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百合生活  作者: 和菓子屋枯葉
閑章・夏休み
14/67

閑話一「姉と妹・前編」


すごく間が開いてしまいました。

今回から夏休みのお話が始まります。

季節真逆ですが、頑張ります。




 はじめてその手に触れたとき、私は心の奥底に湧きあがる暖かな感情に戸惑いながらも、決して嫌な気持ちではなかった記憶がある。


 純粋に想うその心は、歳を重ねる内に形を変えて、徐々に卑しく不純になり、いつか溢れ抑えきれなくなると解っていても、私は彼女を想い、彼女の成長を見守るのだろう。


 例えそれが、許されることのない恋だとしても。




 -1―


「プレゼント、ねぇ」

 日曜の早朝、妹が作ったご飯をもっそりと食べながら、私はそう口にする。

 普段はあまり私を頼らない妹が、友達(と妹は言っているが、確実に恋人だろう)に誕生日プレゼントを贈りたいが、何が良いか分からないから買い物に付き合ってほしいと言うことだった。

 可愛い可愛い妹の頼みなので、二つ返事で了承したいところだが、私はあまり乗り気にはなれなかった。

 どうしてだろう。

 どうしてかな。

 理由なんて今更考えなくても解りきっている。

 私は、不満なのだ。

 妹が、可愛い私の妹が、他の誰かのためにプレゼントを買うということが。

 堪らなく不満なのだ。

「だめ、かな?」

 いつもはぶっきらぼうな妹が、今は私に申し訳無さそうな表情を浮かべ、目を潤ませている。

「仕方ないなぁ、今回だけだぞ」

 返答に間髪は入れなかった。

 こんな顔をされては断るなんて私には出来ない。

 私の心は既に不満よりも頼られているという充実感と、妹との久しぶりの買い物で高揚していた。

 それに、もう一つ別の意味でも今日の買い物は期待している。

 私の考えが正しければ今日の買い物は隣町まで行くだろう。だとすれば当然行く場所は限られる。あそこであれば何でも揃うから、妹も迷うことなくプレゼントは隣町のショッピングモールで買うはず。

 そう、何でも揃っている。

 そして今は夏。私も妹も夏休みに入っている。

 夏といえば、もちろんあれも大々的に置いているはず。あとはどう妹をその売り場まで誘導するかを考えれば完璧だ。

「ふふふ」

「よし、それじゃあ十時には家を出たいからそれまでに出かける準備しといてね」

 一人ほくそ笑む私をよそに妹は淡々と必要事項を述べて自室へと慌しく駆け込んでいく。

 時計は、午前九時半を差していた。




 ―2―


「早く準備する!」

 時計の針が十時を差した頃、私は未だ朝食を食べていたところを妹は「どうして準備してないの!? 十時には家を出たいって言ったじゃん!」と言われ、やむなく朝食を急ぎ済ませてから髪、洋服諸々を妹によって整えられいた。

