第三十一話「恋と愛と映画」
長い間お休みしていて申し訳ありません。
これからもゆっくり、しかしちゃんと更新できるように頑張っていきます。
「それで、君たちちゃんとプレゼントは買ってこれたかね?」
ぶれぶれのキャラをさらにぶれさせたキャラで私たちに話しかけてくる繭染さん。いいかげんキャラ固定してくれないとこちらとしても対応に困るのだが。
「私は買えたけど、ひなちゃんがね」
「まだ買ってないの?」
「いや、買ったけど……」
買ったけど、是非とも当日までは隠しておきたい。
あれから結局私たち、というか私は三時直前までプレゼントを選んでいた。別に何がいいのか分からずに悩んでいたわけではなく、目的のもの、気に入るデザインが中々見つからなかったのだ。
それに、極力ゆりちゃんにはプレゼントの中身を知られたくはなかった。
知ったら嬉しさも半減しそうだしね。
「それなら問題はないな」
と言ってさなえは満足そうな表情を浮かべる。何かいいことでもあったのかな。
「そんで、どうしてここに集合したの?」
なんとなくで聞き流していたので、ここ最上階にある映画館に来た意味が分からなかった。いや映画館に来たということは映画を観る以外にはすることなんてほとんどないのだが、映画なんて観る予定あったっけ。
私は電光掲示板に表示された映画名を流し見る。最近はほとんど映画を観ることもなかったし、そこに並んでいる作品名は知らないものばかりだった。
「あれ? 言ってなかったっけ? いやさ、買い物ついでに観たい映画を観ておこうと思って」
「私はさなえから直接言われたけど多分二人は初耳じゃないの。だってあれ二人の時に話題にでたやつだし」
そうなのか。それなら私が人の話を聞いていなかったわけじゃないということだな。
まぁさなえの話なんていつも話半分で聞いているし、それで困ったことなんて一度もないけれど。
「それで、なに観るの?」
思えばさなえとの思い出ってあまりない気がする。いつも隣にいたけれど、これといって特別なこともなかったし、そもそもさなえと仲良くなった経緯すらあいまいだ。
「そうね、あれとかいいんじゃない?」
というかさなえはどうして私と仲良くなろうとしたのか。だいたい私はあのころ別段同年代の人間と仲良くしようとか考えていなかったし、それに……中学生のころはあの子がいたから、私はそれだけで満たされていた。
「あー、あれかぁ。私はまぁいいけど」
それなのに、それなのにだ。さなえは何かにつけてはわたしを誘い出したり、用もないのにひたすら喋りかけてきたりと、当時は相当に面倒でうざったい人間のひとりだった。
「私もちょうどそれ観たかったです」
でも、今では感謝している、と思う。
あの子を失った私にとって、心の支えを失った私にとって、あの子以外のほんのひとかけらのような思い出でさえも与えてくれたさなえには、とても、とても感謝している。
失うしかなかった私ではあったけれど、この手の中に残ったわずかなものの中に、さなえがいてくれて良かった。
「で、比奈理はどう? あれでいい?」
「え? なに?」
無駄にさなえのことを考えていた私は三人の話をまったく聞いておらず、突然声をかけられて戸惑ってしまう。
「また話聞いてなかったなぁ。まぁいいけどさ。だから、観る映画はあれでいいよねって話」
私はさなえが指さす映画のポスターを見やる。タイトルと写真だけではどんな映画か分からない。が、もともと私はこれが観たいというものもなかったし、三人が観たいと思った映画で構わないのだけれど。
「うん、いいよ」
だからだろうか、自分でも自覚できてしまうほど無機質で味気なく、簡素な言い方になってしまった。
「……あんた、今どうでもいいと思ってるでしょ」
私って多分こういうところで人に心読まれてるんだなって、そう実感した。
時間が悪かったのか、はたまた季節が悪かったのか、すでに四人が並んで観られる席はなかった。
でも、観る分には一緒でなくても問題はないだろうと、私たちは再び二人ずつに分かれる形になってしまった。
しかし、その内訳に私は意義を申し立てたい所存であります。
「どうして私とゆりちゃんが分けられるわけ。意味わかんないんですけど」
「と、言われてもねぇ。こればっかりはどうしようもないといいますか」
