お父さんはみそっかす。1
久々更新です。
「ゼノン放してちょうだい。」
おはようの挨拶も無しに愛する妻のミチルが言い捨てる。
ゼノンは後から妻を抱き締めた手に力を込めて、首筋に顔を埋めた。
放さないぜ、という意思表示だ。
「…今日はスミレと出かける約束をしてるのよ?」
「…っ!」
動揺が走ったようだが、相も変わらず抱き締めたまま。
仕事が立て込み、中々家でゆっくりと過ごせなかったのが原因だろう…とミチルは思った。
可愛らしいと思う半面めんどくさい鬱陶しいと思う感情が7割ほど。
「…俺なにも聞いてないんだが…」
「スミレが言わないでって頼んできたから言わなかったわ。
付いてこられると嫌だからって。
お友達のプレゼント選びに買い物行きたいらしいの。
ほら、花屋カフェの娘さんのアリアちゃん……ってゼノンは知らないわよね。アリアちゃんは… 」
「唯一の友達だろう。
遊びに行く前は何時もはしゃいでる。直接会ったことはないがな。」
ミチルは目を見開いた。
ゼノンの事を、控え目に言って疎ましく思っているような態度を取りがちな娘がそんな姿を見せるようになったとは!
娘の態度の原因はほぼ全てゼノンといってもいいので仕方がないと思う半面、なんとかならないだろうかと頭を悩ませていたミチルは嬉しくなった。
少しずつ歩みより始めた父娘に一安心しかけた…が、
「魔術具で聞いたからな!」
の一言に呆然となる。
「魔術具…?」
「いつぞや犯罪に巻き込まれるか分からないからな。
見守る為や安全確認の為に魔術具を配置している。
どういう訳だかアリアという娘の部屋だけは聞き取ることはできないが、大体の事は把握している。」
「…盗聴に盗撮、最低ね。もう二度と口きいてもらえなくなるんじゃない?
自業自得ね。」
「愛ゆえにだ!父の愛だ!」
「そんな愛など丸めて棄てろ。」
焦るあまりゼノンが手をゆるめたため、ミチルは起き上がる。
「知られる前にやめなさいね。
今度こそ軽蔑されたあげくに一生口をきいてもらえなくなるわよ?」
「…残念です。
もう聞きました。」
静な、しかしよく通る声が聞こえた。
「朝御飯できたようですよ…。」
寝室用のドアか少しだけ空いており、娘のスミレが顔をのぞかせていた。
冷やかな視線を感じる。
そしてそのまま去ってしまった。
「あーあ。
もう最低ね。聞かれていたみたいよ。」
ミチルが頭を抱えると、呆然としていたゼノンが復活しのたまった。
「なにも言ってこないという事は受け入れたと言うことだろう!
俺の思いが通じたという事だ!」
なにその無駄なポジティブ思考…ミチルは呻いた。
年のわりに落ち着きすぎているスミレがそんな風に思うはずがない。
大人よりも知恵が回ると常々思わざるえないのだ。
なにかしでかさないと良いのだが…
ミチルの不安は的中した。
数分後屋敷に爆発音が響き渡り、スミレの部屋は半焼したのだった。
スミレちゃんは魔術具がついてそうな物を片っ端から魔術で燃やしました。