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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
冬の章
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第三十五話「予想外のプレゼント」



 さなえの家でのクリスマスパーティは、いまのところ滞りなく進んでいて、ついにプレゼント交換の時間となった。

 それぞれが持ち寄ったプレゼントを進行役たちが集め、一つひとつに番号を振る。それが終わると今度はプレゼントと同じ枚数のカードが入った箱から、順番にカードを引いて、そこに書かれていた番号と同じ番号のプレゼントをもらえるという仕組みらしい。

「じゃ、番号振り分け終わったので、これから順番に並んでいただいて、カードを引いてもらいまーす」

 やる気がなさそうで、意外と率先して動いているさなえが会場全体に聞こえるように言うと、のろのろと散らばっていた人たちが集まってくる。

 さなえを先頭にして二列になった集団の中に、私とゆりちゃんも混ざる。夕莉とせいちゃんも私たちのちょっと後方で並んでいるのが見えた。

 あの後せいちゃんが食べ物に夢中になってしまったので、今回は自己紹介だけということで夕莉はその場を後にした。

 私自身は別にどうこう思っていたわけではないが、今日の夕莉の態度はどこかおかしかった。というよりも、私に対して遠慮があるというか、よそよそしいというか。なんだか、怒られる前の子供みたいだと、思ってしまった。

 そんな態度が、私を苛立たせていたのだろう。

 言いたいことがあるのであれば、はっきりと言えばいいのに。いつもの夕莉であれば、相手のことなど気にせずすっぱりと思っていたことをすぐに言ったのに。

 私に何を遠慮しているのだろう。

 私に対してよそよそしくする理由はなんだろう。

 考えても考えても、答えは私の中に用意されていなかったようで、余計に苛立つだけだった。

「ひなちゃん? どうかしたの?」

「なんでもないよ」

 その苛立ちが出てしまっていたのだろうか、隣にいたゆりちゃんは私の顔を覗き込んでくる。

「そう? なんかいらいらしてる感じだったけど」

 仮にも一年以上付き合っているからか、私が何を思っているかなんて、表情ひとつで簡単にわかってしまうらしい。

「ううん、ほんとになんでもないよ。ちょっとゆりちゃん可愛いなって思ってただけ」

「嘘が下手くそだね。ひなちゃんは」

 私が苛立ってるのを知りつつあえて深くは追及してこないあたり、ゆりちゃんは本当に私の扱いがわかってきたようだ。

「ほら、そろそろ私たちの番だよ」

 私たちは列の真ん中あたりにいたので、まだまだたくさんのプレゼントが残っていたが、プレゼントの大半は持ち帰るのが大変そうなくらいの大きさだった。あれが当たったらいやだな。

「はーい、それじゃ次の人ー」

 なんだかつまらなそうに箱を持ちながら、機械的に言葉を発するさなえ。やる気あるのかないのかわからないなこいつ。

「面倒なのも分かるけど、やる気ある振りくらいはしておけよ」

「無理。もう面倒。最初から嫌だったけど今はもっと嫌になってる。もう無理、帰りたい」

 最初からずっとあいさつ回りやら何やらで気の休む暇がなかったのだろう。さなえはちょっと見ないうちにだいぶ疲れた表情になっていた。これを見越してさなえは私たちを招待したのかもしれない。友人を呼んだとはいえ、それは家ありきのつながりが多いはずだ。純粋にさなえの友達ということで言えば、ここにいる大半はそれに当てはまらない人たちなのかもしれない。それは面倒になるわけだ。

「まぁ、あとでゆっくりと話聞いてあげるから、もうちょっと我慢しな」

「ありがと、比奈理を呼んで正解だったよ」

 さなえにうまく使われるのは嫌だっただが、話を聞くくらいであれば、まぁいいか。

 私もいろいろと話したいことがあるからね。



「ひなちゃん何番?」

「十七。ゆりちゃんは?」

「一番」

 それぞれカードを引いた私とゆりちゃんは、プレゼント交換係の前で互いの番号を確認していた。

「十七番と一番ですね。ちょっと待っててください」

 交換係の人は後ろに積んでおいたプレゼントの中から、番号通りのプレゼントを探し出して私たちの前に差し出してくる。

「はいどうぞ」

 カードと交換でプレゼントを受け取ると、次の人の邪魔にならないように端によけてから中身の確認をする。

 二人ともコンパクトなサイズのプレゼントだったので、帰りに苦労するとかはなさそうだった。

 というか、あの一番大きいプレゼント、私と同じくらいの大きさだけど、何が入ってるんだ?

「ひなちゃんひなちゃん。見てみてこれ、かわいいよ!」

 どうやら私を待ちきれなかったゆりちゃんは、さっそくプレゼントを開けて中身を私に見せてくる。

 それはネックレスやピアス、リングといった装飾品のセットだった。それも一セットだけではなく、色違いで二セット入っていた。

「こっちは私で、こっちの色はひなちゃんだね」

 ゆりちゃんはそう言うと、私に白色のセットを渡してくる。自分用には黒色らしい。

「逆じゃない?」

「いや、これでいいんだよ」

 まぁ、互いに似合う色を交換するのもいいとは思うけれど。私白って柄じゃないんだよなぁ。洋服も暗めの色が多いし。いやだからこそ白が映えると考えればいいのかな?

「ねぇねぇ、ひなちゃんのは何?」

 ゆりちゃんの次の興味は私のプレゼントらしく、急かすように私に詰め寄ってくる。

「待って待って、いま開けるから」

 私は詰め寄ってきたゆりちゃんを押しのけると、そっとプレゼントの包装を開け、中身を取り出す。

 中から出てきたのはよく分からない冊子が一つ。

 箱と中身の大きさが釣り合ってない気がしないでもないのだけれど。それはいま置いておくとして。

 で、なにこれ。

「カタログ、かな?」

 それを見たゆりちゃんは自信がなさそうな声でそう言った。カタログってなんの?

「見たところ旅行のカタログだね。ほら、この中に掲載されてるホテルとか旅館に行けるってこと」

 ほうほう、そんなプレゼントもありなのか。というかこれ単純にすごいと思うんですけど。なんか見ただけで高級そうなホテルとか乗ってるんですけど。こんなのもらってもいいのかよ。

「プレゼントとしては嬉しいかもしれないけど、クリスマスプレゼントって感じじゃないよね」

「まぁ、そうね」

「はい! 全員にプレゼント行き渡りましたね! 当たったプレゼントはお友達と再交換もあり、いらなかったらあげるもありということで、これにてプレゼント交換タイムは終了でーす!」

 とりあえず、私たちは交換も譲渡もしないで済みそうなプレゼントだったことは喜ぶべきだろう。


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