第四十三話「彼女と彼女の事情」
私たちが部屋を出たのは、集合時間ぎりぎりの時刻だった。
時間が足りなかったので多少話が省略されていたにも関わらず、ゆりちゃんが言うにはまだまだ話したりないらしい。
しっかりと鍵を持ってロビーへと向かうと、既にほとんどの生徒が集まっていた。来ていない生徒はあと数人というところだろうか。周りを見れば、見知った顔がいないことに気付いた。
「えりさ達がまだ来てないのか……」
あれだけ私たちに遅刻するなと言っておいて、自分たちが遅刻するなんてほんとなんて言ってやろうか。いや、集合時間まではまだ数分残っているから、遅刻とは言えないか。しかし行動には余裕をもてといつも言っているだろうに。
「それじゃ点呼するよ」
もうそろそろ時間ということで先生が生徒たちを集め出した。遥もえりさも繭染さんも、点呼に間に合わなかったらどうなるか知っているだろう。連帯責任もあるし、さっさと来てくれ。
「ごめんごめん、遅れちゃった」
点呼開始直後に遥たちはやってきた。時間からしてみれば集合時間ジャストだが、五分前や十分前に集合しておくのは基本だろうに。
「でも時間ジャストでしょ」
そうだね。珍しくジャスト、一秒単位でも遅れることなく集合したね。ある意味すごいです。遅れたらネチネチ文句言ってやろうと思ったのに。
「点呼の順番が遅めだったから良かったけれど、これ最初だったら終わってましたね」
「まぁまぁ、無事に全員集合出来たんだから良しとしようじゃないか」
「その言葉は私たちが言うべきだと思うのだけれど、違うかな遥」
「五十歩百歩だろ」
それはそうだが。まぁいい。実際には遅刻しなかったんだし、お咎めはなかったのだから。
「で、これってどこ行くの?」
しおりくらい読んでおいてくれよ、全く。
バスに揺られて着いたのは沖縄県平和祈念資料館だった。
曇り空だからだろうか、どこか寂しい雰囲気が流れている場所に思えた。お昼頃よりもいっそう風が強いのは海に近いからだろうか。しかし寒くはなく、むしろ心地よいほどだった。
ガイドさんの説明を受けつつ館内や野外の石碑を見学している私たちの半分かそれ以上が退屈に感じているだろう。まぁ知識だけだけれど沖縄の歴史は習っているし、今更同じことを教わってもとは思うが、しかし実地で現物を見ながらだと結構面白いと感じれる。不思議だ。
後半は自由に見学ということで私はゆりちゃんと一緒に館内を見て回った。決して面白いとは言えない内容ではあったけれど、こういう事を含めて修学旅行なのだから文句はない。というかゆりちゃんと一緒であればそんなことは些末である。
「さすがに全部を見て回る時間はないかな」
館内や資料館周辺を見て回ろうとすればそれなりの時間になってしまうから、確かに無理だろう。だから館内だけでもとゆりちゃんは隅々まで見るようだ。こういう施設は学校の授業などでないと来る機会はほとんどないから、この機会を逃したくはないのだろう。ゆりちゃんはそれほど勉学に励んでいるわけでも、沖縄の歴史に興味があるわけでもないが、得られる知識は十全に得るように努力しているらしい。いつ役に立つかは分からないけれど、その時に知識が不十分ではいけないからだと言うが、私はその行為は欠けたものを埋める行為だと考えている。
「こういう資料館はみんなやっぱり退屈なのかな」
周りを見れば普段の歩調で話しながら上辺だけを見て回るような生徒が多く、しっかりじっくりと見ているのはゆりちゃんくらいのものだった。
「退屈ではあるだろうね。年頃の女の子なんだから、歴史よりも知りたいことは山ほどあるだろうし」
「私たちも一応年頃の女の子だよ、ひなちゃん」
そうなんだよな、不思議なことに。いつものメンバーだったら意外と話が合うんだけれど、あんまりかかわったことのない子と話すと途端に話題についていけなくなったりするんだよね。だからたまに私が年頃の女の子だってことを忘れそうになる。ついでに学校に通う理由も分からないから誰かに教えてほしい。
「……実際の資料とかを見る経験なんてあんまりないから、私は意外と楽しいけれど」
「ひなちゃんって意外とこういうの好きだもんね」
まぁたまに変な本を読んでたりするし、建築物価とか積算資料とか。
「それを抜きにしてもこういうのを見るのは楽しいもんだよ。というかゆりちゃんがいれば何でもどこでも楽しいよ」
「またまた、じゃあ今度京都で神社巡りとかする?」
「それは普通に楽しいと思うんだけれど」
神社巡りが退屈だと思われる主な理由は自分が見たい場所ではない場所に連れていかれるからだと思う。自分でコース考えて回る分には結構面白いぞ神社。
「んふふ、その時は二人きりで行こうね」
ゆりちゃんが楽しそうで何よりである。
「それで、時間いっぱいまで海眺めてたと」
私とゆりちゃんが真面目に施設を見学していた間、三人は何をしていたかと問うと遥は施設周辺をとりあえず歩いていて、えりさはそんな遥が心配だったので付いて行って、繭染さんはずっと海を眺めていたらしい。なんて贅沢な時間の使い方をしているのだ、この三人は。繭染さんに至っては多分ほとんど動いていないんじゃないか。
「結構きれいなんですよね、地元の海と比べると」
そうだろうな。地元の海も夏場はそれなりの人気スポットではあるが、海の透明度なんかは劣るだろう。
「入ってみたいですね」
「入れるのか? この時期の海」
「結構気温高いしいけるんじゃない」
なんでみんな入る気満々なの? 私嫌だよ旅行中熱とか風邪引いてお荷物状態になるの。あと看病とかも。
「ちょっと興味あるよね、この時期の海」
「……入るにしても、風邪引かない程度にしておいてよ」
なんて注意も遥には聞こえていないんだろうな。
「いつ入りに行く?」
ほら、私の注意なんて聞こえていないどころか、既にえりさといつ海に行くかの話してるし。
「まぁまぁ、パラセーリングとかしたいって言ってるわけじゃないので良い方じゃないですか」
するって言ったら全力で止めるわ、そんなもん。
それにしても、繭染さんもゆりちゃんも結構普通にしているというか、あんまりお互いのことを気にしていないように見える。いやゆりちゃんの方は本当に気にしていないとさっき分かったが、しかし繭染さんの方はどうだろうか。多分気にしていないという態度をあえて見せていると、私は思っている。
ゆりちゃんに言われた通り、今回ばかりは私も口出しや手出しをするつもりはない。これはきっとゆりちゃんと繭染さんの二人で解決するべき問題であり、二人だけが解決できる問題なのだから。
「それで、次の見学先は?」
お前ら本当にこの資料館に興味なさすぎだろ。




