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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
閑章・年末
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閑話十「祭りの後の私と彼女・前編」



 この時期は人肌が恋しくなる。

 それは誰しもが同じなのか、冬の時期はほとんど毎日のように姉がベッドに侵入してくるのだが、今年は違った。

 傍らには、ゆりちゃんの寝顔。

 やっぱりいいなぁ、これ。

 寝る前も起きた後もゆりちゃんが近くにいる。

 こんな日が一週間ほど続くんだと思うと、興奮で眠りが浅くなるのは当然ではないでしょうか。

 時計を見ればまだ五時ちょっと過ぎ。太陽も顔を出していない。

 二度寝をしようかとも考えたが、いかんせん頭がすっきりしすぎてとても寝れそうにない。

 仕方ない。起きるか。

 私はゆりちゃんを起こさないように布団から抜け出すと、ダイニングに向かう。

 時間もあるので、ゆりちゃんと一緒に食べる朝食でも作っておこう。

 そう思ったのだが、私の前に起きている人がいたらしい。ダイニングから光が漏れている。こんな時間に起きているなんて、誰だろう。

 私はなるべく静かにダイニングのドアを開けると、そこには生気が失せたような表情の姉が椅子に座っていた。もしかして、昨日からあの状態なのか? 私からのプレゼントが貰えなかったから、ここで絶望に暮れていたのか?

 だったら悪いことをしたなと、一瞬思ったが、どうやら違うらしい。近づくと何か呟いていたので、耳を澄ませて聞いてみると「誰あの子……そこは私の場所、なのに……」とか言っていた。

 この人、昨夜も忍び込もうとして私がゆりちゃんと一緒に寝ていたからショックを受けたらしい。

 ゆりちゃんが泊まっていることは姉も承知していたし、恋人だと知っている。けれど寝るときはまだ別々だと思っていたようだ。

 なんと甘い考え方だろう。

 すでに私たちは一年以上付き合っているのだから、今更お泊りの時に別々の布団で寝るなんてことはないだろうに。

 それともあれか、姉は自分以外の人間が私の隣で寝るなんてことを考えもしなかったのか。ずっと昔からそこが自分の定位置であって、誰かに奪われる心配はなかったから、今回も油断しきっていた。

 そこにこの事実である。

 まぁ、確かにへこんでしまう気持ちは分からなくもない。

 簡単に言えばずっと親友だと思ってた子が、ちょっと目を離した隙に別の親友を作ってしまって、自分が戻ってきたときには既に自分の居場所がなくなっていたんだから。そりゃへこみもする。

 しかし、しかしだ。

 別に私は姉に同じベッドで同じ布団で寝ていいなんて一言も言ってないし、むしろ毎回抱き枕状態になるのでやめてほしいと抗議していたくらいだ。私としては喜ばしいことである。

 ああ、でもなぁ。

 目の前でこうも分かりやすくへこまれてしまうと、ちょっと罪悪感が芽生えてしまう。

「あー……おはよう、お姉ちゃん。今日は起きるの早いんだね」

 そんな姉に私はいつもと変わらぬ口調で話しかけたが、反応がない。

「お姉ちゃん?」

 まさか目を開けたまま寝ているなんてことはないよね。

 そう思って私はもう少し姉に近づいてみたが、それが命取りだった。

「とぉう!!」

「うわっ! なにするの!」

 抱き着かれ、ダイニングの冷たい床に倒れこんでしまう。

 私のあるかないか分からないくらいささやかな胸に、姉が顔をうずませている。ぐりぐりしないでいただきたい。

「比奈。あの子と一緒に寝るのもいいけれど、同時にお姉ちゃんとも一緒に寝てくれないと、お姉ちゃんは不眠で死んでしまいます」

 どんだけだよ。私のこと好きすぎるだろ。

「それがだめなら一日穿いたパンツを毎日献上しなさい」

「それは勘弁」

 毎日私の使用済みのショーツを抱きしめながら眠る姉なんて、想像するだけで恐ろしい。

 いや、それに近いっていうか、それ以上に恐ろしい行為をしているのだけれどね。まぁそれとこれとは話が別だし。少なからず私も同じようなことをゆりちゃんにしたりしているので、あんまり強くは言えない。

「ねぇ比奈」

「なに?」

「……おめでとう」

「何に対してか分からないけれど、ありがとう」

 本当はその意味を分かっていたけれど、恥ずかしかったのでごまかした。

 私のほうこそありがとう、お姉ちゃん。

 こんなことを言ったら調子乗って今以上にべたべたとしてくるから、言わないけれど。


 姉もお腹がすいているというので、三人分の朝食を作る。

 両親の分も作ろうかと思ったけれど、どうやら今年は昨日まで働き詰めだったらしく、お昼近くまで起きてこないと思うと姉が言っていたので、作らないでおく。お昼は起きてくると思うから、用意しておいてあげよう。

「ところで比奈」

「なに」

「ゆりちゃんとは、どこまでいったの?」

「……」

 こんなことを訊いてくる姉だから慰めるの嫌だし優しくしたくなくなるんだよ。

「ねぇねぇどこまでしたの? お姉ちゃんとしたようなこともしたの?」

「誤解を招きかねない発言はよしていただきたいのですが。お姉ちゃんとは一切そういった関係ではないですし、ゆりちゃんとはお姉ちゃんが思っているよりも進んでます」

「じゃお姉ちゃんとも同じこと、しよ?」

「するわけないでしょ……」

 これ以上関係が進んだら姉妹じゃなくなってしまう可能性があるし。それにそこそこ同じことをしてるから大体叶っちゃってるんだよね。

「じゃあじゃあ、今日はお姉ちゃんと一緒にお風呂入ろうね」

「先約があるので無理です」

「お姉ちゃんも、一緒に入るね」

 ダメって言っても入ってくるんだろうな、これは。

 まぁいい。この程度の妨害が入ることは想定内だし、この程度の妨害では私とゆりちゃんの仲はすでに揺るがないほど深く強くなっているのだ。

 だから、せっかくの二人きりになれるチャンスを奪われても、別に気にしてない。

 気にしてないから……。



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