「もうどうしてこういつもお姉ちゃんは鈍いのさ」

 ため息交じりの妹の言葉に、私は勤めて朗らかな笑顔で返す。

「いやいや、こんなにも頼りがいのある妹がいるから、私がしっかりしなくてもいいのだよ」

「まぁ私も別に今のお姉ちゃんが嫌いってわけじゃないし、いいけどさ」

 照れたように言う妹の顔は、愛おしくもどこか寂しさに満ちているようで。

 それは、あの時の妹の何もかもを諦めたような表情に似ていて。

 私の心を、掻き乱す。

「今日は隣町まで買い物行くから、お昼ご飯も夕ご飯も向こうで食べようと思ってるんだけど、いい?」

「もちろん! 後でお姉ちゃんがお母さんとお父さんに連絡しておくね」

「はいはい分かったから早く靴を履いて」

 靴箱から私愛用の靴を取り出すと、私の足を持って履かせる。

「世話が焼ける姉を持つと大変だね」

「自分で言うな」


 こうして私達姉妹は、夏休み入って最初の日曜日に仲良くお出かけすることになったのだ。




 ―3―


「やっぱりこういうのってぬいぐるみとか装飾品とかの残るものがいいのかな。それとも食べ物とか香水とかの無くなるものがいいのかな。ねぇどっちだと思う?」

 隣町に着いたときにはもう十二時近くになっていたので、私達はお昼ご飯を食べるために焼肉屋さんに入っていた。

「うーん、相手にもよるんじゃない」

 私は目の前で焼かれるお肉に夢中であまり妹の話を聞いてなかったのがばれたのか、妹は私の目の前で焼かれていたお肉を奪い取ると怖い顔で私を睨みつける。

「ちゃんと聞いてくれないと本気で怒りますよ姉さん」

「分かった分かったからお姉ちゃんのお肉取らないで。ね、だからそのお肉をお姉ちゃんに返してね」

「それで、もう一回訊くけど、プレゼントはどういうのが良いと思う?」

 どうやら落ち着いたらしい妹は再度私にプレゼントの内容を質問してくる。

 でも。

「私もあんまり人にプレゼントとかしないからなぁ。なんとも」

 お肉を頬張りながら私は妹のプレゼントについて頭を悩ませる。

「まぁまぁ、プレゼントは自分が気に入ったもので良いんじゃない」

「なんだか適当な回答だな」

「実際そんなものじゃないの。自分が気に入ってないものを人にあげても喜ばれないでしょう。それにその調子だと相手がどんなものが好きでどんなものを貰って喜ぶのか分かってない様だし、自分が気に入ったものでいいのよ」

 私は新しいお肉を網に乗せながら、少し真面目な口調で言う。

「でも、私が選んだ好きなものが、相手の趣味とか嬉しいものとは限らないでしょ」

「誕生日にプレゼント贈るってくらい仲のいい間柄なんだから、多少自分の趣味を押し付けたって大丈夫よ。それに、プレゼントは何だって構わない、プレゼントを贈るというその行為自体に意味があるって、誰かが言ってたよ」

 そんな適当でいいのかな。と呟きながらもご飯に集中することにしたらしく、お肉を焼くペースが速くなっていく。

「ま、そこらへんはものを見てから決めるとして、さっさとご飯を済ませよう」

「ご飯はゆっくり食べたい」

 私の言葉が聞こえていないのか、妹は次々とお肉を網に乗せていく。

 まぁ、休日に妹と一緒に外食が出来たことを喜ぼう。

「はい、ほい、やっと」

「ああ、そんな乱暴に扱わないであげて」

 やはり少しくらいゆっくりとご飯を食べさせてほしい。




 ―4―


 昼食を食べ終えた私達は、ショッピングモールの最上階から下に降りるようにお店を見て回っていた。

 ジュエリー店や雑貨店、ぬいぐるみがたくさん並んだお店などを回って、今は洋服を見ている。

「こういうのはプレゼントには向かないよね」

 と、洋服を流し見ながら、さっさと下の階へ行こうとする妹を私は引き止める。

「お姉ちゃん水着とか見たいなぁ」

「それ、今じゃないとだめなの?」

「あんまりここまでは来ないし、ついでに見ておきたいなぁって思ったんだけど、だめ?」

 私は胸の前で手を合わせるようにして妹に頼む。

 そして自分の水着やショーツを物色するついでに妹のショーツなんかも私好みのものを選ぼうという魂胆だ。私的には妹は大人っぽい色が似合うと思うので、黒とかをおすすめしたい。いや可愛い感じのピンクとかもいいかもしれない。

「はぁ、どうせお姉ちゃん私のショーツとか水着とか選びたいだけでしょ」

 呆れた口調で妹は図星をついてくる。

「最近お姉ちゃんが買ってあげたショーツがサイクルに入ってない気がするから、また新しく買ってあげようと思って」

「別にいいけどさぁ。私も最近新しいショーツ買ってないからなんだか段々少なくなってきてる気がするし」

 二年前に買ってあげた可愛いフリフリが付いたショーツを、今はあまり穿いてくれていないらしい。最近は自分で買ってきているすごく質素なショーツを多用しているので、姉としてはもっと色気づいてほしいのである。

