頑張るしかない。
「とびっきり濃厚なやつね」
遥、後でぶっ飛ばしてやろう。
「今度は私の勝ちね。次はちょっとハードルを上げて貝合わせで」
「それはダメだろ」
えりささん? 最近遥に影響されて思考回路変になってません? 今自分が言った言葉の意味をちゃんと理解しています?
「二番と五番ね」
聞いてましたか? 私今ダメだろって言ったんですが聞いてましたか? この様子だと聞いていませんね。というか五番って私じゃん!? さっきも私だったし、何か仕掛けられてます?
「よ、よろしく……ね」
ほんとこいつら頭大丈夫かと思っていた時、その声が聞こえた。よく聞いている、私の好きな声。そう、ゆりちゃんの声だった。
「あ、うん」
これがもしゆりちゃん以外だったら全力で拒否していたのだが、ゆりちゃんだったから許した。
「五分くらいやっといてね。その間に次の準備しておくから」
それって命令の意味ある?
「私の勝ちだ! やったね!」
今度は繭染さんか。さっきみたく遥ばかりが勝つこともないし、結構みんな本気でやっているのかもしれない。まぁそうだろう、負ければ恥辱決定だし。
「それじゃ一番と三番で……ベロチューしながらおっぱい揉むとか?」
なぜに疑問形? まぁいい。さっきよりかはいくらかハードルも下がってるし。というか何なの本当に。また私がやることになってるんだけれど。これ絶対何か仕掛けられてるって。
「わったし一番! で、三番誰? まさか比奈理とか言わないよね?」
「言っちゃうんだよね。まさかの三番なんだよね」
「えー! せっかくみんなの豊満ボディ堪能できるって思ったのに!」
ごめんね慎ましくて。
「今度は私の勝ちだね」
珍しく、と言ったら悪いだろうが今度はゆりちゃんが勝った。ゆりちゃんならばあれな命令出さないだろうし、安心だな。
「じゃあ五番と二番で、胸の揉み合いしながら、具体的に感想を述べるってことで」
ハードル低そうに見えてめっちゃ高くないですかそれ。相手の胸揉んで「柔らかい」とか言うのって結構恥ずかしいですよ。
「二番私だけど、五番誰?」
えりさがそう言ってカードを見せる。
「もしかして、いやもしかしなくても……比奈理だったり?」
遥、残念だな。
私は無言でみんなの前にカードを出すと、えりさの隣へと移動した。
「もしかしなくても、私だったよ」
まぁ大体こんな事が一人一回程度には回ってきていた。私だけ命令フルコンプである。王様に忠実すぎて私の忠臣度爆上がりなんですが。
それにしても、である。
異性の目がない空間って、ああも皆大胆になるんだなぁと思ってしまう。特に二回目の命令なんて酷い。あれ私とゆりちゃんっていう組み合わせじゃなかったらと思うと、ぞっとしない。もっと命令考えてくださいよホント。
「お隣いいですか?」
「ん」
身体を入念に洗っていた私の隣に、ゆりちゃんが来た。さっきと状況が異なるとはいえ、二人で裸の付き合いである。
「さっきはすごかったね」
「すごいで済ませられるものじゃなかったけれどね」
これで毛を剃るとかって命令もあったら完璧頭のおかしい集団になっていたんだから、すごかったというより恐ろしかった。
「でも結局ひなちゃん王様になれなかったね」
「そうだね。不思議だ」
ボードゲームに限らず、自分はトランプゲームとかも弱いとは思っていなかったけれど、でもさっきの四人は異常に強かった。というかちょっと本気過ぎて怖かった。
しかし、私がやらなかった場合ゆりちゃんがあの行為をする可能性があると考えると、私がやった意味があるというものだ。ゆりちゃんが他の子とあんな事しているのを目の前で見させられるなんて、冗談でもきつい。
その点ゆりちゃんはどう思っていらっしゃるのか、ちょっと興味あります。
「あのさ」
「なに? さっきのこと? 大丈夫、怒ってないよ。だってゲームだし、ひなちゃんがやりたくてやってたわけじゃないのは分かってるし。なら私が怒る理由はないよ」
「……まぁそうなんだけれど、その、ゆりちゃんの前であんなこと」
「あんなことって、まぁあんなことだけれど、でもいいの。私が気にしてないって言ってるんだから、ひなちゃんも気にしないで。でももし気になるなら」
そこで言葉を区切ると、ゆりちゃんはほんの少しだけ私の方へと近寄ると、そっと耳元で呟いた。
「今夜、期待してるね」
よし、期待して待っているがいい。




