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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
冬の章
42/67

第三十三話「帰り道。帰る場所」



 無事に買い物を終えた私たちは、地元の駅に着くとそれぞれ帰宅の途についた。

 さなえは翌々日に控えたパーティの準備を手伝いをさぼりたいがために私の家に泊まりに来たのだと白状したので、一旦帰宅させ、繭染さんもなにやら明日家の用事があるので今日のうちに帰るという。

 そんなわけで、私とゆりちゃんはひさびさ、というわけではないかもしれないが、二人きりだった。

「楽しかったね」

「そうだね」

「ひなちゃんはどんなプレゼント買ったの?」

「それは秘密。教えたら楽しみがなくなるでしょ」

 他愛のない会話を、寒空の下交わす。

 自然と握っていた手の温もりが心地よい。

 特別ではない時間。なのに、こんなにも愛おしい。

 不安なんてない。不安なんてなかった。不安なんて……。

「どうしたの?」

 そう言ってゆりちゃんは私の顔を覗き込んでくる。

「いや、何でもないよ」

「本当に?」

「うん、本当に」

 ……本当に、嘘をつくことが上手くなったと思う。我ながら感心してしまうほどに。

「今度は、二人でお買い物行こうね」

「うん」

「映画も見に行こう」

「そうだね」

「あとは……二人きりで旅行とかもしてみたいよね」

「いいね。しようよ」

 そうやって、次を考えるのは、きっと今この時を失いたくないから。

 不安を口に出さないように、あえて明るい話題を振りまくのだ。

「クリスマスかぁ……みんなで祝うのなんて何年ぶりかな」

 しかも中学の同級生となんて、初めてじゃないだろうか。

「家ではしないの?」

「あんまり、かな」

 ゆりちゃんの家では毎年前日に祝うらしいが、今年は年末まで私の家にいることが先ほど確定したので、初めて両親以外の人と過ごすらしい。

 かくいう私は、そういうのはほとんどなかった。

 共働きのためクリスマスでも出勤していて、夜遅くに帰ってくるのと、お姉ちゃんもその日ばかりは友人たちと遊びに行ってしまうため、私は一人で家にいることが多かったのだ。まぁ、母親だけは早めに帰ってきてくれるので、二人で静かに祝うこともあるが。

 友人たちからも誘われることは誘われるのだが、当時の私は交友関係も広くなく、愛想も良いとは言えなかったので、その場にいても邪魔になってしまうだろうと考えて、あえて参加はしなかった。

 自分で言ってて少し寂しいな、これ。

「そうなんだ」

「だからさ、まぁ今年は、ちょっとだけ期待してるんだと思うんだ」

 初めてと言っていい友人、あるいは恋人とのクリスマス。

 それがいい思い出になることを、期待しているのだ。

「そっか」

 それきり、私たちは特に会話をすることはなかった。

 ただ、その沈黙は苦痛ではなく、むしろ心地よいと感じたのは、きっと不安があったとしても、今の私たちならば乗り越えられると信じていたからだと思う。



 家に帰るとすでに姉はどこか出掛けてしまっていた。

 両親もまだ帰ってくる時間ではなかったので、これで本当にゆりちゃんと二人きりということになる。

 私たちは荷物を置くべく部屋へと向かうと、何を思ったかゆりちゃんがいきなり後ろから私に抱き着いてきた。

「!? ど、どうしたのいきなり」

 ゆりちゃんの方から抱き着いて来てくれるなんて、嬉しいけれど恥ずかしい気もする。

「……すこしだけ。このままで」

 何かあったのだろうか。でも、さっきまではそんなそぶり一切見せていなかったし、一体どうしたのだろう。

「何かあったの?」

「なんでもないよ。それともひなちゃんは理由なしには抱き着いちゃいけないとか言うの?」

「そんなことは言わないけど、いきなり抱き着かれたりしたらびっくりするじゃない」

「それ、そっくりそのままひなちゃんに返してあげるね」

 そうですね、私が言えた義理ではありませんでしたね。

 でも、普段そういうことをしないゆりちゃんだからこそ、どうかしたのかと思ってしまうのだ。

「あのさ」

「なに」

「もしも、私が全部、何もかも思い出して、ひなちゃんから離れていったら、どうする?」

 離れていく。

 その言葉だけが、どこか寂しく耳に響いた。

「もし、万が一そんなことになったとしたら……」

 私は、どうするだろうか。

 ずっと想像して、ずっと不安で、ずっと考えていた。

 その答えを、私はゆりちゃんへとぶつける。

「そうだな……まずはゆりちゃんをもう一度口説くところから始めようかな」

「へ?」

 私はあえて明るい口調でそう言うと、ゆりちゃんは間抜けな声を上げた。

「私はさ、ゆりちゃんがたとえどんな風になっても、たとえ私以上に好きな人ができたとしても、最後には私を選んでくれるって、そう信じてるから。だから、私は私で、ゆりちゃんのために、ゆりちゃんを好きでい続けようと思うの」

 それが私の、私なりの答えだった。

 はじめは欠けたものを埋めるだけの存在だった。いつしか誰でもではなく、その人だからと思えるようになった。そして今は、この人ではなくてはダメなんだって、そう感じてる。

 もう迷わない。もう、迷いたくない。

 だから、私は何度だって好きだと、愛してると伝えるのだ。

「……なんだか、ひなちゃんらしいね」

「そうでしょ。言っておくけど、私ゆりちゃんが思ってる以上には、諦め悪いから」

 私は改めてゆりちゃんと向き合うと、そのまま優しく抱きしめて、こつんと額どうしを当てる。熱い吐息が頬にかかり、長いまつげが触れそうで触れない距離にある。

 昨晩、隣同士で寝ていたとき以上にドキドキする。初々しいとは到底言えないけれど、なんだかゆりちゃんのことを好きになった日のことを思い出して、恥ずかしい気分になってきた。

「今日は二人きり?」

「残念、もう少しでお母さん帰ってくる」

「そう、それは残念だね」

 ほんと、残念。

 でも。

 今この瞬間を、この想いを、ゆりちゃんと共有できたことは、ものすごく良かった。

 ゆりちゃんの体温が、私に伝わってきて。

 私の温度が、ゆりちゃんへと渡って行って。

 それだけで、こんなにも幸せだと思える。

 私はこの瞬間をいつまでも守っていきたいと、そう思わずにはいられなかった。



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