「そうだね。当人である百合子ちゃんの意見でもあるし、聞かないわけにはいかないわけさね」
そうだけれど。
「ごめんねひなちゃん。でもせっかくみんなと一緒にお出掛けしてるんだし、ひなちゃんとだけじゃなくてみんなともっとお話ししたいかなって思ったの」
申し訳なさそうな顔をこちらに向けるゆりちゃん。そんなかわいい顔しても今の私には効かないんだからな。
「で、どうして私の相方がさなえなのさ」
「それはね、昔なじみというわけでさ」
「あと、私がちょっと繭染さんと話したいことがあって」
話したいこと? なんだろう、気になるな。
それに、私も繭染さんとは今一度話しておきたいことがある。
「さてさてお嬢さん方、あと五分で入場できるけど、何か買う?」
「はいはーい! やっぱり映画にはポップコーンがなきゃね!」
「私は飲み物買ってくるね。ひなちゃんとさなえちゃんは? 言ってくれれば私まとめて買ってくるけど」
「あ、私は飲み物と、あと軽食を少々」
軽食ってなんだ軽食って。
「ひなちゃんは?」
「うーん、じゃあ飲み物を買ってきてくれる。ゆりちゃんと同じやつでいいよ」
一緒に観れないのであれば、せめて飲み物を同じものにしよう。
今日は、それで我慢だ。
「だいぶ混んでますな」
「まぁ、この時期と映画が公開して日が浅いからね」
とは言っても、一回の上映での定員は決まっているし、外に比べればましだろう。
「画面で見た時よりも結構距離あるね、二人と」
「……そうだな」
私たちの席から斜め、三列前の席に座るゆりちゃんと繭染さん。声は聞こえなかったが、幸い姿は見える位置だった。
意外と楽しそうに話している二人を見て、私はちょっと、ほんのちょっとだけむすっとした表情になってしまう。
「なに話してるんだろうかね」
「……さぁね」
前にもこんなことがあったような、なかったような…………まぁ別にいいか。
しかし、入って席に座ったはいいけれども、本編が開始されるまではまだ時間がある。この時間って退屈なんだよな。
「さてはて、比奈理。私がこの組み合わせにした、というか百合子ちゃんがこの組み合わせにしてほしいと言った時は大層助かりました。実は私も比奈理にささいではありますが、ご報告が」
ご報告ってなんだ、ご報告って。普通に言いたいことがあるって言えばいいじゃないか。
「長内百合子、今現在ひとり暮らしですよ」
…………………。
「は?」
いまいちよく理解できなかったんですが。
「だから、百合子ちゃん。今ひとり暮らししてますよ」
「え、だって両親門限に厳しいとか言ってたし、てっきり一緒に暮らしてるのかと」
「そのあたりは私もよく分からないですが、この前偶然ですけど百合子ちゃんを街で見かけて声をかけようとしたのですが、普通に声をかけるのも味気ないと思いまして、後を付けてみたんですよ」
人の恋人に何してるんだこいつは。
「でですよ、私は後を追っている内に声をかける機会を完全に逸しまして、そのまま家までついて行ってしまったわけです」
それじゃあやってることストーカーと同じだぞ。
「私もてっきり百合子ちゃんは両親と暮らしてると思ってたんですよ。なんたって見た目からして育ちが良さそうですし」
その点に関しては同意せざるを得ないな。ゆりちゃんから放たれるお嬢様オーラは尋常じゃないからな。いや、私の個人的な感情もあるけれども。
「それでそれで、着いた先が何とも言えない高級感漂うマンションでして、中までは入れなかったですが、郵便受けの名前が『長内百合子』ってフルネームだったんですよ。親と暮らしていれば苗字だけだろうし、フルネームならひとり暮らし確定ですよねって話です」
「…………」
私は今どんな顔しているだろうか。驚いてる? 引きつらせてる? それとももう笑うしかないって感じかな?
感情という感情が沸き起こって混ざり合って、どんな反応をすればいいのかもう分からなかった。
ただひとつだけ、確かなものがある。
どうしてゆりちゃんはそれを隠していたのだろうか、という疑問。
繭染さんのこともあるし、もう頭の中がごちゃごちゃだ。
「お、もうすぐ始まるみたいだね」
そうこうしている内に辺りが暗くなり、目の前のスクリーンには映像が流れ始める。
一体どういう心境で映画を観ればいいのだろうか。
なんとも皮肉なことに三人が観たいと言った映画は、恋愛映画だった。