 そして使用しなくなったショーツは私が回収したい。決していやらしい意味ではなく。

「それじゃ、早めに買い物済ませてよね」

「分かった! それじゃ早く行こう!」

 私は妹の手を引いて、興奮する心を抑えながら早足でショーツ売り場へと向かう。




 ―5―


 これほど素晴らしい空間がこの世にあったのかと、私は涙を流しそうなくらい感動していた。

 多種多様なショーツの中から可愛い妹に似合うショーツを探し出し、そしてそれを使用してもらう喜び。そして使わなくなったショーツは姉に献上してほしい。本当にいやらしい意味ではなく。

「これとか可愛いかも」

 手に取りながら吟味する妹に私は興奮が抑えられなくなってくる。

 ああ、あんな風にじっくりショーツを見る妹を見るなんて、なんだか変な気分になりそう。そ、そんなところも見るの? 私恥ずかしい。

「姉さん何してるの?」

 一人興奮していると妹が冷ややかな目でこちらを見ていることに気付いた。

 私は一度冷静になって自分の今の姿を見ると、売り物のショーツを顔に押し当てながら恍惚な表情をしていた。

 確実に危ない人である。

「べ、別に何も考えてないよ! ちょっと興奮しちゃっただけ」

「いや興奮って、男の子じゃないんだからショーツくらいで興奮しないでよ」

「そっちに興奮したわけじゃなくて……いやいい」

「なに、じゃあ何に興奮したのさ」

「い、いやね、比奈のショーツを見る目が、なんだかいやらしくて」

「普通に見てただけでいやらしいって」

 少しだけ戸惑った表情の妹も可愛らしかったが、今はそっちの表情を見たいわけじゃない。恥ずかしがっている、照れた表情が見たいのだ。

「傍から見ればお姉ちゃんのほうがいやらしいけどね」

「それよりこれなんかどう? 比奈に似合うと思うんだけど」

 私はさっきまで顔に当てていたショーツを広げ、妹に見せる。

「いや、悪くはないんだけど……」

「なに、私が顔を埋めてたショーツはだめって言うの?」

 私はふくれっ面でそう言うと、本命であるショーツを手に取る。

「じゃあこれは? いいと思うんだけど」

 黒にレースをあしらった可愛いと言うよりは大人っぽい雰囲気のショーツと、白の生地に大きなリボンが特徴の可愛いショーツの二つを妹の目の前に突き出す。

「うーん。どちらかと言うともっと普通のでいいんだけどなぁ」

「だめだよ比奈は可愛いんだからこういうところもちゃんと可愛いものにしておかないと、いざというとき困るよ」

 私が選んだショーツを私が脱がせれば完璧なのだが、そう言うわけにもいかないのが現実である。

「じゃあお姉ちゃんはこれがいいと思うよ」

 そう言って差し出してきたのは布の面積が少ない、いわゆるTバックだった。

「な、なんてモノをすすめるのよ!」

「だってお姉ちゃん結構お尻とか綺麗だし」

 私のお尻をそんなに見ていたのかと思うと、途端に顔が熱くなる。

「そんな目で見てないから恥ずかしがらないで! こっちまで恥ずかしくなるから!」

 両手を横に振り否定する妹だが、表情がまんざらでも無さそうなのは、私今日の夜辺り期待して待っていていいのだろうか。

「それじゃ私はこれを買うから、お姉ちゃんは私の分を買ってね」

「じゃ、じゃあ今日穿いたところお姉ちゃんに見せてね!」

「それは別にいいけど」

「よし約束ね!」

 言うが早いか私は一目散に会計へと歩き出す。

「その代わりお姉ちゃんもこれ穿いてるところ見せてね」

 最後の言葉は、聞こえなかったことにしておこう。




 ―6―


「これなんかどうかな? 似合うかな?」

 私達はショーツ売り場を後にすると、エスカレーターに戻るまでの道中水着売り場を偶然見つけた振りをして、折角だからということで物色することにした(全て計算済み)

