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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
閑章・年末
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閑話十六「わたしというこころ・後編」



 喫茶店を出た後は、私たちは多少の買い物をしてひなちゃんの家へと帰ってきた。

 日が傾いてきたからか、帰り道はさらに寒くて私のテンションも少しだけ落ちてしまった。

 それはそうと。

 私の恋人であるひなちゃんは一定以上の寒さになると人との距離が近くなり、果てには無意識に相手の腕に抱き着いたりしてしまう女の子らしい。夏とかは暑くてたまらないのだが、冬の季節はこの癖がありがたいと感じる。

 私以外の女の子にもこういう風にしているとは思えないが、ひなちゃんのことである、油断はできない。

「寝るとき用のブラがあるけれどさ、あれってどうなの」

 今は温かい部屋の中で、温かい飲み物を飲みながら雑談に花を咲かせていた。やはり文明は偉大であった。

「どうなのって、なにが?」

「いやだから、使用感とか、付けたらどう違うのかとか」

「うーん、どうなんだろうね。私もそういうのは付けたことないし」

「じゃあ今度一緒に買いに行く?」

「うん、行ってみようか」

 いつものようにいつものごとく、中身があるのかないのか分からない話を続けていると、それは突然現れた。

「お姉ちゃんですよー!」

「どうぞお帰りください」

 ノックもなしに入ってきたひなちゃんのお姉さんは、なおも冷静なひなちゃんによって再び廊下へと追い出されてしまう。

「いいの?」

「いいのいいの。まったく空気も何もあったもんじゃないよね」

 確かに、いきなり部屋に入られたのでは、こちらも油断が出来ない。つまりはあんまりくっ付いてると非常に危険ということだ。

「いいじゃないお姉ちゃんも混ぜてよ」

「お姉ちゃんは大学のお友達とよろしくやってください」

「つい最近よろしくやったから、今度は比奈とよろしくしたいの!」

 相変わらず妹が大好きなお姉さんである。

 多少間違った愛情表現ではあるが、それでも家族仲がいいというのはいいことだ。

 家族……ねぇ。

 私の家族もそれなりに仲がいいとは思う。

 父は仕事が忙しく、中々一緒の時間を過ごすことが出来ないが、それでもたまの休日には遠出をして、暇さえあれば私と遊んでくれた。らしい。

 対して母はどうだったか。こうなる前のことは知ることはなくなってしまったかもしれないが、私がこうなってしまった後も見捨てずに不自由なく生活をさせてもらっていた。

 けれど、強いて不満な点をあげるとすれば、時折私を着せ替え人形か何かのように扱うことだろう。

 母の仕事に関して私が知っていることは少ないが、どうやらファッション関係らしく、私はよくその関連のお店に行ったり、洋服を着せられたりしていた。

 あまりファッションには気を使わない私を思ってか知らないけれど、しかしもう高校生である。自分で着る服は自分で選ぶし、自分に似合う服くらいは自分で理解しているつもり。だから、たまに母が送ってくる洋服は私の部屋のクローゼットの中で着られる日を今か今かと待つだけの、無用の長物になってしまっている。

 嫌いではないのだ。でもたまにそれが煩わしいと感じてしまう。それに対して私はどこか罪悪感を抱かずにはいられない。

 やっぱりはっきりと言うべきだろうか。

「ね? 百合子ちゃんも私にいてほしいよね?」

「いやいやいや、何をバカなことを言ってるんですかねこの姉は。ゆりちゃんは、私と二人きりがいいに決まってるでしょ。ね、ゆりちゃん」

 私が家族について考えていると、どういうわけか矛先が私に向いていた。

 こういう時はどうすればいいのだろう。

 私自身はどうでもいいと思うのだが、しかしここでお姉さんを追い出すのに成功しても、そのあとずっと部屋の扉付近をうろうろしたり、夕飯時などにひなちゃんがグチグチと文句を言われることになってしまうのでは。

 そう思った私は少しばかりの弱った笑みで「いいんじゃない、お姉さんがいても」と発言する。

「ほら! やっぱり百合子ちゃんは分かってるね! 二人きりじゃつまらないから、私にいてほしいって!」

 そこまでは言っていない。

「いやいや、ゆりちゃんはただこの後面倒なことになるから、今は仲間に入れてあげようって考えたんだよきっと」

 あら、ひなちゃんはちゃんと理解していてちょっとだけ嬉しかったり。

「それで、なにする? やっぱり比奈の下着使って真剣衰弱?」

「誰が喜ぶんだよそんな遊び……」

 確かに。それはお姉さんだけが楽しい遊びだと思うの。

「じゃあ何、三人でボードゲームでもするっていうの?」

「それがいいと思うよ。というか無難」

 ここ何日か泊まっているからか、室内での遊びもやり尽した感があったけれど、それでもひなちゃんと一緒ならばそれなりに楽しいのだ。

 なので、私はそれでもかまわない。

 が、お姉さんは納得がいっていないご様子。

「でもさ、もう大体遊びつくしたんじゃない? それだったらもうちょっと変わった遊びをしてもいいと思うの」

「ふぅん。何かいい案があるようだね、言ってごらん」

 度々この姉妹は立場が入れ替わったりするから面白い。いや違うか、ひなちゃんがどうしても妹という感じではないのだ。なんというか、頼もしいというか。

 まぁ、この姉とずっと暮らしているのだ、しっかり者になってしまうのも頷ける。

「私がこの度ご提案するのは、『利きおっぱい』です!」

 …………一瞬何を言っているのか分からず、私は言葉を失ってしまう。ひなちゃんも同様に、理解が追い付かず動きが固まってしまう。

 ひなちゃんは沈黙した部屋の空気を入れ替えるように一つ咳をすると、呆れたような声で対応する。

「また何を言いだすかと思えば、下らないことをこうもぽんぽんと考え付くのはちょっとだけ尊敬するよ」

「そんなに褒めてもなにも出ないぞ」

「褒めてないから。呆れてるから」

 でもちょっとだけ面白そうだと思った私がいたりして。

「まぁまぁ、合法的にお姉ちゃんのおっぱいに触れられるチャンスだよ」

「お姉ちゃんが私のに触りたいだけだよね、それ」

 ということは、私がひなちゃん以外の胸に触れられる機会でもあるという事か。それはいいかもしれない。

「一回だけ。一回だけでいいからさ、やってみようよ。そうしたら絶対にはまるから!」

「うんそうだね。やるだけやってみようよひなちゃん」

「ゆりちゃんまで…………まぁいいけれどさ」

「やったー! 合法妹おっぱいだ!」

 なんだかんだで互いが好きあっていて、相手のことを尊重し合える関係性なのだろう。

 羨ましいとは思わない。けれど、やはり私がそれを無意識に欲しているということは明白だ。

 だから、私は私という心を、自身の在り方を、いつまでも願うのだろう。

 ひなちゃんと共に。



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