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標準以上平均以下な、ニュージーランド短期語学研修とホームステイ

作者: Kassandra

私は空港から、カンタベリー大学に向かうバスの中で初めて、クライストチャーチの街並みを観た。異国情緒漂うわけでないが、高層建築物が皆無に等しく、代わりに、到る所に、公園や緑地があった。町には勿論英語が溢れるが、中には、日本語や、中国語、韓国語もあり、移民の多さと、他民族に対する寛容さを窺わせる。


カンタベリー大学に着くと、長い説話と短い昼食、大学についての説明を受けたのち、ホストファミリーを初めて知ることとなる。私のホストファミリーはなかなか、迎えにこなかったので、周りの様子を具に観察できた。最初は騒いでいたが、残り1桁になると沈黙の帳がおり、皆、焦燥とした表情だった。ついに彼らが来た。この時まで私は彼らについては、ごく断片的な情報しかなかった。彼らの名前や住所を、ウェブで検索しても、住宅の外観以上の情報は事前学習できなかったのだ。期待と不安と投げやりな気持ちは、すぐに無力感に変わった。こちらの英語は、彼らに間違いなく通じているのは解る。彼らが英語を話しているのも解るが、違うのだ。リスニングCDやABCニュースの英語と。私はこの時初めて、ニュージーランド固有のスラングの存在を意識した。


 ステイ先は老夫婦二人のみの家庭で、3人の息子はすでに独立していた。望郷の念を抱くことはなかった。むしろ、あと二週間位は、ここにいたかったくらいだ。彼らの暮らしで奇異に感じるところはなかった。彼らに、自分が積極的に友好関係を築きたいと考えていることを示すために、常にドアと窓を開けておいた。確かにストレスを感じたが、早く打ち解けるためには、安いコストだ。クライストチャーチ市はガーデニングシティと呼ばれるほど到る所に緑地があるが、例に漏れず、ここもそうだったが、まだ庭づくりの最中だ。聞けば、これは築十八年の別荘だそうで、本宅は、先の大地震で潰れたが、幸いにも、親類は皆、無事なようだ。地震を身近に感じた瞬間であった。しかし、キャッシュメア地区にある別荘でも、地割れの被害があった。キャッシュメア地区は近所付き合いも微温く、クリスマスパーティも有るほどだ。それに参加はしたもの、日本でも日頃このような場に出ないため、ふるまい方が分からず、さらに知り合いもいない。挨拶以上の話題は当地域をべた褒めする以外なかった。


 カンタベリー大学で、英語研修があった。ここも地震の被害を受け、修理中だ。主内容は実践的な英語で、会話をメインに進めていく。こちらの学校では、十一時ごろにモーニングティーの時間があるうえ、授業中でも飲食自由である。日本でも飲み物くらいは許可してほしいものだ。十五人くらいが一人の講師につく。我らが担当は、朗らかな方だ。彼女は、宿題の日記を、毎日親身になって添削してくれた。

 午後には数種の団体活動があった。一番楽しめたのは、アカロアという自然豊かな所でのクルージングだ。初回の授業が短くなり授業に支障が出るので、はずれだと思っていた。が、貴重な晴天に恵まれ、ニュージーランドにしかいない小さな小さなペンギン達、飛び跳ねるイルカ、アシカの尻尾などが見られた。また行き来の車窓からは市街とは違う、牧場が延々と広がる眺めを観た。


 研修の半分が過ぎたところで、マウントクックへの1泊旅行があった。この山の周りの湖水中には、微粒子が多く含まれるため、青天を映し出し、清麗な趣であった。宿泊したホテルの部屋は、事前の煽りの為に、拍子抜けしたが、食事は美味しかった。翌日のハイキングは、日本でなかなか見られない植生の自然の中を歩いた。途中、吊り橋が三つあり、その上から注意して見る景色は、殺伐としていると感じる人もいるだろうが、私は好きだ。ハイキングの目的地である氷河湖に着くと、その湖水も、やはり空色で、流氷も浮かんでいる。流氷が岸に流れ着いたのがあったので、石を投げつけて、手ごろな大きさにする。

これを茶菓子に、紅茶を飲む。うん。いい。


 午後が自由行動の日もあった。ある時は、クラスの皆と会食してから、日本にいる恩師へ寄せ書きを送り、お土産をさがした。ある時は、単独で美術展に行った。コンピュータグラフィックをそのまま芸術作品にしたものには、こんなものもあるのか、と舌を巻いた。また、近くの新しいクライストチャーチカテドラルにも寄った。この紙で作られた聖堂は、外観は個性的だが、内部に入ると、圧迫感を感じる。ホストファミリーに聞いた話によると、地震で壊れた古い大聖堂を修理して使用すべきと、声を張り上げる集団もあると聞いた。もっともな話と思った。


 ホストファミリーの子供たちにも、世話になった。一人とは、丘の上までドライブした。その眺めは、驚嘆に値する。ここからなら飛べるかも、と思わせるくらいだ。もう一人とは、海にセーリングに出た。こんな小型の帆船に乗るのは、初めてだ。彼は親切に、船上での注意と操舵のやり方、ロープワークについて教えてくれて、実際に、渡しに舟を動かさせてくれた。この二つの出来事の後、英語が上達したとホストファミリーに言われたことを追記しておく。


 英語研修の一環としてスピーチコンテストがあった。周りの生徒のやる気のなさに担がれ、選考すらなくグループ代表に決まった。これが最初で最後の現地の、まとまった英文を書く機会だった。テーマは、自由で、ニュージーランドでの英語の聞き取りについての話題を選んだ。添削×2、全文手書き×3、模擬発表×2の後、予選での発表になった。発表後、審査員に先生方に、「いいスピーチでした。私はあなたのスピーチが好きです」と言われて、これは負けたな、と感づいた。負けた理由は、話題が独善的だったためと、時間を気にするあまり話す速度を上げたためと、平易に改めたつもりでも、まだ難解だった語彙のため、そして何よりも、聴衆が着いて来れなかった為だと思う。今になって惜しいところは、もっと時間をとって聴衆が静かになるのを辛抱強く待てなかったところと、ゆっくりとスピーチするべきであったというところだ。結局、持ち時間を過ぎて話し続けたものがいたが、切られることはなかった。添削に時間を割いてくれた先生には申し訳なく思うが、緊張せずに楽しめたので、満足している。


このようにして、研修旅行は幕を閉じた。最後に、個人的なことを書く。この研修では、普段、日本であまり使わないことを総動員しなければならないことがある。まるで、普段動かさない筋肉を動かすかのように。英語はもちろんなこと、相手は何を考えて、何をしようとしているのか。感性、というものであろうか。日本での生活では、絵を描くときと、試験中以外使わないくらい鋭敏にする。他の家庭と比べるなと言われても、無意識に比べてしまう、それを口に出さない自制心。他の言語に翻訳するゆとりのない中での、英語の思考回路。

 三週間という短い期間であったが、たくさんのものを得た、この異文化接触であった。



皆さまからのコメントをお待ちしています。。。詳しいことを聞きたい方も是非連絡をください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的には非常に読みやすい文章でいいと思いました。 日常についてもっと詳しく話してほしかったです。何を食べたか、老夫婦の様子や、街並み、家の様子、夜空に浮かぶ星々や、自然の様子など… [一…
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