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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
閑章・夏休み
15/67

閑話二「姉と妹・後編」


 ――1――


 薄暗くなった帰り道。

 私達は久しぶりに手を繋ぎながら通いなれたこの道を歩いていた。

 星が輝き、月が夜空に浮かんだ、いつもの夜。

 けれど、私にとっては特別な意味を持つ夜と帰り道。

 妹を、こんなに近くに感じたのはいつ振りだろうか。妹が高校に入学した時からほとんど買い物どころか会話すら満足にしていなかった気がする。あくまで気がするだけであって、妹がどう思っているかは不明である。

「お姉ちゃんはさ、例えば子供のときから好きなものと年齢を重ねて最近好きになったものどちらか一方を選ばないといけないとしたら、どうする?」

 突然の質問に、私は難しい顔になる。

 何かを言いたくて、何かを期待して訊いてくれているのは薄々感じるが、核心に一切触れず随分と抽象的な言い回しになっているので、一体どんな答えを期待しているのかが見えづらい。

「私は、今も昔も好きで、大切にしたいものは一つだから比奈が期待するような回答が出来ないと思うけど、強いて言うなら、最近好きになったものかな」

 それでも、可愛い可愛い妹の質問には答えなければ、姉失格である。ここで重要なのは答えることであって答えの内容は二の次でいいと私は思う。こういう問題はきっと、最終的には自分で回答を見つけないといけないから。私の回答は考えの材料程度に思ってくれれば上々なのだ。

「どうして最近好きになったものを選ぶの?」

「心は、想いは消えないけれど、色褪せていくから。劣化して、錆付いていつか重荷になるから。かな」

「それは、哀しいよ」

「形あるものはいつか壊れてしまう。それはきっと形のないものにも言えることだと思うの。いつまでも変わらず一つを想い続けることが出来る人なんて、ほとんどいないから。形を変えて、想いを繋いでいく。変化をしないものを愛し続けることは、想像以上に難しいことなんだよ」

 そんな、こと。と小さく呟くが反論は返ってこず、妹はそれきり何か思案する表情のまま歩き、私は黙って隣を歩く。

 夜空の星はもう雲に隠れて見えなかった。




 ――2――


 あれから私達は無言のままひたすら家までの道を歩き、家に着いても何やらぶつぶつ独り言を言いながら自室へと入っていった。

「大丈夫かな、比奈」

 不安になりながらも、私も荷物を置きに自室へと向かう。

「うわっと、びっくりしたなもう」

 自分の部屋に行ったかと思った妹が、電気も付けずに私の部屋の真ん中で仁王立ちで立っていた。

「どうしたの? 何か用?」

 私が問いかけてもこちらを見ず、一人何かを呟いている。

「比奈? 本当にどうしたの?」

 私は不安になり妹の正面に回り込む。

 まぁ、言ってしまえばすごいことになっていた。

「比奈、まさかそんな趣味が」

「だって! 今日お姉ちゃん誕生日でしょ! わ、私だって普段からこんな格好してるわけじゃないし、恥ずかしいんだから!」

 さっきは暗くてよく見えなかったがどうやら下は完全にショーツ一枚で、上は着ていたワイシャツの前ボタンをすべて取り、ブラジャーが見えていた。しかも、上下とも私が選んで今日買ったばかりのものだ。

「水着売り場でお姉ちゃんが会計に行ってたときに試着室借りてわざわざ穿き替えたんだよ。いくら個室だからって外で裸になるのはすごく恥ずかしかったんだから!」

 最後は顔を真っ赤にして怒ったような口調になっていた。恥ずかしがりながら私のために全裸になる姿を勝手に想像する。可愛いさしか感じないなそれ。

「でも、どうして誕生日にこんなことしようと思ったの? もっと普通にプレゼントくれても全然嬉しかったのに」

「そ、それは、その、ね。色々あって」

 まぁ普通にプレゼント何が欲しいか訊かれても「比奈のショーツ!」と迷いなく言いそうなので、それ以上をもらえたことはとても嬉しい。

「この誕生日プレゼントは今までで一番嬉しいよ。ありがとう」

 私は我慢が出来ず、妹に抱きつく。

「や、恥ずかしいからやめてよ。ばか噛み付くな吸い付くな舐めるな!」

「だってー、こんな姿見せられたら私我慢できないよー」

 抱きつきながら首筋を噛んだり吸ったり舐めたりする。最近の妹の汗の匂いはすごく豊潤な感じがする。

「あ、買い物の最中に着替えたということは、今この袋の中にあるショーツは比奈が朝から穿いてたものってこと? まさかこれもプレゼントしてくれるの!? ありがとう本当に嬉しい! 最近ガード固くてコレクション増やすの難しかったから本当に嬉しいよありがとう!」