「お姉ちゃんはなんだかんだいってスタイル良いからこういうのがいいと思うよ」

 と、見せてきたのが胸を強調したビキニで、私は戸惑った。そうか、妹はこんな水着を着た子が好みなのか。だけどこれは私より妹のほうが似合うと思う。

「私はこういうワンピースタイプが良いかな。ビキニとかは比奈のほうが似合いそうだし」

「私はあんまりスタイルに自信ないし、しかもあんまり海とかプールとか行かないからなぁ」

 確かに妹はあまり人ごみが好きではないから、シーズン中の海なんて行きたいとは思わないだろう。しかしそれはそれ、これはこれ。水着を買ったからって海やプールに行かないといけないというわけではない。むしろ家の中で着てお姉ちゃんにだけ見せてほしいなんて、割と本気でそう思ってます。

「じゃあ私がこれ買ってあげるね」

「いや私着るなんて言ってない」

「お姉ちゃんが折角選んであげたんだから、ちゃんと一回は着てね」

「まさか今日買い物に付き合ってくれたのって、これが目的なの?」

「ごめんよく聞き取れなかった。もう一度言って」

「いや、いい。もう諦めるよ」

 ため息をついて両手をあげるポーズをとる妹。これがお姉ちゃん権限の強制行使か。と自分でもちょっと強引かなと思いながらも、会計へ行く足取りは軽やかだった。

「私もお姉ちゃんのために何か買ってあげないとね。さて、どれにするか」

 怖いくらいの笑顔でそう呟くと、妹は水着売り場の奥へと消えていった。あの笑顔のときの妹は何か恐ろしいことを考えているときの笑顔だ。ちょっと不安になってきた。

「ま、まぁ大丈夫だよね。そんなに過激な水着売ってなかったと思うし……売ってなかったはず。売ってないよね?」

 と不安を拭うように口に出してみるが、さらに不安になるだけだった。




 ―7―


 この買い物の本来の目的は妹の友達(絶対恋人)の誕生日プレゼントを買うためである。

 忘れていたわけではなく、私の目的ではなかったのでただ単にあまり意識していなかったというのが本音だが、まさか私が見ていない内にプレゼントを買ってしまったというのだから、本当に私は何をしにきたのかと思わなくもない。

「しっかし、今日は結構お金使っちゃったね」

「そうだね。当分はお買い物できないかも」

 水着売り場を出て、下の階までお店を見ながらそれなりに楽しい時間を過ごした。

 一番下の階まで下がった時に「そういえば、プレゼントは買わなくて良かったの?」と訊くと「うん。もう買ったから」という妹の顔がなんだか水着売り場のときに見せた笑顔と同じ笑顔で、どことなく不安が大きくなっていく。

 友達、大丈夫かな。変なものプレゼントされないと良いけど。

「それで、今日はどこで夕飯食べていく?」

 買い物袋を振りながら訊いてくる妹に、私は少し考えて。

「地元まで帰って、いつものレストランでいいんじゃない?」と答える。

「そうだね。いつもの慣れた場所のほうが落ち着くし。それじゃ、さっさと地元まで帰ってご飯にしよう」

 言うが早いか妹はショッピングモールから出て、一目散に駅へと向かう。

「今日は楽しかったね。お姉ちゃん」

 後姿で表情は見えなかったが、きっと今日一番の満面の笑みだっただろう。声も心なしか弾んでいた。

「私も久しぶりに比奈と買い物出来て、楽しかった」

 自然と優しい口調で言う私の顔はきっと今すごく赤くなっているに違いない。


 そんなこんなで、今日は妹と一日デートしました。



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