「ちょっと待って、コレクションって何?」

 ……あ。

「昔からちょくちょくショーツがどっかいくなぁと思ってたけど、まさか姉さんが盗ってたの?」

 冷たい視線と声が部屋の空気を重くし、私は背中に嫌な汗をかく。

「あー、えっとー、そのー」

 なんとか言い逃れようとするが、もう遅かった。妹は抱きついていた私を引き剥がし、冷徹な眼差しを向けながら「コレクション、全部出して」と努めて無感情に言い放つ。

「えっと、はい。分かりました」

 逆らうことは出来ず、私は泣く泣く昔から集めていた比奈の成長記録(ブラ&ショーツ)を差し出すことになった。




 ――3――


「姉さん、私は出てきても精々三四枚程度だと思っていたのですが、何ですかこの量は。おかしいとは思わなかったんですか?」

 すべてのコレクションを出し終わった後妹は愕然とし、しばらく言葉を失っていた。

「こ、これはね、お姉ちゃんの愛情表現なんだよ? これくらいお姉ちゃんは比奈を愛してるってことなんだよ?」

「勝手に人のショーツを漁り、隠し持っているのが愛情表現ですかそうですか」

 それを言われるとなにも言えなくなる。

「で、姉さんは私のショーツなんか集めてなにがしたかったの?」

「それは……」

 大体想像つくだろう。それを眺めながら独り興奮してるんです。

「その表情で理解した。妹のショーツで興奮するなばか。私ですら姉さんのショーツにまでには反応しないから」

「それはまた別にお姉ちゃんの何かに反応するってこと?」

「え? あ……」

 流石姉妹と言った所か。私が妹のショーツで興奮するように、妹も私の何かで興奮するらしい。

 これは必ず聞き出さなければ!

「なになに? お姉ちゃんのどこに興奮するの? 言ってごらんほら。お姉ちゃん比奈の言うことなら何でも聞くよ? ほらほら恥ずかしがらずに言ってごらん?」

 私は妹に詰め寄り、逃げられないように壁際に追いやる。

 しばらく俯いて一言も発さなかった妹が、観念したようにぼそりと何かを呟く。

 消え入りそうな声だったので、聞き逃しそうなほどだった。

「ん? よく聞こえなかったからもう少し大きな声で言って」

 私が耳を近づけると、妹は上体を反らして私と距離を取る。

「だ、だから、お姉ちゃんの、その、に、匂いで……」

「比奈匂いフェチだったの!? お姉ちゃんと一緒だね!」

 私は大好きな妹と性癖が同じことに喜び、反射的に抱きついてしまった。

「お、お姉ちゃん。あんまり抱きつかれると、困るというか」

「どうして? 比奈は私の匂いで興奮するんでしょ?」

「だって、折角お姉ちゃんが選んで買ってくれたショーツが早速汚れちゃうと思うと、それは困るというか」

 久しぶりに妹の興奮して真っ赤になりながらも素直に本音を言う姿を見た気がした。

 最近は少し暗く、陰に覆われたような雰囲気だった妹が、今私の前では昔の素直でお姉ちゃんのことが大好きな(と思っている)妹に戻っていた。


 ああ、やっぱり私はこの子が大好きだ。


「今日は朝からずっと一緒だったんだから、この際お風呂も寝るのも一緒にしよう」

 私はささやくように言うと、今度は腰に手を回して妹の表情がよく見えるような体勢をとる。

「うん。でも今日だけだからね」

「ふふ、それじゃ早速お風呂にしよっか」

 私は買ってきた新しいショーツを手にとって妹を引き連れながらお風呂場へと向かう。

 やっぱり今日の夜は期待しておこう。

 いろんな意味で。




あと少しだけ閑話が続きます。

今度は出番の少なかったえりさちゃんが主人公のお話にしたいと思います。



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